BATTLE ROYALE
〜 黒衣の太陽・外伝2 〜


04

 2001年3月23日(金)午前11時12分 
 徐々に暖かくなる気候を一身に受けるように、二人の中学生が歩いていた。
 一人はトランプを、もう一人は長い棒を入れたような袋を手にしている。
 五代冬哉と結城真吾である。
 二人が一緒に帰宅するのは極めて珍しい事だった。
 どちらの歩調に併せるでもなく、のんびりと歩いていた。 
「お前、成績どうだった?」
「普通。お前、今年に入って勉強サボっていたろう?」
「大した事ねえよ、すぐ取り返せるって。お袋みたいに言うな」
「お前のお袋さんより、千尋さんの方がキツイんじゃないか? 知らんぞ」
「うるせえ、そう言うお前も沢渡に正座させられてんだろう・・・」
 ケンカ腰に聞こえるが、二人はやり取りを楽しんでいるようだった。
 言葉遊びを続ける二人が、通学路の途中にある公園をショートカットしようとしたとき
「おかしいな、何でだ・・・」
 という声が二人の前方から聞こえた。
 遠藤章次(1年2組 男子2番)が、ケータイを一心不乱に操作しているのが見えた。
「よう、遠藤。部活サボってんのか?」 
 冬哉が声を掛けた。
 クラスは違うが、小学校が同じだったので、お互い顔見知りなのだ。
 章次は二人の顔を見て驚いたような表情をした。
「人聞きの悪いこと言うな。オレはちょっと腰の調子が悪いから病院に行くために休んだんだ」
 そう言いつつ、章次の頬は少し紅くなった。
「へぇー、結構頑丈そうに見えるのにな。お前といい、いとこの女性剣豪といい、遠藤家はスポーツ万能だよな」
 冬哉は少し茶化すように言った。
「そう言えば、お絹ちゃんのおかげで彼女と上手くいったらしいな、章次」
 真吾に言われ、章次の頬がさっきよりも紅くなった。
「な、何で知ってるんだよ、誰に聞いたんだ?」 
 動揺しながら言う章次に
「大事にしろよ。お前と付き合ってくれる娘なんて、今後出てこないかもしんないぜ」
 と、楽しそうに冬哉が言った。
「バカ言うな! 結城はともかく、お前みたいな妙な手品師と付き合ってくれる女性だっているんだから・・・」
「おいおい、それじゃあ笹本と別れるのか? 今の言い方だと・・・そうなるぜ」
 言い返したつもりが、反対に冬哉にやりこめられ章次は舌を巻いた。
「結城、よくこんなへ理屈をこねるヤツと一緒に居られるな」
「アホか、口の上手さならオレ様なんかより真吾のほうが何倍もすごいぞ。こいつとの日々のやり取りで、オレ様はトークを勉強してるんだ」
 得意げな冬哉の説明に続けて
「俺より上がいるけどな・・・」
 真吾がつぶやくように言った。
「そりゃ、誰だい?」
 章次が訊こうとした時
「おう、珍しいな。章次が一緒なんて」
 と、伊達俊介(1年3組男子11番)が声を掛けてきた。
 ジャージに身を包んだ俊介の息は荒かった。
「またトレーニングか? たまには休憩しろって」
「お前こそ体を動かせって。千尋さんにダンスでも教えてもらえよ」
「うるせえ」 
 章次とのやり取りより言い方はキツイものの、小気味よくやりあう様は先ほどの真吾とのやり取りに似ていた。 
「マジックやるのにも体力が要るだろうから、伊達の言う通りちょっとは体を動かした方がいいんじゃないのか?」
 章次が言った。
 冬哉はフンッと鼻から息を吐くと、説明を始めた。
「オレ様はイリュージョン系はしないんだ。クロースアップといって、ミスディレクションをだな・・・」
「何だそれ?」
 いいところで章次に話の腰を折られた冬哉は、足元の小石を拾うと右手にある滑り台のほうへ高々と放り投げた。
「こういうやつだよ」 
 と、手についた砂を払いながら言った。
 冬哉の言っている意味がよく判らなかった章次は、首を傾げるしかなかった。
「そういえば、御影も入れた4人か? お前たち本当に仲がいいよな・・・」
 章次は少しうらやましそうに言った。
 言葉では表せない何かで四人が繋がっているように思えたのだ。
 その言葉を聞いた俊介が汗を拭きながら
「そう言えば、英明から電話入ってないか? さっき山中公園を降りてきたところであいつに会ったけど、何かお前に連絡が取れないって言っていたぞ」
 と、冬哉に向かって言った。
「あいつの電話って大した用事じゃない事のほうが多いんだよ」
「いや、今日は結構焦っていたぜ」
「そんなに急ぎなら、またかけてくるって」
「うーん。お前がそういうなら・・・」
 冬哉と俊介とのやり取りに
「冬哉、今すぐ掛けてやれ」
 と、真吾が言った。
「いいって」
 と、面倒くさそうに言う冬哉に、真吾は強い口調で「掛けろって」と、言った。
 少し考えた後、冬哉はケータイを取り出し、チョコチョコと操作をした。
 が、ケータイを耳に当てることなく、そのまま尻のポケットにしまった。
 章次が不思議そうに
「おい五代、御影にメールしたのか?」
 と、訊いた。
 冬哉はニヒルな笑みを浮かべ、首を横に振った。
「お前、まさか・・・」
 俊介は驚いたような表情のまま言った。
 こんな時にも、冬哉はワンギリをやってのけたのだ。
「当然だろう。電話をしてくるのは、英明の都合なんだから。おっと、かかってきたぜ」
 悪びれた風もなく言う冬哉に、一同あきれ果てた。
 しばらく英明と話していた冬哉のおちょくるような口調が変わった。
「判った。ここにいるぜ、偶然だけどな・・・場所は? ああ、オレ様もすぐ行く」 
 そう言うと、冬哉はケータイを切った。
「お前の彼女が、昨日の事件のことで警察に取調べを受けているそうだ」 
 冬哉は大して重要でないように章次に言った。
 弾かれたように駆け出そうとした章次が、思い切り転倒した。
 先ほど冬哉の投げた石を目で追っていた隙に、冬哉によって靴紐を結ばれていたからであった。



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