BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第30話
谷川つかさ(女子10番)は、ひたすら歩いていた。
その前を、マイクロウージーをスリングで肩から提げた姫野勇樹(男子15番)がすたすたと歩いている。
先ほどから、勇樹は何も話してこない。
一体何故なのだろうか? と、つかさは考えていた。
さっきから南へ南へと進んでいるから、そろそろG−10を抜け、病院のあるG−9に入る頃だろうか。
そこでやっと、勇樹が言った。
「着いたぞ、谷川。病院だ」
つかさが見てみると、それは六階建ての、見栄えはなかなか立派な病院で、「寒河総合病院」と看板には書いてあった。
―ソウゴソウゴウビョウイン…!
そう思うと、つかさは思わず吹き出してしまった。
「どうした? 入るぞ」
だが、勇樹はそんなつかさに構わず、病院の敷地内へとずんずん入っていく。もちろんマイクロウージーの引き金には指をかけたままだった。
つかさも後から続いていった。
「ふわぁ…!」
つかさは院内を見て、驚いた。
見栄え通り、中もしっかりしたもので、新築と見間違えそうな感じだった。
ここの人たちがよく綺麗にしたんだな、とつかさは感じていた。
「何してる、先行くぞ」
しかしその間にも、勇樹は先へと進んでいく。
「ちょ、ちょっと待って、姫野君!」
慌ててつかさもまた、勇樹の後を追う。
そして勇樹は、「診察室」と看板が掛かった部屋の中に入っていき、つかさもそれに続いた。
中に入ると、勇樹は医者が座っていたと思われる事務用椅子に座っって、つかさに向かって、言った。
「まあ、座れ。医者でもない俺が言うのも何だがな」
そういわれて、つかさは患者用のベッドに腰掛けた。
「…まずはお前のその傷の処置からだな」
勇樹はそう言って立ち上がると、何処かへと歩いていった。
つかさがそっと覗き込んでみると、何やらいろいろな物が入った棚を漁っているのが見えた。包帯などを探しているのだろう。
やがて、勇樹が手に消毒液と包帯を一巻き持って、戻ってきた。
「傷口を見せな」
つかさは、言われたとおりに吉田晋平(男子20番)に切り裂かれた左腕を見せた。
そこからは血がかなり出ており、傷口も約5、6センチといった大きさだったが、それほど深くはないようだった。
「染みるが、我慢しろよ?」
勇樹はそう言うと、つかさの左腕に消毒液をかけた。
確かにかなり染みたが、つかさは耐えた。
そして勇樹は、包帯を用意して、傷口に巻き始めた。その手つきはかなり手馴れた手つきだった。
包帯がきっちりと固定された。つかさは尋ねた。
「何でこんなに…上手なの?」
「よく喧嘩して、自分で包帯巻いたり、消毒とかはやったからな。このくらいなら出来る。…それよりも、俺に聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「う、うん。何で…私を助けてくれたの?」
勇樹は平然と答えた。
「俺は困った奴を見過ごすのは好きじゃない」
「…じゃあ、やる気はやっぱり…」
「ない」
勇樹は短く、答えた。
「それじゃあ、今まで何してたか、教えてくれ」
そしてつかさは答えた。出発してからしばらくして、江田恵子(女子3番)、保坂小雪(女子16番)、三谷春子(女子17番)と、仲間になったこと。さらに富森杏樹(女子12番)が川上から流れてきたので助け、合流したこと。放送の後、突然恵子が小雪を撃ち殺し、杏樹が逃げ、それを追いかけたが逸れてしまい、そこを吉田晋平に襲われ、勇樹に助けてもらったこと。全てを話した。
すると、勇樹の顔色が変わった。
「杏樹と、会ったのか…? 様子はどうだった!? 教えろ、谷川ぁ!」
勇樹はつかさの肩を掴み、前後に揺らしながら言った。
「特には…でも、記憶を失ってて…」
「き、記憶…を? 本当か?」
「う、うん…」
「そ、そんな…杏樹…嘘だろ…!」
勇樹は力なく、椅子に座り込んだ。
つかさは、勇樹の様子が変だと感じ、尋ねてみることにした。
「ねぇ…何でそんなに杏樹のことを…?」
「俺は…杏樹と付き合ってんだ」
「ほ、本当!?」
「…嘘なんかつかない。俺は杏樹を守りてぇんだ。だから探してるのに…記憶が…俺のことも分かんないのかよ…!」
勇樹は、そのまま俯いてしまった。
そんな勇樹に、つかさは言った。
「一緒に富森さんを、探そう?」
「え…」
「富森さんは、私のことは分かってる。だから、私が説得すれば、姫野君のことも思い出してくれるかもしれないよ。だから…一緒に行こう?」
「…谷川…」
すると勇樹は、すっくと立ち上がり、言った。
「ありがとう、谷川」
そして二人は、診察室から出て行った。
<残り30+2人>