BATTLE
ROYALE
〜 死神の花嫁 〜
27
[I want a monster to be my friend(En Vogue)]
福間法正(ホーセイ:男子12番)は、何度も寝返りをうった。
焦りと不安が睡魔を抑えているのだ。
昨夜からぶっ通しで机に向かい、脱出計画の策を練っていたのだが、いくつかの問題点が浮かび上がってきた。
その内の殆どは些細な事で、簡単に解決できたのだが、残っているものはホーセイの力だけではどうなるものでもなかった。
───やはり、無理なのでしょうか
少しでも頭を休ませなければと思いつつ、自問自答を繰り返してしまうのだった。
「福間君、眠れないの?」
須藤正美(マサミ:女子09番)が声を掛けてきた。溜息をつきながら寝返りをうっていたので、心配になったのだろう。
出来るだけ何とも無いという風に装いながら
「ええ、疲労と緊張が強すぎて、反対に眠れないようです」
と、答えた。
「ベッドがあればよかったんだけど、毛布とマットレスしかなかったの・・・ごめんなさい」
「そんな・・・寝床のせいではありません。もちろん、須藤さんの責任でもないですよ。謝らないで下さい」
マサミの言葉に、ホーセイは思わず起き上がって否定した。
「ごめんなさい・・・」
謝罪を口にするマサミに、ホーセイは苦笑いをした。
「やっぱり・・・難しいのね?」
“脱出”という言葉を避けながらもマサミは的確な質問をしてきた。恐らく自分の態度から推測したのだろうが、やはり聡明な女性だと思った。
しかし、問題点を打ち明ければマサミは困惑するだろうし、諸星宗平(デスカラ:男子15番)に到っては自暴自棄になりかねない。
つまり、このコミュニティが分裂の危機に陥るのだ。
様々な迷いはあったが、この際、正直に話す事にした。
いずれにしろ、前に進むしかないのだから。
「理論上は問題ありません。しかし、ここにいる3人だけでは、実行するにあたって支障が出るという結論に到ったのです。やはり、私たちに無い、戦闘力やパワーを持っている方が必要です」
予想していた通り、マサミの表情が曇った。この作業の難しさを理解している証拠だ。
仲間を集めるという作業は、この“プログラム”において、最も難しい事の一つである。
単に仲の良い、或いは信用の置ける者を説得するのは、それほど難しい事ではない。
しかし、自分達の望む条件を満たし、更に全員が信用できる者を選別できるかどうか、甚だ疑問が残った。
仮に、そのような人物がいたとしても、この広い会場で見つけ出し、説得をして、ここに来てもらわなければならない。
スタート直後なら何とかなったかもしれないが、一回目の放送が終わり、退場した者も出た今となっては、お互いに疑心暗鬼に陥っている。
自分で口にしながらも、奇跡に近い内容であった。
「すごく難しいわ。危険も大きい・・・」
というマサミの言葉に、ホーセイ自身の気持ちが折れそうになった。
「でも、やるしかないのよね!」
力強く、マサミは言葉を続けた。
「須藤さん・・・」
ホーセイはマサミの手を握り締めた。
頬を赤らめるマサミに気付きもせず
「やりましょう! 我々と同じような考えを持った方が、きっといるはずです」
米帝の国民のように大げさな握手をしながら、ホーセイが言った。
「そうと決まれば、諸星さんにもお伝えしなくては・・・」
「ぼ、僕にも聞こえましたカラ」
少しバツが悪そうな表情を浮べ、デスカラが入ってきた。
「諸星さん、失礼しました。3人が揃った所でお話をしようと思っていたのですが・・・」
「大丈夫です、二人で相談していた事で怒ったりしませんカラ。でも・・・」
ホーセイの謝罪に笑顔で応じたものの、デスカラの表情はすぐに曇った。
「須藤さんの言う通り、すごく危険ですカラ」
想像力が豊かなのか、デスカラの顔色が青白くなっていた。恐らく、思い描きたくない最悪の事が頭に浮かんだのだろう。
しかし、ここで迷っている暇は無かった。
ホーセイは、出来るだけ冷静な声になるよう心掛けながら
「最大の争点は人選です」
と言った。
「条件を満たした上で、我々3人が信用出来る人物を選ばなければなりません。一人でも反対するのなら、入れるべきではないと思います」
「じゃあ、どうやって選ぶの?」
「それは・・・」
マサミの問いに答えようとしたホーセイの顔が曇った。
「いけない!」
