BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第8話
和歌山啓一(男子21番)は、目の前で起こった出来事が信じられなかった。
横川将晴の死体。そして三木元太の首が吹き飛んだ瞬間が。
―な、何なんだよコレ…何なんだよ…。
「はいはーい、もうみんな座りなさい!」
尾賀野が元太の死に恐怖している他の生徒たちに言った。だが皆なかなか座ろうとはしない。
それに苛立ったのだろうか、尾賀野が言った。
「しかたないな…、朱葉町(あけはちょう)君! 思い知らせてやって」
そして呼ばれた朱葉町とかいう兵士は、懐から拳銃を抜き取り、床に転がったままの元太の首に向けて、撃った。
首の一部はあちこちに飛び散った。
「きゃあああああー!」
「うわあああああ!」
皆が一斉に叫んだ。
「はい、皆さん。こうなりたくなかったら、着席して下さい。じゃあ、亜幌君。片付けて」
そう言って尾賀野が元太の胴体を片付けさせようとしたときだった。
「よくも元太を! 許さねえぞこの野郎!」
城戸比呂斗が尾賀野に向かっていこうとしていた。
怒るのは当たり前だった。何せ、親友の一人を殺され、その死体があんな目に遭わされたのだから。
しかし、比呂斗の動きが急に止まり、うつ伏せに倒れた。
何が起きたのか、と啓一が確認してみると、他の仲間、大成、邦幸、勇樹、義教が比呂斗を押さえつけていた。
「放せよ、お前ら! 俺はあいつらを殺す、殺すんだぁ!」
「やめろ比呂斗! お前は元太が言ったことを忘れたのかよ!?」
「あいつは生きろって言ったんだ! なのにこんな所で死んでどうするんだ!」
大成と勇樹が揃って叫んだ。
それを聞いて、暴れていた比呂斗はようやく静まり、大人しく席に着いた。
それを見て、他の四人も席に着いた。同時に啓一を含めた他の生徒も席に着くことにした。
「ようやく説明に入れそうだね、しかしまだ言っていないことがありました。今回は、特別参加者が二人います」
―特別参加者!?
「じゃあ、入ってきて下さい」
尾賀野にそう言われて入ってきたのは、派手な金髪をつんつんに立てた、いかにも不良っぽい少年と、長くてサラサラの黒髪の、いかにも上品そうな少女だった。
しかし二人とも、首から下を真っ黒なズボンとシャツで包み、肌は顔以外晒していなかった。
「えー、この金髪の男の子のほうが、横井翔君。そして女の子のほうが、牧原玲さんです」
すると、横井翔、と言われた少年が前に出てきた。
「よろしく…」
そう言って翔は、生徒たちに向かってお辞儀をした。
更に今度は、牧原玲、と言われたほうの少女が前に出てきた。
「牧原玲、と言います。よろしくお願い致します」
そう言ってお辞儀をした。
二人ともやけに礼儀正しかった。しかしその挨拶が、どちらも妙に機械的に、啓一は感じた。
「じゃあ、説明を始めます。まずルールですが、簡単です。最後の一人になるまで殺しあえばいいだけです。あと、ここが何処か気になった子も多いと思います。ここはですね…」
尾賀野はそう言いながら、黒板に正方形を書き、その中に下に向かって伸びた半島のようなものを書いた。
「こういう形をした半島です。それで、この学校は、大体…この辺です」
尾賀野が※を先ほど描いた図の北東に書き込んだ。そしてその地図にさらに縦と横にマス目を描いた。
「そしてこんな風にエリア分けされます。一番北西から、A−1、A−2…というように見ます。そしてこの学校は、B−9になります」
―何のためにエリア分けするんだ?
啓一には意味が分からなかった。
「そして、一日0時と6時に、つまり一日四回放送を流します。その放送では、それまでに死んだ人と、このエリアには何時から入っちゃいけません、っていう、禁止エリアを発表します。そしてそのエリアに入った人は…皆がしているその首輪に電波を送って…爆発させます」
それを聞いて、啓一の脳裏に三木元太の死に様が浮かんできて、少し気分が悪くなった。
「この首輪は、完全防水、対ショック製で絶対外せません。無理に外そうとしても爆発します。あと、海に逃げるのも駄目ですよ。見張りの船があなた方を撃ち殺しますから」
―くそ、逃げることはほぼ不可能って言いたいわけか!
