BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽 〜
エピローグ 1
[強く儚い者たち(COCCO)]
「済んだぞ…」
朝宮みさきに言われて、俺は手を離した。
同時に、この手で押さえていた女性が病室の中に入っていった。
ゆっくりと閉まっていくドアの向こうに、沢渡雪菜の姿が見えた。
俺には軽く会釈をしてドアを閉めるのが精一杯だった。
「大丈夫か?」
問い掛けるみさきから視線をそらしながらうなずき
「行きましょう」
と言って、自ら歩き始めた。
「無理をするな、お前もまだ入院中の身なんだからな」
体調を気遣ってくれるみさきに
「泣けてくるほどじゃあないですよ」と答えた。
「やせ我慢をしやがって…」と言って、みさきはため息をついた。
「全く、お前も沢渡も苦労をかけてくれる」
さらに、ボヤくみさきに
「スイマセーン」
俺は少しふざけるように言った。
「それにしても、あの日、お前がベッドに寝ているのを見た時には、心臓が止まりそうになったんだぞ。よく脱出できたな」と、訊いてくるみさきに
「爆薬が残っていましたからね。そいつを爆発させて、火を消したんですよ。あそこは斜面になっていて洞窟もあったから、それをやるにはちょうど良い状態でした。後は体中に泥を塗りたくって…」と、説明をしたが、それは途中で遮られた。
「そうじゃあなくてアレだ、よく外せたな」
と、みさきは首を触りながら言った。
説明をするには、いい機会かもしれないと思った。
「永井達也(男子14番)の資料には一世代前の首輪についてしか記されていなかった。でも、新井真里(女子1番)がヤマテツカンパニーと政府の中央演算処理センターにハッキングをかけて、手に入れたものには最新版があったんです。それで首輪が四層構造になっているという事と解除キーの形状が判りました」
「新井真里か? 彼女がハッキングをかけたのは『プログラム』中に資料を調べて判っていた。電話は全て止めていたのに、まさか衛星携帯を持っているとは…かなりの腕前だったようだが、侵入のパスワードはどうやって手に入れたんだ?」
不思議そうに言うみさきに
「彼女は永井のことをいい意味でライバルだと思っていたようです。席が隣同士だったから、ある時パスワードを目にしたらしいですよ。でも、それだけじゃあ彼女の性格からして危ない橋は渡らないはずだった。首輪のデータが入っていた彼女のパソコンには日記もあってね、それで判ったんです。…そこには彼女の冬哉への想いが綴ってありましたよ」と答えた。
軽く目をつぶったみさきは、さらに質問をしてきた。
「資料があっても、一発勝負に出るという訳にはいかないだろう。爆発しないという保証は無いのだからな。私なら実物を見て、試してみない事には…」
と、さらに尋ねてくるみさきに「実物は見ましたよ」と短く答えた。
驚いて立ち止まったみさきに、全てを話すことにした。
「爆発したものは病院で福田拓史(男子16番)のものを見ました。爆発のメカニズムがインプロージョンだという事や解除キーの挿入口が判ったんです。そして、爆発前のものですが…これは西村美月(女子15番)のものがありました。彼女は遠藤絹子(女子2番)に首を切られていましたから、内側も外側も見る事が出来たんです。解除キーを使って外れるかどうかは、それで数回試しておきました。もちろん本部の監視にばれないように、明け方ナイトスコープを使ってね。あとはタイミングの問題だけという訳です」
すべての答えを聞いたみさきは、穏やかな表情になっていた。
「そうか…みんなのおかげだな」
そう言って再び歩き出した。
みさきの言葉がとても心にしみた。
少しセンチになっていたところを現実へ引き戻すように
「お前は復帰後、蔵神司令の部隊へ転属されるようにしておいたからな」
みさきが事務的に言った。
「ありがとうございます」
と答えると
「あとは演技力の問題だ」と、言って微笑を浮かべた。
みさきに差し出された資料を受け取りながら
「記憶喪失の演技って難しいですよ」という少々弱気な言葉を出したのだが
「死にたくなければ、がんばれ」
強烈な視線と共にクギを刺された。
「早く治せよ、陸奥一茶陸曹」という優しい言葉を残して、みさきは病院を後にした。
病室に戻った俺は、別人に生まれ変わるべく、みさきに渡された資料に目を通し始めた。