BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第23話
会場の南端近くのエリア、J−3。そこにある民家の一室に不良グループの一人、平田義教(男子16番)は座り込んでいた。
傍らには支給されたデイパックの中に入っていた武器のサーベルが置かれていた。
義教は出発してからすぐにこの民家に入り込み、全く動こうとしなかった。
―ははは…俺って…とことん駄目な奴だよなぁ…。
そう思いながら、義教は自分の不甲斐無さを笑いたくなり、クスッと自虐の笑みを浮かべた。
―元太が殺されたってのに…何にも出来ない…大馬鹿野郎だ…。
そして義教は、友人、三木元太(男子18番)の首が吹き飛ぶ様を思い出していた。
義教は、不良グループで一番喧嘩に弱かった。
いや、強いことは強いのだ。現に他のグループの不良などは城戸比呂斗(男子6番)や立川大成(男子12番)程ではないがすぐにぶちのめした。
ただ…優しすぎたのだ。情が深すぎたのだ。だから喧嘩相手に情けをかけてしまい、結局やり返されることもしばしばあった。
それを比呂斗たちや、担任の横川将晴などは、「悪いことじゃない」と言ってくれ、おかげで義教は少し安心していた。
だが、こうして元太が死に、殺し合いに巻き込まれ、独りになってみると、自分の弱さを痛感した。
―俺は、弱いんだ。結局、何も出来やしないんだ。
そうして義教は自己嫌悪に陥った。だからこうして民家でじっとしていたのだ。
「俺…どうすりゃいい? 元太…」
義教は呟いた。もはや、答えなど返してくれはしない今は亡き友人に向かって。
その時、死ぬ間際の元太の顔と、その言葉が蘇った。
『そんなんだから俺より弱くなっちまうんだよ…』
―そうだった。事実、俺は元太に負けたんだ。
元太がグループに入ったのは、義教よりも後で、当時は義教の方が圧倒的に強かったのだ。
だが、あっという間に元太の方が強くなってしまった。その時、義教は思っていた。
―仕方ないか。あいつのほうが俺より喧嘩の才能があったってことだろ?
だが今、義教は気付いた。別に才能云々の問題などではなかったことに。
―何だよ、クソ。俺は、甘えてたんじゃないか。元太より弱くなったことに言い訳をつけて、何もかも放棄して、今に満足してたんじゃないか。
―そうだ。最後に元太が俺にあんなことを言ったのは、俺のそういうところに気付いてたからだったんだ。
―そうだよ、元太が最後にそう言ってくれたんだ。だったら、変わらなきゃならない。
義教はサーベルを手に取り、立ち上がった。
まずは、比呂斗や大成、津脇邦幸(男子13番)、姫野勇樹(男子15番)と会うことだ(そこで義教は、ひょっとしたら勇樹は富森杏樹(女子12番)と一緒かもしれないな、と思った)。
そして義教は慎重にドアを開けた…その時だった。
脇腹に痛みが走った。義教が不思議に思って見てみると…脇腹から何かが突き出しているではないか!
―おいおい何だ? 箱に入った人に剣を刺すマジックの進化版か? …ってそうじゃない!
隠れていたのだ! 何者かが、このゲームに乗った何者かがドアの死角に隠れていたのだ!
義教は、この何かを突き出したと思われる方向を見た。
そこには、両手で刺突武器のレイピアの柄を握り締めた横井翔(男子特別参加者)がいた。
そして翔がレイピアを抜いたと同時に傷口から血液が噴出し、義教の身体がぐらついた。
「…お前…!」
義教はすぐにサーベルを片手で振るったが、翔はそれを簡単に避けてしまった。
「…抵抗したまではよくやったよ。だが、これで終わりだ」
翔がさらにレイピアを突き出してきた。
義教はそれを何とか避けた。
―俺は強くなる! 負けない! 元太のためにも、生きてやる! 比呂斗たちと一緒に、生き残ってやる!
「あああああ」
義教は両手で握り直したサーベルを振るった。血がどんどん流れ出し、感覚が少しずつ無くなっていったが、関係なかった。
―俺は勝つ! 絶対に! 絶対に!
「うおおおお」
義教はひたすらサーベルを翔に向けて振るい続けた。もはや血が抜け過ぎて妙な感覚に襲われていたが、執念でサーベルを振るった。
「…今度こそ、終わりだ」
翔がレイピアを突き出し、それは正確に義教の喉笛を貫いた。
―ああ、俺…もう終わりかよ。元太…俺、強かったよな?
意識が薄れ始めた。
義教がごふっと血を口から噴出した。そして翔は、レイピアを抜いた。
再び血液を噴出しながら、義教の身体が仰向けに倒れ、すぐに動かなくなった。
翔は義教のデイパックや、その他の所持品を確認し、呟いた。
「こいつじゃない…殺さなきゃな…任務だから…」
そして翔は、義教の手にあったサーベルを奪うと、歩き始めた。
男子16番 平田義教 ゲーム退場
序盤戦終了――――――――
<残り33+2人>