BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第28話

 エリアで言うと、E−9にあたる森の中。
 その中を、
谷川つかさ(女子10番)は走っていた。
「富森さん、どこ? 何処に行ったの!? 富森さん!」
 彼女はただひたすら、
江田恵子(女子3番)が猟銃を乱射した時、その場から逃げた富森杏樹(女子12番)を探していた。
―富森さんは、記憶を失っているし、だいいち武器だって持ってないのよ!? このままじゃやる気になってる誰かに殺されちゃう!
 つかさは杏樹を探すためにひたすら、闇雲に森の中を駆け回っていた。
 不安になってくる。せっかく仲間になれた恵子たちのグループもこうして壊れてしまい、杏樹もいなくなってしまった。
―ああ、こんな時に彼が―、宇崎君がいてくれたら良かったのに。
 つかさはそこで、
宇崎義彦(男子2番)のことを考えた。
 義彦とは話したことは無かった。だがつかさは、いつも義彦のことを見ていた。義彦のことが好きだった。
 つかさは、義彦を昔、見たことがあった。

 五年前起きた、あのテロ事件。
 つかさも、その被害を受けた一人だった。
 当時東京に住んでいたつかさはそのテロが起きる少し前に、郊外の大きな神社まで友人と一緒に初詣に出かけていた。
 そしてお賽銭をしようとしたその時、大爆発が起きたのだ。
 つかさには何が起きたか分からず、とにかく両親がどうしているか確認しようと家まで急いで戻った。
 家に辿り着いたつかさは、呆然としていた。
 家は爆風で完全に吹き飛び、そして…肉片が辺りに飛び散っていた。
 そして、父の日に母親と一緒に選び、いつも父親が着けていた腕時計が、午前0時15分で止まり、血に染まって転がっていた。
「お、お父さん…お母さん…! う…うわぁぁぁぁぁん!」
 つかさはその場で泣き崩れた。
 その時だった。
 突然、つかさの背中にコートがかけられた。
 はっとしてつかさが振り返ると、そこには何か薄汚れた服を着た、自分と同じくらいの年の少年が立っていた。
「あの…誰?」
 何が何だか分からず、少年につかさは尋ねた。
「…すみませんでした」
 彼は立ったまま、吹き飛んだつかさの家を見ながら、そう呟いた。
 そこでつかさは気付いた。彼が…泣いていることに。
 しかし、つかさには彼が言ったことの意味が分からず、もう一度尋ねた。
「あの…すみませんって…どういうこと?」
「すみません…ごめんなさい。ごめんなさい! ごめんなさい…」
 彼はそれでも涙をぽろぽろと零しながら、そう言い続けるだけで、やがてその少年は立ち去ってしまった。

 その後、岡山に住んでいた母方の祖父母に引き取られたつかさは、二年後、上祭中に入学した。
 その時クラスメイトを教室で見渡すと、いたのだ! 東京でテロの直後に会ったあの少年が!
 そしてつかさは、その少年が宇崎義彦ということを知り、あの時のことについて訊こうと考えた。
 しかし彼にはなかなか話しかけられず、仕方なく、下校する時に話しかけようとした。
 義彦を追いかけてみると、彼は帰る前に公園に寄って行った。
 何なのだろうかと思い、さらに追いかけてみると、義彦は公園にあった大きなモミの木の下で、あの時と同じように、肩を震わせ、泣いていた。
 さらに彼が、呟く声が聞こえた。
 彼は確かにその時、こう言ったのだ。
「あいつが…今でも俺を苦しめる…ちくしょう…あいつはもう死んだのに…何で…」と。
 結局、つかさはその時も義彦に話しかけられなかった。そしてその後もろくに話をすることなく、三年になってしまった。
 つかさは悟っていた。
 彼は何か、テロで大きな苦しみを抱えている、と。
 そして、それを知ると、何故かどんどん自分の心の中で、彼の存在が大きくなっていることに。

 そして今もつかさは、彼を求めている。
―でも今は、富森さんを探す方が先決よ。
 やがて森を抜け、つかさはE−10に入ったことを知った。
 長く走っていたせいか、つかさはもう、息も絶え絶えになっていた。
―少し、休憩しよう…。
 そう思って、近くにあった木の幹に身体を預け、座り込んだその時だった。目の前の茂みがガサガサと動いた。
―だ、誰かが来た! もし、や、やる気の人だったら…。
 そう考えていると、茂みから突如、
吉田晋平(男子20番)が飛び出してきた。その手には、サバイバルナイフがある。
 晋平は無言でつかさに向かってきて、サバイバルナイフを振るった。
 つかさは咄嗟にデイパックで受け止めようとしたが、遅かった。
 晋平のサバイバルナイフは、つかさの左腕を切り裂いた。
「いっ、痛ぁっ…」
 つかさはその場に、しゃがみこんでしまった。
 そしてさらに、晋平がサバイバルナイフを振るおうとした、その時だった。
 ぱららららという、連続した銃声がし、突然晋平の左肩辺りが発射された銃弾の一つに抉られた。
「痛ぅっ…」
 そう呻くと、晋平は左肩を抑えながら、何処かへと走り去っていった。
―な、何が起きたの? まさかまた、やる気になった人が…!
 そう思って恐怖していると、銃声がした方の茂みから、一人の、右手にやや小さなマシンガンを(つかさは知らなかったが、勇樹の持っていたそれは、マイクロウージーというマシンガンで、今回のプログラムで生徒に支給された武器の中ではおそらくトップクラスの威力を持つと予想される代物だった)持った男子生徒が立っていた。
 その男子生徒は、かなり長い金髪を後ろで紐で括っていた。
―間違いない。姫野君だ。
 そこでつかさは、男子生徒の正体は
姫野勇樹(男子15番)だと分かった。
 つかさの知っている限りでは、勇樹といえば
城戸比呂斗(男子6番)などの不良グループにいる、風貌からは予想もつかないほどの硬派だ、というイメージを持っていた。
 しかし、勇樹がやる気になっているのかどうかは、まだ分からない。
 そう思うと、つかさは不安になってきた。
 やがて、勇樹がこちらに近づいてきた。つかさは思わず身構えた。
「谷川、大丈夫か?」
 勇樹はややぶっきらぼうな感じでそう言った。
「う、うん…」
 すると勇樹は、つかさがまだ怯えているのに気が付いたのか、言った。
「ああ、大丈夫だ。俺はやる気じゃない」
「本当に?」
「そうだ。まあ、積もる話もなんだ、お前、怪我してるみたいだしな。G−9にある病院に行って処置をしよう。話はそれからだ」
 つかさは、こくんと頷いた。

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