BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
70
[神様からもらったチャンス(三浦理恵子)]
オレは・・・いやオレ、藤田一輝と谷村理恵子は伊達俊介と東田尚子が来るのを待っていた。
18時過ぎに墓地で御影英明と他の二人に襲撃を受け、離れ離れになったのだ。
襲撃してきた三人がチームを組んでいたのかは判らないが、御影の奴がオレに銃を向けてきたのは間違いない。
だが、不覚にもオレは御影を討ちもらしてしまった。
その直後に東田が撃たれ、伊達が攻撃のために突っ込んでいった。
オレは奴を援護するために銃を撃ったのだが、視界の端っこで御影の姿が見えた。
伊達が御影達に挟み撃ちされないように倒しておこうと後を追ったが、あっさりと見失ってしまった。
頭に血ものぼっていたしな・・・。
そのうち銃声も止んだので、オレ達はそのまま待ち合わせの場所であるA−3へ向かった。
もちろん墓地に戻る事も考えたんだ。
だけど、それだけは出来なかった。オレ一人ならともかく、理恵子もいるのだ。しかもコイツはケガまでしている。
悪いとは思ったが、オレはまっすぐ待ち合わせ場所へ行った。そこで二人が来るのをじっと待った。
動きまわると危険だし、行き違いになる恐れがあったので、二人して薮の中にじっと隠れていたのだ。
そして深夜0時の放送で東田が死んだのを知った。
理恵子の泣き顔を見てオレもぐっときた。
オレの頭に東田の品のある顔が不意に浮かんだ。
女の子にこういう言い方はふさわしくないかも知れないが、凄くいい奴だったのに…。
オレは黙って理恵子の肩を抱く事しか出来なかった。
と、同時に伊達の安否が心配になった。
あの伊達が東田を置いて逃げる訳はない。という事は奴も何らかの事情からここまで来れないという可能性が高い。
かなり迷ったが、オレは結城真吾に言われた通り、理恵子の安全を優先する事に決めた。
結城の奴もこのエリアに来る可能性があるのだ。
オレは息を殺して待つことに決めた。
───もうすぐ夜が明ける。神よ、オレ達を無事に仲間と会わせてくれ。
オレが住んでいるカソリック系施設で礼拝の時にやるように十字を切り、明るくなってきた空を仰いで祈った。
だが神様はオレに優しくなかった。
ガサガサという草ずれの音と共に何かが動く気配がした。
一瞬結城か伊達が来たのかと思い、声をかけそうになった。何とか思いとどまり、木の陰から音のした方向を見た。
暗がりでよく見えなかったが、多分男子だ。
誰か判るまでは声をかけずやり過ごそうと考えたオレは頭を引っ込めようとした。
途端にオレが寄りかかっていた木の枝がボキッという鈍い音と共に折れ、オレはつんのめるような格好で転んだ。
同時に銃声が響いた。
§
小野田進は薮の中から飛び出した人物に向かって発砲した。
暗くて誰か判らなかったが、とにかく敵である事は確かだった。
ひび割れたメガネを空いている左手で動かしてよく見ると、その人物は藤田一輝だった。
昨日の昼前に漁業組合の事務所に押し入り、若松早智子を襲ったがあっさりと逃げられた。
追いかけようとしたところで一輝に出会い、銃を向けたのだが弾切れのため逆に殴られて失神させられたのだ。
昨日の借りを返すチャンスだったし、何より谷村理恵子と連れ立っていたはずだ。
一輝さえ始末すれば、理恵子を自由にできる。
正に一石二鳥だと思ったのだ。
だが、それは甘かった。一輝は転倒したあと、横に転がると素早く銃を抜いていた。
マシンピストル WZ63が吼えた。
「ひいいいぃぃぃぃ」
情けない声を上げながらも、進は自身の持つリボルバー ブルドッグで反撃した。
「いっちゃん、大丈夫?」
銃声の合間を縫って、理恵子の声が聞こえた。
「下がっていろ!」と、一輝が理恵子を制した。
一輝の体が、身を隠している木から大きく左にはみ出した。
今までと違い、両手で構えた進はゆっくりと引鉄を絞った。
バンッ
心なしか、銃声も今までとは違うように思えた。
一輝の左胸がほころび、コマのようにくるりと反転したあと、仰向けに倒れた。
「ははっ。ははははは、やった。やったぞー」
進は一瞬呆けてから、ガッツポーズをした。
あの不良連中のボス、藤田一輝を自分が倒したのだ。
そして次は…
「へっへっ…藤田に捕まっていたの? もう大丈夫だよ、奴はオレが殺したからね」
そう言いながら倒れている一輝をまたぎ、理恵子に近づいた。
「あなたは…なんてことを……」
理恵子は怒りに震えながら言った。それをどう誤解したのか、進は
「お礼なんていいよ、ちょっとだけ大人しくしていてくれれば…」
と言いながら理恵子に手を伸ばしてきた。
「いやっ近寄らないで! い、いっちゃーん」理恵子は思わず叫んだ。
気色の悪い笑みを浮かべる進の肩がぐっと握られた。
ふりむこうとした進の顔面に拳がめり込んだ。
理恵子の声が届いたかのように一輝が立ち上がっていた。
「いっちゃん、大丈夫なの?」
理恵子は涙で濡れた頬を拭こうともせず、一輝に駆け寄った。
まだ足元がおぼつかないようでふらふらしているが、特に出血しているようではなかった。
「ここに来てオレに支給された武器がモノをいったぜ…」
一輝は理恵子に心配をかけまいとおどけたように言った。学生服の内ポケットにしまっていた支給武器を、不思議そうな顔をしている理恵子に見せた。
一輝の手の中にあったのは、なんとお好み焼きのコテであった。進の銃弾を受けたのか、取っ手の部分が大きく逆に曲がっていた。
笑顔が戻った理恵子を抱きしめた一輝は、天を仰ぎ
「祈りが届いたのか? なかなか味なコトをしてくれたぜ」とつぶやいた。
クセのある理恵子の髪を撫ぜながら「よし、ずらかるぞ」と言った一輝は、急に理恵子を突き飛ばした。
小野田が銃を構えたまま突進してきたのだ。
「クソがぁ……」
一輝は吠えながら進の手に飛びつき、銃を撃たせないようにした。
体も細くて、背の低い小野田とは思えないパワーだったため、一輝は虚を突かれた形になった。
「じゃ、邪魔するなーーー」
色に狂った小野田ともつれ合いながら、一輝は斜面を転がり落ちていった。
【残り 15人】