BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第35話

 そろそろ放送の時間だな、と姫野勇樹(男子15番)が考えていた頃に、放送は始まった。
「皆さんこんばんは! 担任の尾賀野です!」
―ああ、相変わらずムカつく声だ。
 勇樹は苛立ちを隠せず、地面を蹴った。それに少し
谷川つかさ(女子10番)が驚いたようだったが、何でもない、と言っておいた。
「もう真夜中だから寝てる人もいるかもしれませんが、勝手に放送させてもらいます! まずは、これまでに死亡したクラスメイトを伝えます。まず、
女子16番、保坂小雪さん女子17番、三谷春子さん女子3番、江田恵子さん男子10番、瀬古雅史君。以上四名です。ちょっとペースが落ちてるんじゃないかー? もっと皆頑張って殺しあってくれよ? それじゃあ次は、禁止エリアの発表なので、副担任の彬合先生に代わります」
 勇樹は、ちらっとつかさの方を見た。つかさは、カタカタと身体を震わせていた。
「三谷さんが…江田さんが…」
 やはり、少し前まで一緒に行動していた
江田恵子(女子3番)三谷春子(女子17番)が死んだのは、相当のショックだったようだ。富森杏樹(女子12番)や、城戸比呂斗(男子6番)たちの仲間が呼ばれなかったことで、ほっとしていた自分が、馬鹿に見えた。
「それでは、禁止エリアの発表をします」
 声が、彬合晴知のものに変わった。
「まず、1時から、G−9」
 これはさっきまで勇樹がつかさと一緒にいた病院があるエリアだ。ということはもう、このエリアには入れないということだ。
「3時から、D−2」
 これは完全に山のふもと、おそらく森がかなり広がっているあたりだろう。
「5時から、A−5」
 これはこの会場に流れる川が始まっている辺りだ。
「以上です。それではまた、生きていたら次の放送で会いましょう」
 彬合のその言葉を最後に、放送は終了した。
―今のところ、俺と谷川がいるエリアは大丈夫みたいだな…。
 勇樹とつかさは今、F−7辺りのエリアにいた。そしてここから北に行けば多分、つかさが最初、一緒にいた江田恵子、保坂小雪、三谷春子の死体が転がっていることだろう。
「三谷さんも…江田さんも…保坂さんも…皆死んだ…そんな…ちょっと前まで生きてたのに…」
 どうやら、まだつかさは立ち直れていないようだ。勇樹はつかさに言った。
「谷川…もう、死んでしまった奴らの事を悔やんでても、始まらないと思うぞ? 俺たち、生きてる奴らは、その分前に進むべきだと…俺は思う。まあ、当たってるかどうかは分からないけどな」
「う…うん」
 そう呟くと、つかさは顔を上げた。
「よし、それじゃあ杏樹をまた探そうか…!!」
 そこまで言ったところで、勇樹は何者かの気配を感じたような気がした。
「谷川、隠れろ」
 勇樹はつかさを近くの茂みの中に隠すと、その気配がした方向に、肩から提げていたマイクロウージーを向け、同時に懐中電灯を向けた。
「誰だ。出て来い。出てこないなら敵とみなして撃つぞ」
 勇樹がそう言うと、その相手は、茂みの中から姿を現した。
 そこには、何処かの民家から防寒用に調達したのか、ウインドブレーカーを着込み、いつものように柔和な笑みを浮かべた
国吉賢太(男子7番)が立っていた。
「国吉…」
「そっちは、姫野君か…谷川さんも一緒?」
 どうやら賢太は、つかさの存在に気付いているようだ。
「出てきたってことは、お前はこのゲームに乗っていないのか?」
 すると、賢太はゆっくりと首を横に振った。
「いいや。僕は…どちらかといえばやる気かな?」
「何!?」
 勇樹は、しっかりとマイクロウージーを握り締めた。
「いや、硬くならなくてもいいよ。僕は君のその武器には勝てないかもしれないから、ここでは君を襲わないよ」
 そう言って、賢太は右手に持った拳銃(
元野一美(女子19番)のものだったガレーシーオートマチックM9だった)と、左手に持った脇差(これは賢太の支給武器だった)を高く掲げた。
「…武器を二つ持っているってことは…誰かを殺したのか」
「まあね。この銃は元野さんを殺して手に入れたものだよ。富森さんは逃がしてしまったけど」
「何!? 杏樹に会ったのか! 何処でだ!」
 勇樹は驚きながらも、そう言った。
「A−6で、元野さんと一緒にいたから、襲ったんだ。富森さんは西へ逃げた」
 すると、勇樹の背後にいたつかさが呟いた。
「A−6の近くって、川があるから…ひょっとして、国吉君から逃げた後、川に落ちたんじゃ…」
「何だと!?」
「じゃあ、そろそろ僕は行くよ」
「待て!」
 賢太が動こうとしたのを、勇樹は止めた。賢太が振り返って、訊いた。
「何か?」
「…もし、杏樹にまた会っても、殺すな。あいつは、今記憶を失ってるんだ…、頼む!」
 賢太が、怪訝そうな顔をした。
 無理だとは思っていた。相手は既にやる気になっているのだ。普通に考えればそんな頼み事、受け入れられるはずがない。
 賢太は、少しおいて言った。
「…考えておくよ」
「…え?」
 勇樹は賢太にさらに何か言おうとしたが、賢太の予想外の反応に驚いたからなのか、声が出せなかった。
 そして賢太は、歩いていった。
 勇樹は、それを見送った。

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