BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第19話
―何で…? 何で私、逃げてるの?
富森杏樹は、元野一美が国吉賢太に刺された所から逃げていた。
―私も、一美ちゃんを助けるって決めたのに…何で逃げてるの?
走っていると、やがて目の前に谷と大きな川が見え、谷のふちに山道があるのが分かった(杏樹は分かっていなかったが、そこはエリアで言うとA−5辺りだった)。
橋などは掛かっていないようだったので、向こう側に渡ることは考えず、杏樹は山道を通ることにした。
地面はどうやら昨日岡山周辺に降った雨のせいか、かなりぬかるんでいた。
―ああっ! 私は何も出来なかった! 一美ちゃんの足を引っ張ることしか出来なくて…ごめんね! ごめんね! 一美ちゃん、ごめんね!
杏樹はひたすら心の中で一美に謝りながら走っていた。
しばらく走っていると、目の前にかなり古い吊り橋が見えた。
―あれを、渡ろうか…。
そう考えて杏樹が足を止めたその時だった。
「―――!」
突如、杏樹の足元の土の道が崩れたのだ。雨で地面が緩くなっていたのだ。
―そ、そんな―!
杏樹は必死で何かにつかまろうとしたが、杏樹の身体の転落を止めてくれそうなものは何も無かった。
―い、嫌―!
ドボーン、と派手な音を立てて、杏樹は川に落ちた。
折りしも季節は真冬の十二月。水深は深かったので身体を打つことは無かったが、水温は極端に低く、杏樹には身体が凍りつきそうに感じられた。
「プハッ!」
杏樹は必死で顔を水から出し、息をしようとした。
しかし、杏樹はあることに気が付いた。杏樹は泳げなかったのだ。
必死で足をバタ足の要領で動かす。しかしどんどん身体は沈んでいく。
―も、もう…駄目…ごめん…なさい…一美ちゃん…姫野君…。
そして杏樹の意識は薄れていった。
「…富森さん、富森さん」
杏樹は、身体を揺さぶられる感覚がした。
―何…この感覚…。
「起きて!」
―…起きなきゃ…。
杏樹はゆっくりと身体を起こした。
「あっ、気が付いた? 良かった…」
目の前で、そう呟いて安堵の表情を浮かべていたのは谷川つかさ(女子10番)、そしてその後ろでは山原加奈子(女子20番)の取り巻きの江田恵子(女子3番)、保坂小雪(女子16番)、三谷春子(女子17番)が杏樹の方を見ていた。
「富森さん、川の中で流されてたんだよ? 引き上げたけど意識が無かったから慌てちゃったよ…。何とか人工呼吸の仕方を私が知ってたから良かったけど…」
「…」
杏樹は何も言えない。
「ねえ、何があったの? 富森さん? 誰かに襲われたの?」
「ホントに大丈夫?」
「誰に襲われたか出来れば教えて欲しいんだけど…」
恵子、小雪、春子が立て続けに聞いてくる。
「…」
そして杏樹は、遂にある一言を言った。
「あの…誰ですか…?」
「え…?」
突然の杏樹の一言に、四人は唖然としてしまっていた。
「え…? それはないんじゃない? そりゃ私は富森さんとは特に話したこと無かったけど…」
つかさがそう続けた直後に、杏樹はさらに呟いた。
「分からない…何も…思い出せない…」
「ま、まさか…富森さん、記憶を…!」
「そ、そんな!」
「嘘でしょ…」
「そんな事ってあるの!?」
恵子、小雪、春子が揃って言ったが、つかさが止めた。
「仕方ないわ。富森さんが本当に記憶を失っているのなら、この状況も理解できてないはずよ。だから、私が状況を説明するから」
「わ…分かったわ」
そして、つかさは杏樹に様々なことを説明した。
記憶が無いとはいえ、一般的なことは大体分かるようだったので、つかさは安心して説明をした。
自分たちのクラスがプログラムに巻き込まれたことと、そのルール。
杏樹が菊池麻琴(女子5番)、世良涼香(女子9番)、元野一美と仲が良かったこと(つかさは杏樹が姫野勇樹と付き合っていた事は知らなかったので、それは説明できなかった)。
そして、つかさは自分たちのことも話した。
恵子が学校の近くで小雪と春子の二人と合流してその場を離れたこと(もっとも、つかさは恵子からこの話を聞いただけだったが)。
その後、現在いるエリア、川岸で、すぐ近くに大きな館が見えるC−4で三人とつかさがたまたま出会い、そのまま合流し、そこに杏樹が流れてきたこと。
他に、支給された武器は、つかさが「大東亜軍事マニュアル」と書かれた本で、恵子が種類が説明書にも書かれていない猟銃。そして小雪がコンパス、春子が爆竹だったということ。
それらの話を、つかさは丁寧に話していった。
そして話が終わると、つかさは言った。
「富森さん、どうする? 私たちはやる気はないけど…」
しばらくおいて、杏樹は言った。
「…一人で行動してても、危ないのは分かったから…。だから、一緒に行動させて下さい」
つかさは、はっきりと答えた。
「もちろんよ。歓迎するわ」
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