BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽・外伝 刻の雫 〜
エピローグ
坂本さんを乗せたパトカーを見送ったオレの心は複雑だった。
───本当にこれでよかったのか?
ずっと、この言葉が頭の中で響いていた。
それを打ち消すかのように、冬哉は陽気な声を上げた。
「よう、遅かったな」
手を挙げた校門の所には、結城真吾と鄭老師がいた。
「済んだのか?」
と訊く真吾に、冬哉は首を傾げて答えた。
「それよりも、老師に頼みがあるんだ。この人が炎に対してスゴイ恐怖心があるんだよ。針でも怪しい術でもいいんだけど、何とかならないかな」
冬哉は日高さんを指差しながら鄭老師に訊いた。
それを聞いた真吾が、冬哉の頭をバシッと叩いた。
「怪しい術って何だ! 言葉を選べ、アホ」
怒る真吾を老師は制すると、冬哉に向かって穏やかに言った。
「炎の記憶を消すことは出来ない。やれないという意味ではなくてな…。記憶を消してしまえば、『炎』というものへの認識も消してしまう事になるのだよ。そんなことをすればどうなるか判るね? 恐怖心を押さえる事は出来るから、それでもいいなら力になれる。よく考えて家に来なさい」
老師の説明は抽象的過ぎて、オレには今ひとつ理解ができなかった。
しかし、日高さんと新海さんは納得したようで、共に老師に着いて行くことにした。
別れ際に新海さんが、冬哉とオレの顔を見て「サンキュー」と言ってくれたが、明日にはその気も変わる事だろう。
目の前にいるオレ達の親友が、恐らく新海組を活動不能な状態に追い込んだはずだから…。
「じゃあ、帰るか」
歩き出した冬哉を、真吾が押し止めた。
「何だよ…」
むっとしたように言う冬哉に向かって、真吾は後ろを向くように促がした。
オレもつられて一緒に振り向くと、そこには坂野千尋さんが立っていた。
オレ達が口を開くより前に
「あの…どうも、ありがとう」
坂野さんは言って、冬哉の手を握った。
冬哉が手を触られると烈火の如く怒る事を知っているオレは
───ヤバイ、冬哉の奴キレる…
と思った。
しかし、冬哉はオレの予想に反して、にやっと笑うと、逆にその手を握り返した。
一瞬戸惑った坂野さんに向かって
「また、あんたの踊りを見せてくれよ」
と、冬哉が言うと、坂野さんは恥ずかしそうに顔を伏せた。
上目遣いで冬哉の顔を見ると、ステキな笑顔を浮かべながら頷いた。