BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第16話

「…まだ先か…」
 
和歌山啓一(男子21番)は、森の中を歩いていた。
 啓一の目的はただ一つ。集合場所を指定してきた親友、
宇崎義彦(男子2番)や、その他の友人たち、狩野貴仁(男子5番)国吉賢太(男子7番)白鳥浩介(男子9番)と合流することだ。
 ついさっき、大きな川を渡った。出発してからずっと西に歩いているから、この場所は、地図に書かれたエリアで言うと、B−4、といったところだろうか。
―しかし、確実に義彦が指定した場所には近づいているはずだ。
 そう確信して、啓一は歩を進めた。
 その時、近くで枯葉を踏むような音がして、啓一は立ち止まった。
「誰だ?」
 啓一は振り返って相手に問いかけた。
「…和歌山か。俺、津脇だ」
 その声、そして現れた男子生徒の細い目で、啓一は相手がクラスの不良の一人、
津脇邦幸(男子13番)だと分かった。
「俺は戦う気は無い。そっちに行っていいか」
 啓一は考えた。
 少なくとも、邦幸は信用できない、ということはない。大体、教室で仲間の
三木元太(男子18番)を殺された邦幸たちがゲームに乗るとは思えない。
 そして、啓一は決断した。
「いいよ。俺は津脇を信用する」
「ありがとう」
 そう言って出てきた邦幸は、右手に袋のようなものを持っていた。
「津脇、何だ、それ?」
「ああ、これはブラックジャックって言って、俺に支給された武器だよ。布製の袋に砂を詰めたものなんだと。和歌山は何だった?」
「俺は、戦えるものじゃなかったから仕舞ってたんだけど…」
 そして啓一は、デイパックから一つの木箱を取り出して、言った。
「救急セットだ」
 啓一はまた、救急セットをデイパックに仕舞った。
「…そうか。ところで、何処に行こうとしてたんだ?」
「義彦のところだ」
「え? 何で宇崎が何処にいるかがお前に分かるんだ?」
 邦幸が訊いてきた。まあ、当然の反応だろう。
「義彦は、俺たちに出発する前に集合場所を暗号にして渡したんだ。これがそれだ」
 啓一は、「2,1」と書かれたメモ用紙を邦幸に見せた。
「ん? どういう意味だ、これ?」
 邦幸はどうもさっぱり分からないようだ。
「これは、地図に書かれたエリアのことを意味してるんだ。最初の2は縦のエリア、1は横。こうやって考えたら、縦はA、B…って続くから2番目、つまりBってこと。横は1、2…って数えるから1。つまりこれは、B−1に集合って意味になるんだ」
「なるほど、そう考えると、結構単純だな…」
「まあな。でもあの状況じゃ、これ以上複雑な暗号は思いつかなかったんだろ」
 そう言うと邦幸は納得したようだったが、思い出したようにさらに聞いてきた。
「でも、何だって宇崎はいちいち暗号なんかで伝えたんだ?」
「それは本人が言っていたが、あの時近くに仲間以外の奴、つまり太田と瀬古がいた。義彦はあの二人を信用できなかったんだよ」
「なるほどな」
「まあ、このくらいの暗号なら貴仁や賢太や浩介も分かるだろうし、B−1にまずは移動しよう」
 そして二人はさらに西へと移動を始めた。
 五分ほど歩いたという頃、二人は森を抜け、山道を降りていった。
 やがて二人の目の前に、比較的大きな廃墟と化してしまったらしいホテルが見えた。
「ここに宇崎がいるのか?」
「多分な」
「じゃあ、入るか」
「ああ…」
 二人はその廃墟の中に入っていった。
 中は明かりが差し込んでこないようで、昼間なのに暗く、足元にはここが廃墟になった際に置いて行かれたらしいガラクタが転がっている。
 すると、奥の方に明かりが見えた。
「おい和歌山、あれ…明かりだよな?」
「ああ…義彦かもな」
 そして二人がその明かりの方に進むと、奥にあったホールの観音開きのドアが開いており、そこから光が漏れているのが見えた。
「ここだ…」
 そして啓一が、ドアをゆっくりと慎重に開けた。結構重かったので、邦幸にも手伝ってもらった。
―中にいるのが義彦たちじゃない可能性もあるしな…。
 そして完全にドアが開き、二人は中に入った。
「おう、啓一。来たか」
「遅ぇぞ!」
 その部屋の奥にある椅子に座って、啓一に話しかけてきたのは、間違いなく、宇崎義彦と狩野貴仁だった。
「義彦…」
「ちゃんと来れたか。良かったな」
 すると、後ろで邦幸が「あっ」と声を漏らしていた。
「ひ、比呂斗!」
 邦幸が見ている方向を見やると、そこには邦幸の仲間の一人、
城戸比呂斗(男子6番)と、そしてもう一人、菊池麻琴(女子5番)がいた。
「コンタ、お前も来たのか!」
「ああ、和歌山に会って、ここのことを教えてもらったんだ」
 啓一はそこで気になることがあり、義彦に尋ねた。
「なあ、何で城戸と菊池がいるんだ?」
「ああ、二人とも途中で合流して、ここにたまたま辿り着いたんだそうだ。何でも、幼馴染らしくてな。だからすぐに信用できたんだと」
「…そうか…、ん? あれ?」
 そこで啓一はあることに気が付いた。
 国吉賢太と白鳥浩介がいないのだ。
―何故だ? 二人は俺より早く出たはずなのに!
「義彦、貴仁。…賢太と、浩介は…?」
すると、義彦が答えた。
「分からない。暗号が解けなかったのかもしれないし、怪我をしたのかもしれない。もしくはもう殺されてしまったか…」
「そ、そんな…」
 啓一がそう呟いた直後、義彦が言った。
「よし。取り敢えず、全員に支給された武器を確認したいんだが…いいかな?」
 そう言われて啓一は救急セットをデイパックから出し、邦幸も持っていたブラックジャックを置いた。
 貴仁はたこ焼きをひっくり返すのに使う千枚通しを出し、比呂斗は教室などで使われる棒状の蛍光灯、そして麻琴はソフトボールを一個取り出した。
「俺はこれだった」
 義彦は金属バットを置いた。
「武器になりそうなのは俺の金属バットと津脇のブラックジャックくらいか…これからまた外に出なきゃならないのに、これじゃ心許ないな…」
「ちょっと待って。外に出るって、どういうこと?」
 貴仁が尋ねた。
「そうね、何の目的があってそういうことをしようと考えているのか教えてほしいわ」
 麻琴もそう言った。
「ああ…実は、農協に用があるんだ」
「農協に? 一体何の用で?」
 比呂斗が言った。
「脱出のための材料集めだ」
「だ、脱出!? そんなこと、出来るのか?」
 邦幸が訊いた。
「出来るはずだ。少なくとも、俺はやろうと思ってる。皆はどうだ?」
「俺はやるぜ。脱出して、元太の敵を取るんだ」
 比呂斗が言った。
「俺もだ。俺も、やってやる」
 邦幸が続いて言った。
「私もやるわ」
「お、俺もやる!」
 麻琴と貴仁がほぼ同時に言った。
「啓一…あとはお前だけだが…どうする?」
「…俺は、正直、脱出するのは危険だと思う。…でも、優勝するのも嫌だ。だったら…やるしかないだろう」
「…よし。じゃあ、後で詳しい作戦の説明をする」

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