BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第17話

 I−8にある一軒の民家。
 その民家の台所の隅に、一人の生徒が座り込んでいた。
 足元には一丁の自動拳銃と小さな携帯端末が置かれ、その、密かに「教祖様」と呼ばれる生徒は服に取り付けた会話用のインカムで話をしていた。
「―そうか目立った収穫は無いか…今後も、よろしく頼む」
「…はい」
「それじゃ」
 そう言って「教祖様」は、信者の一人との通信を終了した。
―次は…。
「教祖様」はインカムで再び、信者の一人との通信を試みた。
「…はい」
「…首尾はどうだ?」
「はい。まずは何人かのグループに参加することになり、集落からかなり外れた建物に篭りました。普段親しい生徒たちもいるので、私を疑う者はいません」
「そうか。…では、そのグループの切り崩しから始めるのか?」
「はい」
 信者の一人はそう、答えた。
「…そうか。無理は、しないでくれ」
「分かっております」
 そして通信は、途切れた。
―次だ…。
「教祖様」は別の信者との通信を開始した。
「はい、何でしょうか。教祖様」
「うむ。そちらの状況はどうだ?」
「はい。今集落にいますが、近くには誰もいません」
「なるほど。それと…君はやはり「あれ」がしたいのか?」
「はい。「それ」をしたいと考えることが悪い事ではないと仰ったのは他ならぬ教祖様ではありませんか」
 信者はそう返してくる。しかし…。
「だが、「あれ」は犯罪なんだぞ?」
「これはプログラムです。犯罪ではありません!」
「しかしだね…ん? ちょっとここで切らせてもらう。またな」
 そう言って「教祖様」は通信を中断し、身を低くし、ちらっと近くの窓から外を覗いてみた。
―今、物音がしたような…。
「教祖様」は傍らに置かれた携帯端末、このゲームの参加者の首輪の電波をモニターし、全ての参加者の居場所、そして番号が分かる、支給武器のレーダーを見た。
 自分の出席番号の近く、民家の外に、「M特」と表示されている。
―奴か。
 万が一のために傍らの
太田裕一(男子3番)から奪ったコルトガバメント45口径を握り(出口も近くにある。用心は必要だ)、よく目を凝らして見た。
 窓の外で歩いている金髪の人物。誰なのかはすぐに分かった。
―間違いないな、
横井翔(男子特別参加者)だ。
 その横井は、かなり慎重に歩いている。その動きは相当熟練した動きだ。
―やはり、本当だったんだな…横井さん…。
「教祖様」は、横井と
牧原玲(女子特別参加者)の参加も事前に知り合いから知らされていた。
 そして、彼らが政府側の人間と知って、哀しく感じずにはいられなかった。
―横井も…牧原も…知らないんだな…。
 そう思うと、「教祖様」は窓から目を離した。
 涙が自然に溢れてくる。哀しくて哀しくて仕方が無いのだ。
―嫌なものだな…因縁っていうのは…出来れば、二人を敵に回したくは無かった…。二人がどれだけ辛いか、知ってるだけに…余計に…。
―しかし、やらねばならない。
―大いなる「目標」の為。そして、二人を解き放つ為に。
「教祖様」は、再び窓の外を見た。横井はもういなくなっていた。
「…計画はもう、始まっている」
「教祖様」は、そっと傍らに置かれた、この民家に来る前に寄ったある施設で手に入れた「あるもの」を手に取った。
「…私の優勝には、これが必要だろうな」
 その時、インカムで連絡があった。
「…ああ、私だ。ふんふん…生徒を一人マーク? …分かった、機を見て行動に移りたまえ」
「はい」
そして通信を終了した。
「…すまないな…皆…友人たちよ…」

                           <残り37+2人>


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