BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第13話
―ふう…あと四人も残ってるんだよな…。
尾賀野飽人(2006年度岡山県大佐町立上祭中学校3年プログラム担当官)は、溜息をついていた。
そう、まだ教室には生徒が(生徒じゃないのもいるが)四人も残っているのだ。
「おい、何ぼーっとしてんだ、尾賀野」
隣に立っている彬合晴知(同プログラム担当官補佐)が、尾賀野に声をかけた。
「おっ、悪い、悪い」
彬合にそう言われて、尾賀野は次の生徒の名前を呼んだ。
「男子1番、雨宮広将君」
そう言われて、雨宮広将(男子1番)は立ち上がり、無言でデイパックを受け取ると、教室の外に消えていった。
それを見て、ラストの出発になった天野洋子(女子1番)の身体がガタガタ震えだした。
確か彼女は資料には陸上部短距離のエースで気位が高く、利己主義、といったふうに記載されていた(この資料は、プログラム対象クラスが決まったときに予め学校の様子を探って作ったものだ)。
その彼女が今は恐怖に怯えている。
―無理も無いよな。彼女のあとに―、こいつらが出発するんだもんな。
尾賀野は未だ教卓の近くに立ったままの、横井翔(男子特別参加者)と牧原玲(女子特別参加者)を見た。
この二人のことは、ほんの僅かだったが知っていた。
政府に反逆する者の暗殺を生業とする政府傘下の組織、「A.S」で僅か十八歳にして組織で一番の実力を持つという横井翔。
そして、僅か十六歳にして専守防衛軍の入隊試験にトップで合格し、既に専守防衛軍の中では二尉にまで昇進しているという牧原玲(そしてその階級は尾賀野や彬合より一つ下なだけの階級だった)。
―話が本当だとしたら、化け物だよな。
尾賀野は上司から、二人がこのプログラムに参加する理由を聞いていた。
横井も牧原も「ある生徒」の殺害が目的らしい。
もっとも、横井は「A.S」の指令で、牧原は自ら志願した、と聞く。
―そろそろだな。
「女子1番、天野洋子さん」
そう言われて、天野洋子も急いで出発した。
「じゃあ、この十分後に横井君が出発ね」
尾賀野がそう言うと、横井が口を開いた。
「今あるデイパックの中に、刃渡りの長い刃物って…ある?」
―? 何が訊きたいんだ、こいつは?
尾賀野は疑問に思いもしたが、一応答えておいた。
「うーん、あるにはあるけど…どれに入っているかは言えないからなぁ」
すると横井は、尾賀野の予想とは全く違った反応をした。
「ふーん…まあ、最初からちゃんとした返答なんて期待してなかったけど…」
そう言うと横井はデイパックが載ったカートの横にいた彬合に話しかけた。
「…そのカートの一番右奥にあるデイパックをくれる?」
尾賀野はその言葉を聞いて、ぞくっとした。それは彬合も同じのようで、彼もいかにも驚いた、といった顔をしていた。
何故ならその、横井が希望したデイパックは尾賀野と彬合も武器をデイパックに入れるとき、横井の聞いた刃渡りの長い刃物、レイピアを入れるのを確認していたのだ。
「…」
彬合が驚きながらもそれを渡した。
―こいつはレイピアが入っているのを意図的に選んだのか?
尾賀野は気になって仕方なく、横井に聞いた。
「お前、知ってたのか? そのデイパックに…レイピアが入ってるって」
横井は、事も無げに答えた。
「ええ。そうじゃなきゃ、わざわざデイパックを指定したりしないでしょ?」
―――――――――――!
尾賀野は、ただただ驚くしかなかった。
―じゃあ、こいつは欲しい武器が入っているデイパックがどれなのか、すぐに見抜いたのか!
やがて、天野洋子が出発してから十分が経った。
「…じゃあ、横井翔君! 出発です」
そう言うと、横井はゆっくりと教室を出て行った。そして、次の牧原玲の出発まで、また十分待つことになった。
その時、玲が話し掛けてきた。
「あの…「あの生徒」は、本当に「あの男」の子供なんですか?」
尾賀野はそれを、すぐに牧原がプログラムに志願した理由になった生徒のことだと知った。
「ああ、苗字は変わっているけど、間違いなく全国特別指名手配犯となっている子だよ」
「そうですか…。では、許すわけにはいきませんね…」
そうこうしているうちに、また十分経った。
牧原は彬合からデイパックを受け取ると、この大東亜共和国独特の敬礼をして、言った。
「牧原玲二尉、これより出発します」
そして牧原は外へ出て行った。
「よし、作業終了。モニタールームへ行こうか」
尾賀野は彬合にそう言って、教室を出てモニタールームへ向かって歩き始めた。
「なあ…彬合…」
「ん?」
「あいつらも可哀想だよなぁ…全国特別指名手配犯が、クラスにいただけでプログラム対象になっちまうんだからなぁ…」
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