BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第21話
山原加奈子(女子20番)は、ただただ恐怖していた。
ただでさえ、自分が選ばれた人間のように考えていた加奈子は、まだ自分が父の力で助けてもらえると信じていた。
それは出発直後に、焼津洋次(男子19番)の死体の横に立っていた吉田晋平(男子20番)を見ても変わらなかった。
そしてデイパックの中で見つけたハンマーをとりあえず持って、歩いていたとき、加奈子は見てしまった。
目の前で板橋浩美(女子2番)が、平然と貫井百合絵(女子14番)を殺す、その様を。
加奈子は、その場で腰を抜かした。
すると浩美が、加奈子の方に向き直り、そして言った。
「見てたの? 山原さん…」
「ひっ…ひぃぃ…」
加奈子の歯がカチカチと音を立てる。
―怖い! 何、この女! 何なのよ!
「じゃあ、とりあえず…死んでもらうね」
浩美が一歩一歩、加奈子に近づく。
加奈子はその時、何か熱いものを感じ、そして気づいた。加奈子は恐怖のあまり、失禁してしまっていた。
―な、何よ…もらすなんて…ってそんな場合じゃない! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!
そう考えた次の瞬間、加奈子は何とか立ち上がり、慌てて南の方角へ駆け出した(もっとも、加奈子はどの方角に自分が走っているかなど確認していなかったのだが)。
そして、浩美がすぐに後を追いかけた。
浩美は、目の前を走る加奈子に向かって、拳銃を撃った。
銃声と共に、加奈子の目の前にあった木の枝が吹き飛んだ。
「ひぃぃっ!?」
―間違いない! あの女、私を殺そうとしてる! 助けて、お父様助けて! 誰か、誰か助けて! 恵子、小雪、春子、助けて!
加奈子は心の中でひたすら父や、仲間の江田恵子(女子3番)、保坂小雪(女子16番)、三谷春子(女子17番)が助けてくれることを願った。
しかし当然、そのうちの誰も来てくれる筈が無い。
やがて走り続ける加奈子の前に、小さな川が見え、その横の山道が見えた(ちなみにそこはエリアで言うとE−2にあたる場所だったが、加奈子はそんなことは知らなかった)。
加奈子はすぐにその山道に足を踏み入れた。その時だった。
あまりにも慌てていた加奈子は、足を踏み外したのだ。
―え?
加奈子の身体が、宙に舞った。
「い、嫌ぁぁぁぁぁ!」
加奈子の身体は、下に広がる川原に打ちつけられたが、まだ生きていた。
それを見た浩美は川原に下りる道を探して、川原へと向かうことにした。
―いっ、痛ぁっ!
加奈子は、過去に味わったことの無い強烈な痛みを右足に感じた。
そして右足をよく見ると…あらぬ方向に自分の右足が曲がっていたのだ!
「なっ、何!?」
加奈子の足は川原に打ちつけられた衝撃で、折れてしまっていたのだった。そして、ハンマーも何処かにいってしまった。
―そ、そんなぁ…どうすればいいのよ…。動けないよ…。お父様…助けて…。
「誰かぁっ…助…けて…」
加奈子の目には、いつの間にか涙が浮かんでいた。
「助けてあげる」
そんな声が背後から聞こえ、加奈子が振り向いてみると、先ほど自分を追っていた浩美が加奈子に向かって拳銃を向けているのが分かった。
「いっ、嫌ぁっ! 助けてぇ! お父様ぁっ! 死にたくないよぉ!」
加奈子は精一杯の命乞いをした。
「助けるのは無理ね…だいいち、足が折れてるんじゃ、放っといても野垂れ死ぬでしょ? だから…さよなら」
浩美がそう言った直後、銃声が辺りに一つ響き、加奈子の眉間に穴が開いた。
力を失った加奈子の頭が地面に落ちた。
「ふう…これで二人…頑張らなきゃ」
浩美はそう呟いて、川原から離れていった。
女子20番 山原加奈子 ゲーム退場
<残り34+2人>