BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第20話
杏樹たちがいる川岸からそう遠くない森の中、エリアで言うとD−2辺りだろうか。
そこの叢が、少し動いた。
その中に潜んでいるのは板橋浩美(女子2番)だった。
―まだ歩いてる…止まったときがチャンスね。
浩美は、ついさっきから、この森の中で見つけた人物の尾行を続けていた。
その人物、女子で一番の長身を誇る女子バスケ部のエース、貫井百合絵(女子14番)は先程から、ただ森の中を歩き続けている。
友人の天野洋子(女子1番)と津山五月(女子11番)でも探しているのだろうか?
―いや、万に一つもそれだけは無い。
百合絵の後をそっと追いながら、浩美はそう考えていた。
百合絵は我が強いというか、何と言うか…自分が一番、といった性格をしている。洋子や五月といった運動部のエース連中と付き合っているのも自分をクラスに数少ない「特別な存在」にするためだけだった(本人がそう言った訳ではないが、浩美ははっきりとそう感じていた)。
少なくとも、この状況下で仲間を作ることは考えていないはずだ。
恐らく、ゲームに乗ろうと思ったが、武器がハズレだったので途方に暮れ、とりあえず移動している、といったところだろう。
―他の「信者」たちは、どうしているだろうか…?
先程の、「教祖様」との通信では、一人が未だ他生徒との遭遇なし、一人が大グループへの潜入に成功、そして一人が…。
そこまで考えたところで、浩美はあることに気が付いた。
目の前の百合絵が立ち止まり、斜面に腰掛けたのだ。
しかも、百合絵は浩美に背を向けている。絶好のチャンスだ。
浩美は右手に持ったブローニングハイパワーをしっかりと握り、外に出た。
百合絵はただ、驚くしかなかった。
突然後ろから、誰かが飛び出して来たのだから。
さらに銃声が響いた。
「きゃあっ!」
百合絵は右足に痛みを感じて、仰向けに倒れこんだ。
―痛い! 痛いぃっ! 何すんのよ! 私の足を…! これでレイアップシュートうてなくなったらアンタのせいだからね!
百合絵はそんな場違いなことを考えながら振り向いた。
そして、百合絵は見た。板橋浩美が、自分に拳銃の銃口を向けている姿を。
そんな浩美の姿は、普段から美しいと評判だったが、今は何故だか、普段の学校生活では感じない、不思議な美しさが感じられた。
「ごめんね…一発で仕留めるつもりだったんだけど…やっぱり難しいね、銃を撃つのって…」
浩美がそう呟いたのを見て、百合絵は確信した。
―この女、やる気だ! 間違いなく私を…殺す気だ! 嫌だ! 死にたくなんか…ない!
「じゃあ、おしまいにするからね」
浩美が両手でしっかりと、拳銃を握り締めた。
―ど、どうすれば…そ、そうだ!
百合絵はその時、懐に持っていた、支給武器を思い出し、それを取り出した。
「私の勝ちよ、板橋さん!」
百合絵はそう言って、拳銃を構えた。
―弾を入れるのは忘れたけど…これでこの女をびびらせれば…!
しかし、浩美は怯まずに、百合絵が持った拳銃を見て、言った。
「…モデルガンね」
―え!?
百合絵は驚いた。自分の立場が対等になると信じて出したのに、そんなことを言われてしまったのだから。
「そ、そんなことが何であんたに分かるの!」
百合絵は叫んだ。
浩美はあっさりと答えた。
「だってこれ…私のと同じ種類だから。尾賀野とかいうあの人が言ってたでしょ? 武器はそれぞれ、違うものが入ってるって」
そこで百合絵は教室での尾賀野飽人の言葉を思い出した。
「武器はそれぞれ違うものが入っていて…」そこだけを思い出した。
さらに気づいたことがあった。百合絵の持つこの拳銃は、随分と軽かったのだ。
それを百合絵は「弾が入っていないから」だと勘違いしていたのだ。
「た、助けて! 殺さないで!」
百合絵は助かりたい一心で、命乞いをした。
「無理よ。私はやらなければならないから…」
浩美がそう呟いた直後、一つの銃声が森の中に響き、同時に百合絵は眉間を撃ち抜かれ、黄泉の国へと旅立った。
「…まずは、一人…」
浩美がそう呟いて、その場を立ち去ろうとした時だった。
背後で、どさっという音がした。
浩美は振り返り、そして見た。
手にハンマーを持った山原加奈子(女子20番)が、尻餅をついているのを。
そしてその顔は、ただただ、恐怖に歪んでいた。
女子14番 貫井百合絵 ゲーム退場
<残り35+2人>