BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第4話
―まーったく、アイツら、ホント今時の不良っちゅうのが嫌いなんやなあ…。
横川将晴(岡山県大佐町立上祭中学校3年担任)は教卓に頬杖をつき、先ほどの城戸比呂斗(男子6番)らとの出来事を思い出しながら、教室中を見回していた。
今日はクラスで行く旅行の打ち合わせを、事前に組んだ七人班でやっている。
将晴の目の前では宇崎義彦(男子2番)を中心とした、狩野貴仁(男子5番)、国吉賢太(男子7番)、白鳥浩介(男子9番)、和歌山啓一(男子21番)らのグループが、人数合わせに一人でいた男子学級委員長の太田裕一(男子3番)と他の仲間と組めなかった瀬古雅史(男子10番)を入れた班が話し合っている。
今のところ、義彦の意見と裕一の意見が食い違い、揉めているようだ。
裕一は融通が利かない、頭の固い性格だ。なかなか決着はつかないだろう。
そういえば、義彦たちはいつも一緒に学校に来るが、浩介だけは後からやって来た。何故なのだろう。
将晴はさらに横を見た。城戸比呂斗たちのグループが打ち合わせそっちのけではしゃいでいた。
将晴は比呂斗たちに言った。
「おい、お前ら、他にも話し合いしとるんもおるんや! 静かにせい!」
「は、はあ…」
比呂斗たちは黙った。
将晴は改めて教室を見回した。いつも一緒につるんでいる女子陸上部の天野洋子(女子1番)、バレー部の津山五月(女子12番)、女子バスケ部の貫井百合絵(女子14番)たちが、派手な格好をしている、クールな菊池麻琴(女子5番)、典型的コギャルの世良涼香(女子9番)、大人しめの富森杏樹(女子13番)、姉御肌の元野一美(女子19番)らが話し合いをしていた。
どうも、こちらもやや我の強い涼香と百合絵、洋子が揉めているようで、それをそれぞれ杏樹と、五月が収めようとしていた。麻琴は呆れ顔でそれを見ている。
そして隣では女子の学級委員長の中元理沙(女子13番)が越谷美里(女子6番)、坂之下由美(女子7番)、島野明子(女子8番)のグループに元気のいい畑槙乃(女子15番)と良家の子女の結城真保(女子21番)を交えて話し合っていた。
その班には、気が弱く友達のいない河原真澄(女子4番)もいるが、話に入ろうとはしていない。だがその表情はにこやかだった。
そして―。
将晴は教室の隅を見やった。山原加奈子(女子20番)を中心とした班が座っている。
しかし彼女たちは話し合いそっちのけで河原真澄を見てくすくす笑っていた。
彼女たちのグループは真澄をいつもいじめている。将晴も何度も注意しているが、一向に聞く耳を持たない。
加奈子はおまけに何かと言えば政府の中枢にいるという父のことを持ち出す。何と言うか…自惚れが強すぎるのだ、山原加奈子は。
将晴は加奈子たちを注意しようかと思ったが、真澄も気付いていないようだし、ここでそのようなことを言って真澄の気分を悪くしてはいけないと思い、やめておいた。
加奈子は確か五年前のテロのせいで疎開のためにここに来たはずだ。
―テロからの復興…まだ終わらんのか?
将晴は思った。
将晴も五年前のテロのとき大阪におり、被害に遭った。そして…妹の、歩が死んだ。
歩は、結婚間近だった。
歩のことを思い出すと、将晴は何だか泣きたくなった。
―ああ、アカンアカン! そないなこと考えとったらアカン! いつまで引きずっとんねん…。
―そういや…。
そこでふと、将晴は思った。
うちのクラスでテロの被害に遭ってここにきたのは加奈子以外にも焼津洋次(男子19番)と谷川つかさ(女子10番)がいたはずだ。
尤も、将晴の知る限り、だが。
その時、歓声が比呂斗たちのいる辺りから上がった。
人数合わせに班に入った洋次が比呂斗たちを大笑いさせたようだった。
洋次は将晴と同じ大阪出身だからなのか、笑いが大好きだ。今もテロの傷は癒えていないはずなのに、ああやってクラスメイトを笑わせている。
―オレも見習わなきゃならんな…。
将晴はそう思った。
そのまま、将晴の意識は遠くなった。
―………。
「はっ!」
将晴は目を覚ました。
そこは見覚えの無い教室だった。
そして自分は柔らかな上等なソファに体を預けているのに気が付き、がばっと体を起こした。
―ここは?
「目、覚めましたか?」
「おはようございます」
そう話しかけられて、将晴は声のした方向に目をやった。
そこには黒い髪の、一見どこにでもいそうな感じの、将晴と同じくらいの年齢の男と、茶髪に染めた、ちょっと髭を生やした、これまた将晴と同じくらいの年齢の男がいた。
「…アンタら、何者や!」
「僕たちは、大東亜共和国政府の者です」
黒い髪が答えた。
「その政府のモンが、何の用や!」
「実は、今回のプログラムに、あなたが担任をしているクラスが選ばれましてね」
「な!?」
茶髪の答えに、将晴は言葉を失った。
「それで、クラス担任の横川先生に許可をいただきたいのですが」
「…何言うてんねや」
「は?」
そこから先は、将晴の意志ではなかった。もう、脊髄反射といっても良かった。
「五年前のテロで何人も人が死んでんのにまだ、人が死ななきゃならん言うんか、ああ? 復興作業もまだ半分も進んどらんのに…ふざけんな! お前ら見たいなアホウには、あいつらを渡すわけには…いかんわああ!」
将晴はひたすら大声でそう叫び、立ち上がって黒い髪の襟首を掴んだ。
「そうですか…、じゃあ、死んでもらわなきゃなりませんね」
「ああ?」
そう、黒い髪が言うと、茶髪が拳銃を懐から抜き出した。
「―!」
将晴の表情は固まった。
―な、何やねん。オレ、もう死ぬんか? ははは…歩ぃ、兄ちゃんもうすぐ行くからな…。
茶髪の右手に握られた拳銃から放たれた銃弾が将晴の頭部を貫き、銃弾は将晴の脳漿を一部巻きつけて飛び出し、後ろの壁に刺さった。
将晴の体がゆっくりと仰向けに倒れ、もう、動かなかった。
こうして、「アニキ」は、愛する生徒たちより一足早く黄泉の国へ旅立った。
妹の待つ処へ―。
担任教師 横川将晴 死亡
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