BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第29話
エリアで言うとちょうどI−6とI−7の境辺りに位置する地点。
そこに走る道路をひたすら西に、小柄でいかにも活発そうな、しかし今はとてもそんなに明るそうに見えず、ただただ恐怖に顔を歪ませた少女が走っていた。
―何で? 何でよぉっ! 何で…ヒロミィが…。
その少女、畑槙乃(女子15番)は、自分が今置かれている状況を上手く飲み込めずにいた。
自分の友人であるはずの、そしていつも槙乃が「ヒロミィ」とあだ名をつけて呼んでいた少女、板橋浩美(女子2番)が自分を追いかけているのだ。しかも、その右手には拳銃がある。
槙乃は最初、「自分がプログラムに選ばれた」ことが実感できずに、これは夢だと、教室で担任の横川将晴の死体が出てきたことも、三木元太(男子18番)が死んだことも、皆が仕組んだジョークだと思おうとしていた。
だがそれも、出発してすぐに廃校の前で太田裕一(男子3番)が倒れているのを見つけ、そして裕一の身体に撃たれた跡らしきものを見つけ、本当に死んでいるのを知って、槙乃はようやく理解したのだ。
―これはジョークでも何でもない! 本当に殺し合いが始まったんだ!
槙乃はそう思うと怖くなって、すぐにその場を逃げ出し(逃げる途中で曽野亮(男子11番)を見かけた。しかし、手に銃らしきものを持っていたので裕一を殺した犯人かもしれないと思い、すぐにまた逃げた)、I−9に建っていたどこかの会社の倉庫みたいなものの中に隠れ、ひたすら友人である浩美や、谷川つかさ(女子10番)、結城真保(女子21番)のことを考えていた。
―皆、何処にいるのかな?
そしてさっきの放送でさらに何人かが死んでいたことを知り、おまけに自分がいるところが禁止エリアというものに入ってしまうということを聞いた。
それで慌てて荷物をまとめ、工場を飛び出し、地図ではI−7、市役所が建っているあたりでついさっき…浩美を見た。
すぐに槙乃は安心して話しかけようとした。その時、浩美は何か迷ったような顔をしたかと思うと、槙乃に向かって拳銃を撃ってきた。
幸い、その弾は槙乃には当たらなかったが、槙乃は当然逃げ出した。そして浩美も槙乃を追ってきた。
そして今に至っていた。
―何でヒロミィが私に向かって撃ってくるの? 分かんない! 全然分かんないよぉ!
―やっぱりこういうときは対抗した方がいいのかな? でも私の武器はシーナイフとかいうなんかちっちゃいナイフだったし…っていうか、友達に攻撃なんて出来ないよ(もっとも浩美はその友達であるはずの槙乃に対して発砲しているのだが)!
槙乃はただただ走るしかなかった。
だんだんと足が重くなってくる。真冬とはいえかなり走ったからか、汗も大量に出ている。
浩美はちょっとずつ槙乃に接近していた。
「はあっ…はあっ…」
―も、もう駄目…!
槙乃がそう思ったその瞬間だった。
突然何者かに脇道に引っ張り込まれ、何処かへと連れて行かれたのだ。
―な、何!?
槙乃にはもはや何が何だか分からなくなっていた。
やがてその何者かは、何かの建物の前で止まった。浩美はもう、追ってこなかった。
―な、何なの!? 一体誰が…私を…。
そしてその何者かは、目の前に建った建物、旅館を指差して、言った。
「一緒にここに、隠れない?」
その人物のことを、槙乃はあまり知らなかったが、浩美についさっき裏切られたばかりの槙乃は、その人物を信用した。
「うん、分かった」
―信用できる人がいた―。
槙乃は、そう思っていた。
「教祖様」のもとに、再び連絡が入ってきた。
「…ああ、私だ」
しかし「教祖様」は、相手の信者の一人が言った一言に、驚愕した。
「な、何!? 畑槙乃を拘束した!?」
畑槙乃なら、ついさっき「教祖様」は見かけたばかりだった。
放送が終わってからもI−8に留まり続けていた「教祖様」は、畑槙乃が東の方から走ってきたのを民家の中から見ていたのだ。
その時はまだ、エリアI−9は11時から禁止エリアになるのだから、そんなに急がなくてもいいんじゃないかとか、その程度にしか考えていなかった。
だがまさか、信者の一人が彼女を捕らえてしまうとは…。
「私たちの仲間でもある板橋さんに追われていたようで、今落ち着かせています。その後で…」
「何故そんなことをするんだ! 板橋は…浩美は、我々の仲間なのに、邪魔をする必要は無いだろう!」
「しかし、私は「あれ」がしたいのです。五年前から、ずっと「あれ」をやりたくて仕方がなかったのです」
「だが、畑槙乃は我々とは何の関係も無い!」
「とにかく、私はやらせていただきます。では」
「あっ!」
それっきり、通信は途絶えた。
「教祖様」は、頭を抱えた。
理解していないわけではない。だが人間として、やってはならないこと、タブーはあるのだ。
そして今、自分の信者の一人が、そのタブーを犯そうとしている。
「どうすればいいんだ…」
「教祖様」は悩み続けていた。
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