BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第12話
「はあっ…はあっ…はあっ…」
富森杏樹(女子12番)は森林の中を、ひたすらに走り続けていた(ちなみにその辺りはエリアC−7だったが、杏樹はそんなことは知らなかった。
杏樹は怖くて仕方なかった。さらに友人の菊池麻琴(女子5番)も世良涼香(女子9番)も待っていなかった。
それを知ると急に怖くなって、その場から逃げ出したのだが、途中で…彼に見つかってしまった。
杏樹は背後を振り返った。
「ま、待てぇ!」
太った身体を揺らしながら瀬古雅史(男子10番)が追いかけてくる。しかもその手には、出刃包丁が握られている。
最初に雅史に見つかったとき、彼の眼は血走っていた。もう完全に正気を失ってしまったのだろう。
―やっぱり、待ってれば良かったのかなぁ…。
杏樹はそこで出発順が自分より後の、自分の彼氏である姫野勇樹(男子15番)のことを考えていた。
勇樹と付き合いだしたのは、確か三年生になってすぐのことだった。
三年生になって一週間もした頃、勇樹が突然告白してきた。
正直、杏樹はかなり驚いていた。
杏樹は姫野勇樹について、上祭中の不良グループの一人で、仲間の城戸比呂斗(男子6番)とかとはよく一緒にいるけれど、女子とは全くもって話をしようとしない、硬派というか、シャイというか…。
とにかく、そんな印象しかもっていなかった。
そして取り敢えず一回デートをしようということになり(後で知ったのだが、比呂斗たちが勇樹の様子を監視していたらしい)、一緒に岡山市まで出たが、勇樹は緊張しきっていたのかなかなか会話してくれなかった。
しかし、彼が取る行動は、杏樹への精一杯の優しさが感じられた。
だから、杏樹は勇樹と付き合うことを決めた。勇樹も、だんだん杏樹とちゃんと話せるようになっていた。
―ごめんなさい…私、勇樹を待てなかった…。
そんなことを考えているうちに、雅史の姿がだんだんと迫ってくる。
―いっ、嫌ぁっ!
その時だった。
「杏樹に寄るんじゃないよ!」
誰かの声がした。その声のした方向に振り向くと、自分が勇樹と同じくらいに信頼している幼馴染であり、友人でもある女子、元野一美(女子19番)が立っていた。
「う、うるさいぃぃぃ!」
雅史は一美の静止も聞かず、今度は一美のほうへ向かっていった。
「か、一美ちゃん、危ないよ!」
杏樹が叫んだその直後、ダン、と一つ音がして、雅史が左手を押さえて蹲った。
一美の方を見ると、一美はやや大きな自動拳銃を両手で構えており、その銃口からは、煙が昇っていた。
「早く行きな。次は確実に…殺すよ?」
「ひ…っ」
雅史は撃たれたことによって恐怖を覚えたのか、そのまま慌てて駆け出していった。
「大丈夫、杏樹?」
一美が、優しい声で言った。
「う、うん…大丈夫だよ。それより、ごめんね、一美ちゃん…」
「ん? 何で?」
「だって、私一美ちゃんや、勇樹を待てなかったし…」
杏樹がそう言うと、一美はニコッと笑って、言った。
「仕方ないって、あの状況じゃ。こうしてあたしとは会えたんだし、気にしない気にしない」
「うん…ところでさ、一美ちゃんの武器って…それ?」
杏樹が一美の持った拳銃を見て、言った。
「そう、説明書には、ガレーシーオートマチックM9って書いてあった。杏樹は?」
「あっ、まだ確認してなかった…えーと…ハズレみたい。アルコールランプだって」
杏樹はそう言って、デイパックの中にあった、小学校の理科の授業で使うそれを取り出して見せた。
「確かにそれじゃ、ハズレだね。それから…杏樹はこれから、どうしたいの?」
「え? 私は…やっぱり信用できそうな人を集めたいけど…勇樹でしょ? 麻琴…それから涼香…他には…」
「ちょっと待って」
突然一美は、杏樹の話を遮った。
「私は、涼香は危ないと思うよ?」
「えっ、何で?」
「涼香の教室でのあの尾賀野への質問、聞いた? 私物の心配をしてるのよ? 場合によっちゃ、ただのバカに見える。けどあたしはそうは思わないね。あれは、自分は私物の心配をする余裕がある、つまり、優勝する自信があるっていうふうには取れないかな?」
「で、でも…」
「あのね、杏樹。涼香がそんなに信用の置ける相手だと思う?」
そう言われて杏樹は思い出した。
涼香はとことん我が強く我侭で、本人もモットーは「天上天下唯我独尊」(まあ、涼香は読み方しか知らなかったようだが)と言っているくらいだ。
一美が続けた。
「いい? このプログラムってのは、そうそう人を信用しちゃいけないの。だから今のところ信用していいのは…麻琴と、あんたの彼氏の姫野君。それと城戸君たちぐらいよ」
「う、うん。分かった」
「分かったならいいわ。移動しましょ」
「え、何で?」
尋ねる杏樹に、一美は返した。
「さっきあたしは銃を撃ってる。となれば誰かがそれを聞いてやってくるかもしれない。そしてそれは、さっきの瀬古のような奴かもしれないでしょ? だから、移動するわ」
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