BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第18話

「ねえ、一美ちゃん…何処まで歩くの…?」
「まだまだだって。とにかく、さっきの銃声で場所を感づかれないぐらい離れるの」
 森の中を、
元野一美(女子19番)がずんずんと進んで行き、その後ろを富森杏樹(女子12番)が息を切らしながら進んでいた。
 一美は後ろをゆっくりだが歩いている杏樹のほうを振り返った。
 杏樹はやはり体力が無い。体育のときも持久走はすぐにヘバっていた。
―まったく、そんなんじゃ姫野君に会えやしないよ?
 一美は溜息をつきたくなったが、杏樹に聞こえては悪いと思い、我慢した。
―えっと、今はどこら辺だっけ…?
 一美は杏樹を待つのも兼ねて、地図を取り出し、現在地を確認することにした。
―近くに川が見えるから…それに…。
 地図から目を離して横を向いた一美の目には、鉄条網が見えた。
 地図にどうも尾賀野が書いたらしい字で、「参加者が逃げないための鉄条網です。高圧電流が流れてるから触れたら焼けてステーキになっちゃうぞ!」と書いてある。ふざけんな!
―だとすると…ここは、A−6ってことか。
 一美は周りを見回した。そこにようやく杏樹が追いついた。
―ふう、全く。杏樹ったら…。
 一美は正直言って、杏樹のこういう所や、大人しすぎる所があまり好きではなかった。
 幼馴染だからと、小さい頃から気の小さい杏樹を一美が引っ張っていくことになっていた。
 最初はそれでも良かったが、大きくなるにつれてその考えが変わっていった。
―杏樹に振り回されるのは嫌。あたしにはあたしなりの人生があるんだ。
 一美はあることに気付いた。
 ガレーシーオートマチックM9。自分に支給された武器の自動拳銃。
―これで、杏樹を殺して…。
 そんなことを考えていた。
「ねえ、一美ちゃん、どうしたの?」
 そこで一美は我に返った。杏樹が心配そうな顔で一美の顔を覗き込んでいた。
「どうしたの? 怖い顔して」
 一美は気付いた。いつの間にか、考えているうちに表情を強張らせてしまっていたことに。
―ああ、駄目駄目!
「一美ちゃん…ごめんね」
「え?」
「私…いっつも一美ちゃんに色々と助けられてた。このプログラムでもそう。だから一美ちゃんって強いなって思ってた。でも…気付いたんだ。 一美ちゃんも怖いんだって。怖かったから、あんな顔してたんでしょ? だから、私頑張る。一美ちゃんを、私も助ける」
「杏樹…」
 一美は心が洗われるような気がした。それも優しく丁寧に洗われたかのような清涼感を感じた。
―ああ。あたしったら何考えてたんだろう。杏樹はこんなに優しい子なのに。何で杏樹を殺すことなんて考えてたんだろ。何で…。
「か、一美ちゃん! 後ろ、後ろ!」
―え?
 一美が我に返ったその瞬間、ざくっという音が耳に届き、背中に痛みを感じて倒れた。
 背中を触ってみると、明らかに大量の血液が流れ出していた。
―な、何!?
 一美は背後を振り返った。そこには、血に濡れた脇差を握っていて、しかもその顔はいつもと全く変わることの無い微笑みを浮かべた、
国吉賢太(男子7番)が立っていた。
「く、国吉君…」
「やあ、富森さん、元野さん」
 杏樹の呟きに、賢太はいつものように穏やかに返した。
―な、何なの? 何で国吉君、いつもと変わらないの!?
「な、何で…こんなことを…?」
「うーん…しいて言うなら…手に入れたい物があるから…かな? そのためなら殺せるよ?」
「ふ、ふざけないで! 一美ちゃんを! よくも…よくも…!」
 杏樹が、珍しく怒りを顔に浮かべていた。そして、今にも賢太に向かっていきそうになった。
「駄目!」
 一美は杏樹に言った。
「え?」
 唖然としている杏樹に向かって、一美はさらに言った。
「あんたは姫野君に会いたいんでしょ!? だったら死んだりしちゃ駄目! 早く逃げるの!」
「で、でも…私は…一美ちゃんを…」
 なおもその場に残ろうとする杏樹の言葉を途中で遮って、一美は言った。
「早く行きなさい!」
「…ご、ごめん、一美ちゃん」
 杏樹はそう言って駆け出していった。

「…良いの? ホントは…いてほしかったんじゃない?」
 賢太が一美に向かって、言った。
「…良いの。杏樹は…姫野君に会いたがってるんだから…会わせてやらなきゃ…」
「ふーん…じゃ、そろそろ止めを刺させてもらうかな」
「構わないよ。もう…覚悟は出来てるから」
 そして直後に、一美は自分の胸元で熱いものが迸り、血液が噴出す感覚を感じた。
―ああ、あたしは死ぬんだな…杏樹…絶対に姫野君と…会うんだよ…? 頑張るんだよ…?
 そして、元野一美の意識は、途絶えた。

 女子19番 元野一美 ゲーム退場

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