BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第27話
―二人、逃げたか。
―まあ仕方ないかな。この状況じゃ。
―恐らく十中八九、あの二人は殺しあうだろう。
―漁夫の利を手に入れるか? それとも今から出るか?
―よし、決まり。
そしてある人物は、そっと動き始めた。
「こうなったらもうヤケよ! 計画なんか知ったこっちゃない! 今からあんたを殺して、私が優勝するのよ!」
江田恵子は、目の前の三谷春子に向かって言い放った。
その眼は血走り、もはや正気を無くしているのは間違いない。
「け、恵子! あんた何言ってんのよ!」
春子は叫んだ。いくら保坂小雪を殺したとはいえ、春子にとって恵子は大切な友人だ。何とか正気に戻らせたかった。
「うーるーさーいー! もう黙りなさいよ! どうせ最初から優勝する気でいたんだから、あんたなんか簡単に殺せるわ!」
―えっ、優勝する気だった? 最初から? どういうこと?
そこで春子は知った。恵子が狙っていたのは、優勝であり、自分たちとの合流も、恐らく自分たちの支給武器に期待してのことだった、ということに。
「そんな…恵子…嘘でしょ…? 恵子が…私たちを利用しようとしてたなんて…嘘だって言ってよ、ねぇ!」
しかし、恵子は正気を失った眼で思いっきり邪悪さに満ちた笑いを浮かべて、言った。
「本当よ。私は優勝するのよ! 死にたくなんかないもの。まだたくさんたくさんやりたいことがあるんだもの! それはあんただって同じでしょうが!」
―これが、恵子の、本性なの?
春子には、どうしても信じることが出来なかった。
―恵子は、親友だと思ってた彼女は、こんな人だったの?
春子は恵子との思い出を振り返り、現実から逃避しつつあった。
―中一の時、恵子は数学が得意で、私は英語が得意で。それを知ってお互い勉強を教わりあいながら、話をしていたら気が合って。そこから私は恵子を加奈子の仲間に引き込んで、それ以来ずっと友達だったはずじゃない?
―中二の時、恵子は多分何気なく言ったんだと思う、でも私は一生忘れないと誓った恵子のあの言葉。
―「私、春子と友達になれて本当に良かった」。
―あの言葉は、嘘だったの!? 恵子!
―信じられないよ、私…私…!
春子の眼からは、自然に涙が溢れてきていた。
―前が、見えないや…。
―恵子、唖然としてる…。そりゃそうか…急に泣き出したんだもんな…。
そこで突然、ズン、という音が春子の耳に届いた。
―あれ…目の前が赤いや…?
春子の目の前が、突然真っ赤に染まった。
そして、再びズン、という音と共に、春子の意識は飛び、永遠に戻っては来なかった。
「な…ななななな」
恵子は驚愕していた。
目の前でうつ伏せに倒れている春子のぴくりとも動かない身体。
そしてその春子をいとも簡単に葬り去った、左手に血染めの釘バットを持った女―牧原玲(女子特別参加者)。
「と、特別さささ参加者…!」
恵子はすぐに猟銃を構え直し、目の前に立つ玲目掛けて撃った。
ズドン。
銃声が響き、目の前の玲が吹っ飛…んではいなかった。
というよりも、「もう、その場にはいなかった」と言ったほうが正確かもしれない。
「な、何で何で何で!? ど、何処に? 一体何処に?」
恵子には何が何だか分からず、それがますます彼女をイライラさせていた(もっとも、もう「イライラする」ということの意味すら忘れかけるほど錯乱していたが)。
すると突如、自分の首が圧迫されるような感覚がした。
―な、何これ!? く、苦し…!
必死で恵子が振り返ってみると、そこでは玲が空いた右手で恵子の首を掴み、持ち上げている光景が写っていた。
―ちょ、ちょっと…何よこれ! 何で私が持ち上げられてるのよ! 何で! 何で何で…。
恵子は意識が薄れてゆくのを感じた。
やがて恵子の身体が力を失った。気絶したのだ。
そして玲がその恵子の頭を釘バットで思いっきり殴りつけると、恵子の頭蓋骨が割れ、中の脳漿が飛び散り、恵子は息絶えた。
そこでようやく玲は右手の力を抜いた。恵子の身体は土の地面に叩きつけられた。
玲は、恵子の持っていた猟銃を拾い上げ、恵子のデイパックから予備の弾を見つけ、さらに残された春子のデイパックから爆竹を見つけ、自分のデイパックにしまった。
小雪のデイパックにはコンパスが入っていたが、玲は目もくれなかった。
そして、玲は歩き始めた。
女子3番 江田恵子
女子17番 三谷春子 ゲーム退場
<残り30+2人>