BATTLE
ROYALE
〜 黒衣の太陽・外伝2 〜
11
2001年3月24日(土)午後16時47分
笹本香織の家から、西園刑事の車で死体発見現場へと連れて行ってもらった。
オレは別に行きたくなかったのだが、冬哉の強い希望で決まったのだ。
「今さら現場を見ても何も無いじゃんか」
公園のランニングコースを歩きながら不満を漏らすオレに
「現場に行くとインスピレーションも沸くものですよ」
と、西園刑事が声を掛けてくれた。
本当にいい人だ。
彼や古田警部補みたいな人が出世しないで、この事件の捜査班に加わっているハゲ達が重用されるなんて、やっぱりこの国はおかしい。
「下手の考え休むに似たりっていう言葉、知ってるか英明? 頭の回らない奴は、身体を使う事でそれを補うしかないんだぞ」
冬哉の皮肉が炸裂した。
「なんだよ、それ。じゃあお前、犯人が分かったって言うのか?」
口を尖がらせてオレは冬哉に言った。
冬哉は鼻でフンと笑いながら
「大体な・・・」
と、西園刑事の肩を叩いた。
「き、君・・・本当に? 私は、未だはっきりと分からない点がいくつかあるんだけど・・・」
と、汗を拭きながら西園刑事は言った。
人がいい上に、正直な人だ。
正直の前に『バカ』の二文字が付きそうだけど・・・。
「容疑者達の証言には、いくつかの矛盾点があったんですが、それを一つずつ確認している状況です。その中で最も分からない事が・・・この場所で遺体が発見された事なんです」
西園刑事は、そう言いながら地面を指差した。
ここで帝劇トップスター 春風碧が発見されたのだ。
「千尋も言っていただろう? 何故、犯人はわざわざこの場所に被害者を運んだのか・・・それがこの事件の肝なんだよ」
冬哉はそう言いながら周りをうろつき始めた。
少し土の色が変わっている所で立ち止まると、西園刑事に手招きをした。
「ここに春風碧の死体があったんだよな?」
「そうです。出血が目立たなかったのは、この土のせいだと思われます」
二人は短くやり取りをした後、また口を閉じた。
そうこうしているうちに、どんどん日が沈んで行った。
急に辺りは暗くなり、肌寒さも感じられるようになってきた。
「もう帰ろうよ」
小学生のように言うオレの存在は、完全に無視されているようだ。
冬哉と西園刑事が地面を凝視していると、遠くから足音が聞こえてきた。
「な、何なんだ・・・こんな所に来る奴なんているのか?」
オレの声は恐怖のあまりヴィブラートがかかっていた。
西園刑事の後ろに素早く隠れようとしたオレに、そいつは声を掛けてきた。
「よう、英明。お前も走りこみか?」
能天気な声でオレを呼んだのは伊達俊介だった。
「おっ、トレーニングか俊介。たまには頭も使えよ、オレ様みたいに」
冬哉はいつも通り俊介に悪態をついた。
だが、俊介はそれを挨拶のようにとらえているようで、大して怒ったりもせず
「お前が頭を使う時は悪知恵を働かせるか事件の時だけだろう」
と、返した。
そんな俊介がオレの前に立っている見慣れない人物に対し、怪訝な表情を作ったので、オレは慌てて
「こちらは西園刑事、古田警部補の信頼が厚い刑事さんだよ。西園さん、オレ達の仲間で伊達俊介です」
と、お互いを紹介した。
俊介はぺこりと頭を下げ
「伊達です。こいつらが迷惑をかけてスイマセン」
と、言った。
西園刑事は噴出しそうになるのをぐっと堪え
「いえ・・・どうも」
と、短く答えた。
「そうだ、俊介。お前、事件の日もここに来たか?」
冬哉が唐突に尋ね
「いや、あの日はサッカー部の助っ人で試合に行っていたから休んだ」
「ちっ、使えねえな・・・」
「オレが殺られていたかもしれないんだぞ。もっと、労われ」
と、言い合いになった。
「まあまあ、その辺で・・・」
オレが仲裁に入った時、ランニングコースに沿うように突風が吹き抜けた。
「うおっ」
「ちっ・・・」
「・・・・・・」
オレ達は口々に呼気をもらした。
「さっきから気にはなっていたんだが、すごい風だね」
西園刑事がスーツについた葉っぱや埃を掃いながら言った。
「この辺りは春先になると今くらいの時間に六甲颪みたいな風が吹くんですよ。他の所はいろんな方向から風が吹いてくるんだけど、ここだけは道沿いなんですよね。お陰で上りは向かい風でキツくて、下りは追い風になって加速するから気を抜いてるとヤバイんです」
俊介は口の中に入った砂利を唾と一緒に吐き出しながら言った。
「そうか、だからここに・・・」
突然、冬哉が言った。
冬哉の目に不思議な光が宿っていた。