BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第26話
D−7で、一つの泣き声があがった。
「うわあああん! 加奈子ちゃん! 加奈子ちゃんがぁぁ!」
その泣き声の主、保坂小雪(女子16番)は思いっきり泣いていた。
それは、先ほどの放送で仲間の山原加奈子(女子20番)が死んだことが分かり、いつも加奈子に頼っていた小雪は心のよりどころを無くしてしまったからだ。
「ちょ、ちょっと小雪、誰かやる気の人に見つかったりしたらどうするのよ」
三谷春子(女子17番)が必死で泣き止ませようとしていたが、小雪は泣き止まない。
それどころか、さっきから「じゃあ、何!? 春子は加奈子ちゃんが死んだのが悲しくないって言うの?」と怒鳴られる始末だ。
谷川つかさ(女子10番)と富森杏樹(女子12番)はどうしたら良いか分からず、ただオロオロするばかりだった。
その光景を見ながら、江田恵子(女子3番)は、まずます苛立ちを募らせていた。
―ああ、もう! そんなに泣いて誰かに見つかったらどうすんのよ! 大体春子に怒るなんてお門違いもいいところよ! 悪いのは全部あんたじゃない!
恵子は、本当に今、小雪をこの場で殺してやろうかと、また考えた。しかし、それはやめておいた。
ここでそんなことをしたら、この先上手くいかないのは必至だ。
ここで感情に任せて小雪を殺したりすれば、他の三人は間違いなく逃げ出す。
そして他の生徒に会ってしまった場合、自分がやる気になったことをまず間違いなく話すだろう。
そうやって、どんどんその話が広まり、結局騙し討ちは出来なくなってしまう。
恵子自身に体力があれば良かったのだが、恵子は基本的に運動を好まないので(汗をかくのが大嫌いなのだ)、運動音痴になっていた。
だからこそ、騙し討ちを考えていた。
騙し討ちならば、よほどのことが無い限り仕留められるし、上手くいきそうに無くても、わざと出てきて「やる気じゃない」よアピールし、相手を騙していざという時に殺すか弾除けにすればいい。
恵子にとって、それが一番だった。
―だから、殺すときは隙を突いて全員殺すのが一番ね。だから我慢…。
―まずは、小雪を黙らせないとね。
恵子はそう考えて、取り敢えずまだ泣いている小雪を、危険回避のために静かにさせようとした。
「小雪…お願いだから静かにして? 谷川さんと富森さんも困ってるし、これ以上春子に迷惑かけるつもり?」
だが、小雪は反論した。
「だって、だって加奈子ちゃんが死んじゃったんだよ!? それに、恵子のせいで加奈子ちゃんは私たちと合流できなかったんだよ!? 加奈子ちゃんが一人で死んでいったのは恵子のせいだよ!」
これには、恵子も腹を立てた。
―何よそれ? 何で私のせいになるのよ! 加奈子が死んだのは殺した相手が悪いんであって、私のせいなんかじゃない! ふざけんじゃないわよ!
「あんたねぇ、いい加減にしな! 春子に八つ当たりしたり、私のせいにしたり! 加奈子が死んだのは私のせいでもなんでもないわよ!」
「うるさーい! 何で私が怒られるのよ! もう嫌! 嫌嫌嫌嫌嫌…」
小雪がそこまで言った時だった。
ズドン、という大きな音と同時に、小雪の頭部が消えていた。
近くにいた春子、つかさ、杏樹の身体に何かが飛び散り、それを三人が小雪の頭部の破片だと気付くと同時に、悲鳴を三人があげた。
頭部を失った小雪の身体は、ゆっくりと仰向けに倒れた。
当然、二度と動くことは無かった。
そして小雪と向かい合っていた恵子の手には猟銃があり、その銃口からは白い煙が上がっており、恵子が猟銃を小雪に向けて撃ったのは明白だった。
「な、何するのよ恵子!」
春子が叫んだ。すると恵子は言った。
「うるさいわね! 小雪をさっさと黙らせなきゃいけないでしょ!? 大体、小雪は加奈子が死んだのを私のせいにしようとしたり、あんたに八つ当たりしたりしたのよ? 向こうだって十分悪いじゃない!」
「そりゃ小雪も悪いけど、何も殺すことは無いじゃない!」
そして二人は言い争いを始めてしまった。
「いい加減にしないとあんたも殺すわよ、春子!」
恵子は春子に向かって猟銃の銃口を向けた。
「あんたこそいい加減にしてよ! 今ここでこんなに騒いだりしたら誰かが来ちゃうでしょ! それにその相手が特別参加者だったらどうするのよ!」
「うるさいうるさいうるさい! もういい! ここであんたも他の二人も殺して、私が優勝してやる!」
そう言って恵子は猟銃を乱射し始めた。
もう完全に、恵子はイライラしすぎて半狂乱になっていた。
「ひ、ひぃっ!」
恵子が乱射した弾の一つが足元に着弾したことに恐怖した杏樹は、肩にデイパックを懸けて何処かへと走り出してしまった。
「と、富森さん!」
それを見てつかさが杏樹を追う。
そして、そんな光景をある人物がじっと見ていた。
女子16番 保坂小雪 ゲーム退場
<残り32+2人>