BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第37話

「吉田…許さねぇぞ…」
 
雨宮広将(男子1番)は、目の前にいる、津山五月(女子11番)を殺した男、吉田晋平(男子20番)に向かって、もう一度叫んだ。
 晋平は、言った。
「許してもらえなくても…いいよ…。これは、俺がやらなきゃいけないことなんだよ…」
「人殺しがか? 笑わせるな! よくも五月を…ずっと一人で…寂しがってた五月を…! 殺してやる!」
 すると、晋平は踵を返して走り出した。
「なっ、逃げるのか!? 待て、吉田!」
 広将も後を追った。

 広将は自分がいつから、キレると相手をボコボコにしてしまうようになったのか、覚えていない(少なくとも、小さい頃はそんなに怒らなかった)。
 最初にそれが分かったのは、小学校5年の時だったと思う。
 バスケの試合で、相手が評判の良くないチームだったとき、相手の選手が広将が特にかわいがっていた後輩を故意にケガさせた時だった。
 何が何だか分からなくなり、我に返ると、目の前でその選手が「許して下さいぃぃ…」とボロボロになって泣き叫んでいた。その試合は、没収試合となった。
 広将は、自分の欠点を知ったときから、必死でキレないように努めてきた。
 時々、部活仲間で主将になった
浜口武(男子14番)が自分勝手な言い訳を言ったときなど、本気でやばかったこともあったが、何とか抑えてきた。
 しかし、五月を、大事な人でもある五月をこうも簡単に殺した、晋平を許すわけにはいかなかった。

 広将は、晋平を追って、E−3までやってきた。
 しかし、晋平が何処にいるのか、皆目見当がつかなかった。
―くそっ! こっちに来たのは間違いないのに…。
 その時、銃声と共に、広将の近くの土が跳ねた。
 その方向を見ると、探していた吉田晋平が立っていた。右手には銃口から硝煙が昇る、拳銃を持って。
―あいつ、拳銃も持ってたのか! だが…。
 広将は、ちらっと晋平が撃った銃弾が跳ねた地面を見た。
―かなり見当ハズレのところに撃ってるところを見ると、あの銃の扱いにはまだ慣れてないな! なら…。
 広将はすぐにスタートを切った。
―素早くあいつのもとに到達して、この槍で仕留めてやる!
「五月の仇…とってやるぜーっ!」
 晋平が、広将が近づいてくるのに驚いたのか、さらに銃を撃ってくる。しかし、広将には当たらない。
 すぐに、広将は晋平の近くまで進んだ。
「今すぐに殺してやる! 吉田! 五月の痛み、お前も味わえ!」
 広将は、槍をしっかりと両手で握り、晋平目掛けて突き出そうとした…その時だった。
 ざくっという音と共に、広将の首から、熱いもの…血液が噴出していた。
 広将は、何が起きたのか分からず、血が吹き出している方向を見た。
 ついさっき、五月を刺すのに使われたサバイバルナイフを持ち、顔に鮮血が飛び散った少女、
板橋浩美(男子2番)が、そこには、いた。
―こ、こいつに…刺された? そんな…。
 しかし、広将は諦めなかった。
―でも、俺はこの…五月を殺した吉田を…殺すまで! 死ねない!
「う…うおあぁぁあぁぁ」
 広将は、必死で晋平に向かっていった。
 だが、晋平が持った拳銃から放たれた一発の銃弾が、広将の右足を撃ち抜いた。
「ぐぁぁぁぁ!」
 広将はその場に倒れこみ、それと同時に、再び首から熱いものが噴出すのが分かった。
―ち、ちくしょう…五月…五月ぃ…。
「さ…つき…」
 広将の意識は、そこまでだった。

「…上手くいったみたいよ、吉田君」
 浩美は、晋平に言った。
「ああ…しかし、よくここまで来てくれたね。教祖様に訊いて、俺の一番近くにいるのは板橋さんだとは訊いたけど…それでも遠かっただろ?」
「でもね…吉田君だけじゃ、荷が重いかと思って…」
「それは酷いよ」
 晋平がむすっとした。
「あっ、ゴメンね。それじゃ、このナイフ、返すね」
 浩美は晋平に、サバイバルナイフを返した。
「こちらこそ、拳銃を貸してくれてありがとう」
 晋平も、ブローニングを浩美に手渡した。
「俺は、これがあれば十分だよ」
 そう言って、晋平は広将の手にあった槍を取った。
「それじゃ、行くけど…頑張りましょうね」
「ああ、お互い、頑張ろう。教祖様の…信徒同士、な」

 男子1番 雨宮広将 ゲーム退場

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