BATTLE ROYALE
最後の聖戦


序盤戦
Now41students and2persons remaining.

第9話

 時は、津脇邦幸(男子13番)が教室を出発する少し前。
 生徒たちが出発した廃校の入り口近くの林(エリアで言えばC−9辺りになるだろう)に、
太田裕一(男子3番)は息を潜めて隠れていた。
「ふう…寒い…昼のはずなのにな…」
―全く、あの教室も寒かったが、外はもっと寒いな…。眼鏡が曇ってしまう…。
 そう思って、裕一は手に持った支給されたデイパックの中に入っていた武器、コルト・ガバメント45口径を地面に置き、自分の銀縁の眼鏡の曇りを拭った。
―それにしても、こんな大当たりの武器が手に入るなんて、僕はついてるな。
 裕一はデイパックの中にこの拳銃があることを知ったとき、ゲームに乗ることを決意した。
 付属の説明書を読む必要は無かった。何故なら、誰にも話していなかったが(まあ、誰にも話す必要は無いと裕一は思っていたが)、裕一はモ デルガンを集めるのが趣味のガンマニアだったのだ。
 いつも家のパソコンで、インターネットに繋ぎ、色々なサイトで銃についての知識を深めていた。
 しかし裕一は、もっとより詳しいことが書いてある非合法のサイトには行かなかった。当たり前だ。そんな法から外れた行為、行える訳が無い。
 だが、次第に裕一は、本当に拳銃を撃ってみたくなってきたのだ。それも標的は、生きた人間。
―この銃口から放たれる弾丸が頭に当たったらどうなるのかな? やはり頭は吹き飛ぶのか? 腹に当たったら? どうなるんだ?
 裕一はもはや自分の個人的な所有物となった拳銃を眺めて、その様を想像していた。
 だが、この大東亜共和国では一般市民は銃を持てなかったし、海外で銃を撃とうにも、裕一の家の経済状況はあまり良いとは言えず、海外旅行も出来なかった。
 そして何より、裕一自身が法やルールというものを遵守することに拘っていたため、そんなことはできそうもなかった。
 だからこの夢も、裕一は半ば諦めかけていたのだが…。
 この、プログラムに参加することになった。
「楽しみだ…さあ、早く誰か来いよ…。僕を楽しませてくれえ…」
 誰かが撃たれて死ぬところを、裕一は想像してみた。顔が思わずにやけてしまう。
 腕時計を見て、裕一は時間を確認することにした。裕一の腕時計は、午後1時50分を指していた。
―さあ、来い…来い…!
 その時、裕一のいる位置からやや離れたところから、人影が現れた。
 その人影は、
板橋浩美(女子2番)だった。
―板橋か…。
 裕一は、板橋浩美がどういう人物だったか、考えた。
 ポニーテールが特徴の、クラス一、いや、上祭中は一クラスしかないから学年一の美人(もっとも、裕一はそんなことはどうでもよかった)。
 いつも
谷川つかさ(女子10番)畑槙乃(女子15番)結城真保(女子21番)なんかと仲が良い女子。
 裕一には、それだけしか分からなかったが、構わなかった。
―そうさ。どうせ僕のこの拳銃から放たれる弾丸で頭や、腹や、いろんな所を撃ち抜かれてグチャグチャになって死ぬんだ。
 浩美はゆっくりと歩く。しかもちょうど、裕一にとって一番見やすい地点に。
―さあ、もう少し右に寄れ。よし、そこだ。さあ、死ね―!
 パン。
 銃声が響いた。しかし、浩美は平然と同じ場所に立っている。
―? 何で? 何でだ?
 そして何か痛むのに気付いて、裕一は自分の腹を見た。すると―、
 裕一の腹が、血に濡れていた。
「あ…あああああ」
 裕一は突然の出来事に耐え切れず、その場に倒れこんだ。
―痛い! 痛いいい!
「…気付いてないとでも思ってた? 太田君」
 そんな落ち着いた声が聞こえ、裕一が顔を上げると、さっきまで離れたところにいた浩美が立っており、その手には拳銃が握られていた。
 その銃は、ブローニングハイパワーと言う銃だと、ガンマニアの裕一にはすぐに分かった。
―いい銃だなあ。欲しいなあ…。
 って、そんな場合じゃない! こいつが撃ったのか? 僕を? そのブローニングで?
「太田君…丸見えだったよ? それで、やる気になってるのも分かったし…邪魔だったから、誘い出したの」
「な、何だって? 僕を…誘い出したっていうのか!」
「だって…私は、クラスメイトを殺すつもりだから」
―何だと!?
「じゃあ、これで終わりね」
 そう言って浩美がまたブローニングを裕一に向けた。
―ああ…。
 その時だった。
「そこに誰かいるのか?」
 誰かがやってきたようだ。
 浩美はその人物に銃口を向けた。
―誰だ? もう誰でもいい! この悪魔を、最低の女を殺して、僕を助けてくれ!
 裕一は既に、自分が浩美を殺そうとしていたことを忘れていた。
 しかし、浩美は銃を下ろした。
―どうしたんだ?
 そしてやって来た人物は言った。
「太田を殺そうとしていたのか?」
「ええ…そうです」
―ん?
 そこで裕一は、浩美の口調が変わり、表情も今までより随分柔らかくなっている事に気付いた。
「…君には出来れば殺してほしくないんだが…」
「しかし、私はやりたいのです! 教祖様のためにも!」
―何だ? 何だ?
 裕一には二人の会話の意味が分からなかった。
「何としても私は教祖様の「目標」を達成する手伝いがしたいのです!」
「…分かった。だが…君が目の前で殺人を犯すのは見たくない。だから…私にやらせてくれ」
 そう言って「教祖様」は裕一の手からコルト・ガバメントを取り、裕一の眉間にポイントした。
「や、やめてくれえええ!」
「すまない…、私の大いなる目標のために…死んでくれ」
「うわあああああ!」
 バン。
 裕一の眉間は貫かれ、裕一は完全に息絶えた。

「…渡したものは、着けているか?」
「はい」
 そう言った浩美は、インカムを着けていた。
「よし。…無理しないでくれ。君を含め、四人の居場所は全て、私に支給された武器のレーダーで分かる」
「はい。じゃあ、太田君の銃は、教祖様が持っていて下さい」
「うむ。それじゃあ…」
 そう言って、「教祖様」は走り去った。
「教祖様…私、頑張ります」

 男子3番 太田裕一 ゲーム退場

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