BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第41話

 腕時計は、午前3時40分を指している。
 一人の生徒が、寒さをこらえながら、F−6にある大木にもたれかかっていた。
―これだけ寒いと、雪が降るかもしれない。
 そんなことを考えながら、その生徒―「教祖様」は、手に持ったレーダーの液晶画面を覗いてみた。
 自分を示す点の近くには、誰もいない。
「誰もいないか…」
「教祖様」は、ついさっき、ずっと篭っていたI−8の民家を出発していた。
 別に禁止エリアになったわけではない。ただ…少し不安になったのだ。
 篭ったのは良かったが、先ほどから何回も、I−8を何人もの生徒が通っているのだ。自分が出ようとしたときも、生徒ではないが、
牧原玲(女子特別参加者)が通った(見つかるかと思ったが、意外にも見つからなかったのには驚いた)。
―何処に行こうか…。
 そんなことを考えていると、レーダーに反応があった。しかもかなり近い。
―しまった!
「教祖様」は素早く大木の裏に隠れた。それと同時につい先ほどまでいた場所に銀色に輝く矢が突き刺さった。
「あれぇ〜? バレちゃった〜? 何でバレたかな? 教えて欲しいなぁ」
 到底プログラムに相応しくない呑気な声とともに、クロスボウを持った、
世良涼香(女子9番)が現れた。
―彼女は、やる気か…私と同じか…?
「君は、やる気なのか?」
「うん、モチのロン。楽しそうだし。生き残るのはわ・た・し。この世に私以上の奴はいないから♪」
 相変わらずの呑気な声で、涼香は言った。
「ていうか口調いつもと違くない? アンタ」
「…そうかい?」
「そういえばさぁ…アンタ、何か企んでない?」
―ん?
「…どういう意味かな?」
「私さぁ、最初、ちょっと南にある旅館にいたんだけど、飽きたから出たのよ。そしたらマッキーを誰かが連れ込んでるの見てさ」
―マッキー…私の信徒の一人が連れ込んだ、
畑槙乃(女子15番)のことか。
「教祖様」は、その先の言葉が何なのか、察しがついた。
「そいつが誰かは全然分かんなかったんだけどさ、そいつが耳に何か着けててね? それと同じやつをアンタも着けてるのをさっき見たんだぁ。だから…何かそいつとやろうとしてんのかなって」
―図星のようだ。
「教祖様」は、口元を歪めた。
―意外に、察しがいいようだな…。
「なかなか考えているようだね…でも、ここまで考えてはいなかったようだ」
 そう呟いて、「教祖様」は懐からコルト・ガバメントを抜き、素早く涼香に向けて撃った。
 ガバメント銃口が火を噴くと同時に、涼香の足元の土が跳ね、涼香が飛び退いた。そして「教祖様」は駆け出した。
 すぐに涼香は、見えなくなった。
―要注意だな…彼女は…。
―説明のときのあの発言と、日頃のイメージからして、大して脅威ではないと思っていたが…見方を変える必要があるな。
―我が信者たちにも、そのことを伝えておく必要があるな。
「教祖様」は、北に少し行ったエリア、E−6まできて、一旦茂みに身を隠した(ちなみに、ここにはついさっきまで
城戸比呂斗(男子6番)菊池麻琴(女子5番)姫野勇樹(男子15番)谷川つかさ(女子10番)がいたが、すでに彼らはこの場を去っていた)。
 そしてインカムで、連絡を取り始めた。まずは
板橋浩美(女子2番)からだ。
「ああ、板橋君か? …さきほど世良涼香に会ったが、彼女は我々の存在に僅かだが気が付いている。実力もあるようだし、気をつけなさい」
「分かりました、教祖様」
「それじゃあな」
 そして通信を終了した。
「さて次は…吉田君だな」
「教祖様」は、再びインカムで、今度は
吉田晋平(男子20番)と通信を取り始めた。

                           <残り26+2人>


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