BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第11話

 和歌山啓一(男子21番)は、教室に未だ残っていた。
「女子20番、山原加奈子さん」
 尾賀野の言葉に、
山原加奈子(女子20番)は、恐怖でなのか、ガタガタ震えながら教室を出て行った。
 しかし、その顔にはまだ自惚れが感じられたように、啓一は思った。
―彼女はまだ、自分が解放してもらえると信じているのだろうか? だとしたら、彼女はもうおしまいだ。このままでは、彼女は精神に異常をきたすだろう。
 そんな風に、啓一は考えていた。
 啓一の父は精神科医で、街中にクリニックを開業していた。
 そこによく来たのが、五年前のテロで精神バランスを崩したり、色々精神的に傷を抱えた人たちだった。
 啓一は中学生になった頃から、看護師などを雇えない父の手伝いをしてきたので、そういうことには詳しくなった。
 加奈子の状態は、その時に父の下を訪れた患者の状態に良く似ているのだ。
 そして父は、啓一によく言っていた。
―人間、精神を病んでしまったら、そしてそれが治らなかったら、人生が壊れてしまう。啓一。お前は、そうならないようにしろよ。
 だからこそ、啓一はこの状況下で出来る限り冷静に考えるようにしていた。
「―男子21番、和歌山啓一」
―遂に、来た。
 啓一は立ち上がって尾賀野のもとへ行った。
「頑張ってな」
 彬合がデイパックを啓一に渡し、啓一はそれを受け取ってすぐに教室を出て行った。
 啓一は廊下を進んでいった。その時…。
「きゃぁぁぁぁぁーっ!」
 誰か女子の叫び声がした。普通に考えれば、ついさっき出発した山原加奈子の声だろう。
―一体何なんだ?
 啓一は、出口へと走った。
 そして出口から飛び出し、そして驚いた。
 目の前にあった光景は、啓一にとって信じ難いものだったのだ。
 うつ伏せに倒れた
焼津洋次(男子19番)の身体(しかも、血溜りができている! 刺されたのか?)と、尻餅をついている山原加奈子。
 その加奈子に今にも手に持ったナイフを刺そうとしている
吉田晋平(男子20番)
 啓一には、すぐに状況が理解できた。
 晋平が洋次を刺し殺し、更に出てきた加奈子をも刺し殺そうとしたのだ!
―そんな! 吉田はこんなことをする奴だったか?
―しかし、そんなことはどうでもいい!
 啓一は、すぐにデイパックで晋平を殴りつけた。晋平が仰向けに倒れる。
「山原、逃げるんだ!」
 啓一は叫んだ。しかし加奈子は、怯えているのか、ガタガタ震えるだけでちっとも動かない。
「行けぇっ!」
 そこでようやく加奈子は立ち上がり、駆け出していった。
 その直後、晋平が起き上がった。
「邪魔…するなよぉっ!」
 晋平は啓一に向かってナイフを振り回してきた。
「吉田…何でこんなことをするんだ! 何で…何で…!」
 晋平が答えた。
「俺は、やらなきゃいけないんだ! 絶対に! やらなきゃ! いけないんだ!」
―こ、こいつ…まさか、正気を失ってるのか?
 しかし、晋平の目は、自我を失った人間の眼ではない。ちゃんと正気を保っている人間の眼だ。
―ええい! 仕方ない!
 啓一は、デイパックで力いっぱい晋平を殴りつけた。
 晋平はうつ伏せに昏倒し、啓一は急いで走り出した。
―義彦…貴仁…賢太…浩介…。もうすぐ、行くからな!
 晋平には、目もくれなかった。

 そのすぐ後に、吉田晋平は目覚めた。
「殺せなかった…やらなきゃ…俺は…やらなきゃ…」
 晋平は立ち上がり、歩き出した。

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