BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第10話
「はい、じゃあ次は女子18番の向井遥さん」
尾賀野の声に合わせて、向井遥(女子18番)がデイパックを受け取り、教室の外に消えていった。
焼津洋次(男子19番)は、不安で仕方なかった。
―何で、何でオレらが殺し合わなアカンねや!
洋次は教室を見回した。もうこの教室に残っている生徒は、自分を除くと元野一美(女子19番)、吉田晋平(男子20番)、山原加奈子(女子20番)、和歌山啓一(男子21番)、結城真保(女子21番)、雨宮広将(男子1番)、天野洋子(女子1番)だけになってしまった。
そして洋次は、教卓のところに立っている「特別参加者」の二人、横井翔(男子特別参加者)、牧原玲(女子特別参加者)に目をやった。
―こいつら、一体何なんや? 得体の知れんやっちゃなあ…。
「次、男子19番、焼津洋次君」
そう言われて、やっと洋次は自分の出発順が来たことに気が付き、立ち上がって尾賀野のところへ向かった。
「はい、頑張って」
彬合が洋次にデイパックを渡した。それを受け取り、洋次は言った。
「オレは絶対乗らんからな! 脱出したる! よう覚えとけよ!」
そして洋次は教室の外に飛び出した。
廊下も、教室と同じで窓に鉄板を打ち付けてあり、電気もついていないため、昼間のはずなのに暗くて仕方なかった。
やがて、階段が見えた。
―あっこから降りるんやな。
その時、洋次は明かりが見えたのでその方向をチラッと見た。兵士が外で見張りをしているその部屋は、どうも兵士が休息を取っている部屋のようだった。
これ以上見ていても無駄だと思い、洋次は階段を降りた。
階段を降りると出口が見え、その近くにまた二人、兵士が見張りに立っていた。
そして洋次はその二人には目もくれずに校庭に出て、校舎の影に入り、座り込んだ。
―あっ、そうや。武器が支給されとるって言うとったな…。
洋次はデイパックの中を開けて、中を探ってみたが、それらしきものは無かった。
出てきたのは尾賀野が言っていた、水と食料のパン、地図とコンパス、懐中電灯。そして…耳掻きだけだった。
―まさか、これが武器っちゅうんか? …はー、これは気持ちええなー、特にこのアヒル毛がたまらん…って、そんなこと考えとる場合ちゃうわ!
洋次は耳掻きを投げ捨てた。
―はあ…もう誰かが死ぬのを見るんは嫌やなあ…。
洋次は五年前まで、大阪に住んでいた。洋次はいつも皆を楽しませるひょうきん者として有名だった。将来はコメディアンを目指していたぐらいだった。
しかし、五年前に起きたあのテロで家族を目の前で失った。友人も皆死んだ。
仕方なく彼は岡山の親戚に引き取られ、上祭中に通うようになった。
洋次は以前よりも、人を楽しませようとするようになった。
―もう、忘れたい。
そう考えて、洋次は常に楽しいことを考えるようにしてきた。それでも夜寝るときはあの時のことが夢に出てくるのだ。
―ああ! もうええわ! そんなことはええ! とにかく、誰かと合流せな…。
その時、目の前を元野一美が通っていった。
―元野さんは信用できるやろうか? 見た目は化粧とかしとってアレやけど、姉御肌のええ人やったよな…よし!
洋次は一美に話しかけようとして立ち上がった。しかし、一美は洋次の存在には気付かなかったらしく、そのまま行ってしまった。
―ああ、行ってしもた。でも、次は晋平や!
一美の次に出てくる吉田晋平は、引き取られてから知り合い、あっという間に仲良くなった。
晋平はお笑いに興味があったらしく、よくテレビで見たお笑い番組についてよく話しては二人で笑いあった。
―晋平なら大丈夫や。
そして晋平が出口の奥に見えた。
―よっしゃ、晋平や! 晋平と合流して、そんでそれからまた皆を集めて、皆で脱出したるんや!
晋平が、外に出てきたと同時に、洋次も出て行き、話しかけることにした。
「晋平!」
「洋次…」
その時、洋次は晋平の声がちょっと暗いことに気付いたが、別に気にしなかった。
「晋平、一緒に行こう! それから皆を集めて、皆で脱出したろう! な? な…」
その言葉は、途中で途切れた。胸が何だか、熱くなった。
見ると、胸に晋平が何かを突き立てていた。よく見ると、それはサバイバルナイフだと分かった。
―え? 何でや?
晋平がサバイバルナイフを抜いた。洋次の胸から鮮血が噴出し、晋平の顔を緋色に染めた。
―アカン、意識が薄れよる…、でも、聞かな…。
洋次は、唯一の疑問を、目の前の晋平に投げかけた。
「何で…オレを殺すんや?」
「ゴメン…でも、やらなきゃいけないんだ」
「な、何や…それ…」
そして洋次の身体がうつ伏せに倒れこんだ。
すぐに晋平は洋次が死んだかどうか確認した。死んでいた。
「ホント…ゴメン…」
男子19番 焼津洋次 ゲーム退場
<残り39+2人>