「あと、二十四時間誰も死ななかった場合、全員の首輪が無条件で爆発します。説明は大体こんなものだけど、質問はありますかー?」
「はーい」
手を挙げたのは、いかにも今時の子といった感じの世良涼香(女子9番)だった。
「はい、世良さん、何ですか?」
「あのー、私化粧とかもしたいんですけどー、いつも学校に持ってきてるのだけじゃ足りないんですよー。どうすればいいですか?」
―こんなときにそんな心配かよ!?
「はい、それは大丈夫です。皆さんのご家庭に私物を用意して頂きました」
「そうですか」
涼香はそう言うと座ってしまった。
「じゃあ、質問は無いようなので出発してもらいます。でもその前にこの…」
尾賀野はそう言うと、いつの間にかいなくなっていた彬合が、何かを載せたカートを持ってきた。
「この、デイパックを渡します。中には、水と食料、地図とコンパス、武器が入っています。武器は、それぞれ違うものが入っていて、アタリもハズレもあります。まあ、ハンデを無くす為だから、我慢してね。それじゃあ、最初に出発する人を決めます。出発順は、最初が男子1番だったら、次は女子1番、と言った感じで出発してもらいます。あっ、特別参加者の二人は全員が出た10分後に一人ずつ出発しますから。じゃあ、亜幌君」
そう言うと、亜幌と言う兵士が箱を持ってきた。尾賀野がその中に手を入れた。
「誰が出るかな…誰が出るかな…、はい、出ました!」
尾賀野は一つのボールを引き抜いた。
「えーと…男子2番、宇崎義彦君からです!」
「…」
宇崎義彦(男子2番)は無言で立ち上がった。そして…、
「ここに来てくれ。太田と瀬古には見せるな。二人が信用できるか分からない」
義彦は、残った狩野貴仁(男子5番)、国吉賢太(男子7番)、白鳥浩介(男子9番)、啓一に、メモ用紙を渡した。
どうも、隙を突いてメモ用紙を取り出して書いたようだった。
「2、1」と書いてある。
―暗号か!?
「よ、義彦…」
そのまま義彦は尾賀野のところまで歩いていった。
「早く渡せ」
義彦の言葉に尾賀野は少々怪訝な顔をしたが、すぐに言った。
「君が宇崎君か…君のことは色々聞いているよ。もし君が優勝できたら…政府の役人にでもスカウトしようか」
しかし、義彦は返した。
「必要ない。俺が求めるのは、「普通」だけだ」
そう言って義彦は、彬合からデイパックをむしり取り、すぐに出て行った。
―…何だ? 今の会話…。
「じゃあ、2分のインターバルを置いて、次、女子2番の板橋浩美さんだからね」
そして2分後、ポニーテールが特徴の、クラス一の美人と言われる板橋浩美(女子2番)が出発した。
―ん?
その時、啓一は何か嫌な視線を感じたが、気には留めなかった。
それから、何分か経った。
もう、貴仁も賢太も浩介を、出発してしまった。啓一は思った。
―三人は、義彦の指示した場所に向かっただろうか…。いや、俺たちはお互いを信用している! 絶対に行っている!
啓一には、義彦の指示した場所がもう、分かっていた。
「じゃあ、男子13番の津脇邦幸君」
そう言われて、津脇邦幸(男子13番)が、教室を出て行った直後だった。
パン。
そして一呼吸置いて、
ダン。
その前とは別の銃声だった。
教室中が騒然となった。
「はいはい、静かに。今のは銃声ですね。もうやる気になっている人がいますよー」
―誰が撃たれた!? 義彦か? 貴仁か? 賢太か? 浩介か? それとも、他の誰かか?
啓一は、不安になってしょうがなかった。
試合開始、終了―
<残り41+2人>