BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
76
[ESCAPE(Moon CHILD)]
「朝宮担当官、生徒が一人車で突っ込んでくるようです」
陸奥一茶二等陸士は、レーダーに映る光点をチェックしている技術仕官より報告をうけ、担当官である朝宮みさきに報告をした。
「誰だ、そんな無謀な事をするやつは」
みさきは少し顔を上げただけで、書類にペンを走らせ続けた。
「はっ、男子13番 伊達俊介です」陸奥の返事にみさきの手は止まった。
少しの間を置いて
「しばらく様子を見ていろ。どうせこのエリアには入ることは出来んのだからな。おかしな動きがあれば、すぐ報告をしてくれ。
直前に伊達俊介と接触した者がいれば、その際の盗聴記録を頼む。技術仕官に任せず、お前の手で調べてくれ」と、命じた。
陸奥が退室したあと、クセのようにペンダントを握り締めた。
───なにをやってくるつもりだ…
みさきの体が震えだしていた。
恐怖のためではなく、武者震いであった。
俊介は巧みにハンドルをきり、山道を駆け下りた。
だが体中の力が抜けていき、それも限界だった。
もうそろそろ「本部」のエリアに入る頃だ。そこからは一本道なので、問題はなかった。
「冬哉、英明…もうすぐ会えそうだ。最後に…お前たちの分も力…貸して…く、く…れ」
左に一度ハンドルを切り、1秒ほどで右に切ったとき正面に道が開けた。
俊介の目に本部の建物が映った。
最後の力を右足にこめ、アクセルを強く踏みこんだ。
にっこりと笑った俊介の手がハンドルから滑り落ちた。
───俊介、お前にもらったこのチャンス、無駄にはしないぜ
真吾は俊介のトラックが姿を現すのを待った。
スピードは軽トラックの方が上だが、真吾と雪菜は一直線に駆け下りてきたので、貯水池を回りこむように走るトラックよりは早く着いたのだ。
本部のあるE−5と真吾達のいるD−5の境界に杉の木が二本生えていた。
トラックがそれを越えるまでが勝負だった。
真吾自身はステアーAUGとグロスカリバーを持ち、雪菜にはブローニングハイパワーを渡していた。
元は福田拓史に支給されていたが、俊介が病院にいる際グロスカリバーと共に入れていてくれたものだ。
車の音を耳にした真吾はAUGを構えた。
スコープをのぞいて3秒も立たないうちに軽トラックが出てきた。
───俊介、ありがとう
本部に向かって走る軽トラックに、真吾は引鉄を引いた。
AUGから発射された5.56ミリ弾は正確にタイヤを貫き、トラックを横転させた。
荷台から投げ出されたプロパンガスのボンベが坂道を転がり落ちていく。
───これからが勝負だ
真吾はAUGとグロスカリバーを持ちかえると、仰角用のスラスターを立て次にそなえた。
「雪菜…」
真吾は雪菜の顔をじっと見た。
「なに、真吾」
雪菜も真吾の顔を見た。
真吾は雪菜の頬を撫でると「いや、何でもない」と言って「本部」の方へ視線を戻した。
プロパンガスのボンベは「本部」の手前で失速し、もう止まりかけている。
真吾はグロスカリバーを肩着けし、本部に向けて第一弾を放った。
放物線を描きながら飛んでいった弾は「本部」のプレハブ屋根を貫いた。
二階部に飛び込んだ時限式の弾は正確に2秒後爆発し、無数のベアリングを撒き散らした。その部屋の通信機器も人間も同じように蜂の巣になった。
続け様に放った第二弾は焼夷弾だった。
初弾と同じような軌跡を描いて飛び、隣の部屋に飛び込むと部屋を火の海へと化した。
「よし!」
真吾は再びAUGを手に取ると、プロパンガスのボンベを狙撃した。
1発目と2発目が弾かれ、3発目が命中した瞬間、轟音と共に爆発が起こり本部の壁に張られていた鉄板が剥がれ落ちていた。
「It’s show time!」
真吾は思わず口にしていた。
「朝宮担当官、度々すみません。先ほどの伊達という生徒ですが…」
陸奥は報告のために、みさきの前に立った。
「なんだ」
みさきは先ほどと違い、興味深そうに報告を待った。
「はい、D−5からE−5エリアに入る寸前に横転しまして、ここへはたどり着けませんでした。運転していた伊達俊介もD−5エリアですでに心停止状態だったようです。
E−5エリアに入った時点で死亡信号が発信されていたため、首輪も特に作動しませんでした。
それからこちらが盗聴の記録です。カメラは連中が小細工をしているようで、何も映っていませんでした。接触していた生徒は結城真吾と沢渡雪菜、本田洋子の三名です。以上です」
陸奥は報告を終えると直立し、次の指示を待った。
みさきは陸奥から受け取った資料に目を通していたが、ある個所で目が止まった。
陸奥にはみさきの目が潤んだように見えた。
「よし、今度は結城真吾と沢渡雪菜を重点的に監視しろ」
と、陸奥の方を見ずにみさきは命じた。
陸奥が敬礼をして退室しようとしたその時、「本部」の2階で爆発が起った。
「何事だ!」
みさきの叫びに轟音が重なった。
報告を待つまでもなく、明らかにこの「本部」が襲撃されているのだ。
「被害状況を報告しろ!」
陸奥に命じたみさきの後方で、爆発音と共に壁が弾けとんだ。
爆風による空気の震動で、みさきは気を失っていた。
【残り 6人】