支給された武器“簡易式電気探査機 小笠原初号”のモニター部に、ホーセイの視線はくぎ付けだった。
ここにいる3人を表す光点の他に、もう一つ別の光点が現われていたのだ。
それは、侵入者に他ならなかった。
「わ、罠を仕掛けていますから、そう簡単にはここまで来れませんカラ」
引きつった表情で言うデスカラに
「諸星さん、残念ですが、侵入者は巧みに罠を避けながら近づいてきています」
と答えたホーセイの言葉には緊張がみなぎっていた。
罠を突破して来ているという事は、3人の命に危険が迫っている事を示しているのだから。
「打ち合わせ通り、配置に付いて下さい」
それぞれ事前に取り決めをしていた通り、持ち場に着いた。
「来ないで下さい。来ないで下さい。来ないで下さい・・・」
呪文のようにデスカラが唱え続けたが、残念ながら侵入者が引き返す事は無かった。
擬装してあった扉がゆっくりと開き、そしてすぐに閉じた。
『引き返しなさい』
低い声が廊下に響き、侵入者の足も止まった。
『ここで引き返せば、あなたに危害を加えません』
侵入者は声の出所を探すように周りを見渡している。
あっさりと引き上げそうに思えたが、次の瞬間、一気に廊下をダッシュした。
「須藤さん!」
ホーセイが声を発するのと同時に、マサミは捕らえられていた。
「ちくしょう」
デスカラが小型ボーガンを手に飛び出そうとすると、静止の声が掛かった。
「ストップ、あたしは敵じゃない」
声の主は秋山蘭(ラン:女子01番)だった。
マサミから手を離して開放すると
「ヘイ、そんなに興奮するなよ、ミスター諸星。あたしは必要な物を取りに来ただけさ。用が済んだら黙って出て行くよ」
と、言った。
対処の方法が判らず、デスカラとマサミはホーセイがいる方を向いた。
「もう一人いるんだね、リーダーは誰なんだい?」
二人は慌てて視線を戻したが、既にランは二人の方を見ていなかった。
「誰だか知らないけど、あたしは絶対に危害を加えたりしない。信用してくれないか?」
暫くの間を置いて、ホーセイは口を開いた。
「・・・武器を置いていただけますか」
「あんたが姿を現すのならね」
ランの応えは予想の範囲内だったが、それまでの時間が予想よりも早かった。このような交渉に慣れているような感じがあった。
迷った挙句、ホーセイはランの前に立った。
「あんただったのかい、ジーニアス。OK、約束通り武器は置くよ」
ランは、手に持っていた銃を廊下に置いた。しかし、マサミを捕らえた手はそのままだった。
「悪く思わないでくれ。例え温和なアンタ達とはいえ、このゲームで人を信用する事がどれだけ危険か・・・頭のいい、あんたには分かるだろう?」
ウィンクをしながら言うランに対して、不思議と腹は立たなかった。
「何が欲しいのですか? 私に判る物でしたら持ってきますよ、秋山さん」
ランの腹を探るように訊いたが
「ダンケ、でも自分の事は自分でやる」
と、あっさり躱された。
ランはホーセイが体を休めていた部屋に入ると、すぐに出てきた。
既にマサミは開放され、その代わりにランの手には刀が握られていた。
「ジーニアス、こいつを貰っていくよ」
敵意が無い事を示しているのか、両手を上げたまま出口の方へゆっくりと歩き始めた。
緊張の糸が張りつめている中、ホーセイが口を開いた。
「秋山さん、我々とご一緒してもらえませんか?」
他の二人が目を見開くのも構わず、ホーセイは続けた。
「正直に申して、アナタの力が必要なのです。何か目的があるようですが、我々もお手伝いします。決して悪いようにはしません・・・いかがです?」
ランは驚いたような表情をした後
「あたしを買ってくれたのは有難いけど、ここに留まる事は出来ない。藤井亜衣を探しているんだ・・・もしアイがここに来たら匿ってやってくれないか?」
と言った。
「藤井さん?」
それまで緊張のあまり声も出なかったデスカラが口を開いた。
「力になれなくて悪いね。アデュー」
軽く手を挙げて出て行こうとするランの足をホーセイの声が止めた。
「待ってください。また誰かが来ます」
再び緊張が満ちていく中、ランは廊下に置いた銃を拾い上げると
「ちょうどいい。もしも邪魔なヤツなら、さっきのお詫びにあたしが始末しておいてやるよ」
そう言って、外に飛び出していった。
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