BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
9
[まちぶせ(石川ひとみ)]
もうすぐだ・・・。もうすぐ、あの時の恨みを晴らせる・・・。
どんなにこの時を待っただろう・・・もうすぐだ・・・。
そう思うと、軽く体が震えた。武者震いというヤツであろうか?
これほどまでに、自分の中でドス黒い「恨み」という感情が渦巻いていたのかと逆に感心さえした。もし、この「プログラム」というチャンスが無ければ、自分は一生この恨みを心の中に住まわせていなければならなかったという事になる。そう思うと、また体の芯から新たな震えが来た。
「本部」からこのF−9までは約3km。山道や闇の深さ、そしてクラスメイトを警戒しながらという事を考慮に入れても、もうすぐ全員集まるだろう。
このF−9は島から出っ張ったような形になっており、片側をコンクリート整形して波止場のように使っている様だった。見通しがよいので待ち伏せするには不向きかと思ったのだが、都合のいい事に整形されていない側は岩があちこちにあり、所々窪みもあったので十分隠れていることが出来た。
それにしてもターゲットのうちの一人、上島裕介があの朝宮とかいう女と防衛軍の兵士に殺された時には本当に胸がスーッとした。特にアイツの姉が強姦されたという事を聞いて・・・。そしてアイツの死体を見て決心したのだ、あの恨みを晴らそうと・・・。
そこまで考えた時、足元で「ううぅ」という苦しそうな声が聞こえた。
そうだ、こいつにも感謝をしないと・・・。 こいつのおかげで強力な武器が手に入ったのだから。
何せ自分に支給された武器は、不良たちがケンカの時に自分の拳につけて使うメリケンサックだったので、一度に何人も相手にするのには圧倒的に不利だったのだ。あいつらを呼び出す事が出来ても多勢に無勢だし、ましてや相手が銃を持っていれば逆にやられるのはこちらの方なのだ。どうしようかと考えている時に、のこのことこいつがやって来たのだ。こいつが小心者で良かった。
その足元には相沢芳夫(男子1番)が猿ぐつわをされ、後ろ手に縛られた状態で転がっていた。一見して相撲部かと思うような外見とはうらはらに、彼は吹奏楽部に所属し放課後はいつもホルンを吹いていた。実に温厚な人物であった。
先に始末しようかとも思ったのだが彼には関係が無い事だし、かといって騒がれたり逃げられでもしたら厄介なので頭を数回殴って気絶させておいたのだ。意識が戻りつつある相沢の耳もとで
「静かにしていろ! 騒がなければ殺しはしない」そう言った。
相沢は小刻みにうなずいた。「分かった」という意味だろう。相沢とやり取りをしているうちに来たようだ、獲物たちが・・・。
「おい、いるか? オレだ、三浦だ。柴田も一緒にいる」
「ここ、ここ。オレも今来たところや。あれっ、堀は?」と、高橋聡一(男子12番)の声がした。
危なかった、こんなに近くにいたなんて。相沢が騒いだりしていたら終っていたところだ。
「堀が外で待っていると思ったんやけど、出口で迫水が死んでたやんか。あいつ気が小さいからそれでビビッて真っ先にここに来ていると思ったんやけどな?」三浦信彦(男子19番)が言った。
「山の方から銃声もしてたやろ? それで迂回してるンと違うか?」高橋が少しイラついたように言った。
くそ! 堀はいないのか・・・だが、あまり時間は掛けられない。決行だ!
「それにしても柴田、よくあんな時にこの場所を書いて回せたよな」と、柴田誠(男子11番)から紙片を受け取った高橋が言った。だが柴田は首を横に振った。
「オレじゃないねん、あれを書いたの。あれを書いたのは────」
そこまで言った時、彼ら3人の足元に石が転がってくる様な音がした。3人とも一瞬、体が硬直した。誰かが来たと思ったのだ。
「・・・堀か?」と三浦が言いながら、彼に支給されたスペズナズ・ナイフを腰の革ケースから抜いた瞬間、白い光が彼らを包んだ。光と同時に空気が震えるほどの大音響がしたが、3人の耳には届いていなかった。
彼らの足元に転がってきたのは、─────本来は相沢芳夫に支給された武器────「アップル」の愛称で知られるM64手榴弾だったのだ。
「やったぞ!」待ち伏せしていた人物が、隠れていた窪地から出てきた。
そこには大きなボロ雑巾のようなものが3つ転がっていた。もう動かなくなった3人に近づくと、そこには完熟したトマトを風呂桶に一杯分地面に叩き付けたかのように血や肉片が飛び散っていた。
それを見て、にやっと笑いながら彼らの武器を拝借しようと辺りを探した。遺体の体型から分かったのだが、高橋の武器はコンバット・ナイフだった。そして柴田の武器は─────これが一番手に入れたい物だったのだ────短い銃身のライフルであった。こいつがあれば、残りの連中も倒せる・・・。
三浦の武器は爆風でどこかに飛んでいったのか見つからなかったが、そんな事はどうでも良かった。体の奥から、先ほどと同じ様な震えがおきてきた。
「あと4人か、必ず・・・やってやる!」
自分の決心を口にした。先ほどから手榴弾の爆発のためか自分の声さえはっきりと聞こえなかったが、この言葉だけは聞こえたような気がした。
銃に弾を込め、荷物をまとめると先ほどまで隠れていた窪地に戻った。
「約束どおり、殺しはしない。武器を返す事は出来ないから、変わりにこれを持っていってくれ」そう言って自分に支給された武器のメリケンサックを相沢のバックの上に置いた。そして銃口を相沢の頭に押し付けたまま、彼の両手を拘束していた赤い色のビニールテープを解いた。そして相沢に立つように言うと、数歩下がって
「この波止場の上を歩いて行くんだ。妙なマネをしたら後ろからこいつで撃つからね・・・」と、言った。
相沢は猿ぐつわをしたまま、先ほどと同じように小刻みにうなずくと、自分の荷物を持ち素直に従った。
相沢が東町の方へ歩いていくのを見送る際、無関係の彼を巻き込んだ事に少し心が痛んだ。
だが、それも一瞬だった。
見ていろよ、お前たちを必ず狩ってやる。そうだ、たった今3人をしとめた自分はハンターだ! お前たちの様なケダモノを狩るハンターなのだ!
もう一度、ボロクズの様になった3人の死体を見ると「ハンター」は山に向かって歩き始めた。
残った4人のターゲットを探すために・・・。
【残り 36人】