BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第42話

 D−9の林の中。
「俺…もう嫌だよ…死にたくねぇよ…」
―ああ、うるさい。
 
古賀健二(男子8番)は、隣でぶつぶつとさっきから同じことを呟いている友人、浜口武(男子14番)を見て、思った。
 向かいに座った
布川和政(男子17番)も、武の様子を気にかけているようだ。
―ったく、しっかりしろよ、武! 普段は気が弱く、到底こういう場面ではガタガタ震えてるだけだと、俺でも思ってた和政はこんなにしっかりしてるんだぞ?
 健二はそう言ってやりたい衝動に駆られたが、今ここでそんなことを言っても武を怒らせるだけだろうと思い、やめておいた。
 大体、武は最初から頼りにならないと思っていたのだ。
 だが、健二はせめて和政と、
雨宮広将(男子1番)曽野亮(男子11番)は仲間にしたいと思っていた。
 しかし、最初に会った亮は健二との合流を拒否した。何でも、「やらなきゃいけないことがある」そうだった。
 そして亮は、武を仲間に引き入れるつもりはないと言った健二に反論した。
―あいつは一人じゃビビッちゃうからさぁ。一緒にいてやってくれよ。
 それだけ言って、亮は何処かへと行ってしまった。
 仕方なく、健二は出発した武に話しかけ、仲間に引き入れた。だが武は、後で出てくる和政をほっといて逃げようと言い出したのだ。
 その場は健二が、強硬に意見を通して、和政を仲間に引き入れた(それでも武は、広将を待つのにはなおも反対し、健二は押し切られてしまった。結局、スタート地点に残らない方が良かったのだが)が、健二は思った。
―ああ、やっぱり亮は甘すぎる。こいつは他の奴なんかどうだっていいんだ。
 元々野球部の亮は、上祭中野球部の伝統ともいえる呑気なムードに染まったのか、極端な「いいひと」だった。
 だが健二は、自分の所属するサッカー部には先輩などに武のような我侭な先輩が多かったので、そういうことに関しては、亮よりも分かっているつもりだった。
 武はいつもこうなのだ。自分さえよければそれでいい、そして才能の上に胡坐をかいて怠けていて、バスケ部の主将のくせに、面倒なところは副主将の広将に任せて逃げる。
 常に努力を怠らない卓球部員の、和政とは雲泥の差だ。

「ああぁ、何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだよぉ」
 武はまだ、泣き言を言っている。
「まあまあ、武落ち着きなよ…」
 和政が、武を落ち着かせようと言った。
「何で落ち着いてられるんだよ! …お前ひょっとして、やる気か!? やる気なんだな!?」
 武はそう喚いて、傍らに置いたスミスアンドウエッソン357マグナムを(これは武の支給武器だった。健二は十徳ナイフ、和政は猫パンチだった)和政に向けた。
「バカ、やめろ武!」
 健二は必死で止めようとした。すると和政が穏やかな声で言った。
「武、それは誤解だよ。どうしても僕を疑うなら、僕はここを出て行くよ」
「ああ、出て行け! 何処へでも行っちまえ!」
 そして和政は荷物をまとめると、健二たちから離れていってしまった。
「何やってんだよ、武!」
「うるせぇ!」
 健二は、武への怒りが増幅されていった。

 布川和政は、西へ西へと歩いていた。
 完全に「プログラム」の恐怖に飲まれている武への怒りは、湧かなかった。
―僕も怖い。でも…恐怖に飲まれたらおしまいなんだ!
 そんなことを考えながら歩いていると、何者かが和政の方へと向かっているのが分かった。
 そしてそれが誰か分かった瞬間、和政の脳は「逃げろ」と指令を下していた。
 だが、身体は足がすくんで動かなかった。やはり、和政も恐怖を感じていたのだ。
―ああ、僕はここで終わりなのか…。
 そこで和政の意識は、途切れた。

 頭部がグシャグシャになって、うつ伏せに倒れた和政の身体を、
牧原玲(女子特別参加者)は冷然と見下ろしていた。
 その左手には、和政の血に染まった釘バットがあった。
「か、和政!」
 玲はその声に気付いて振り向いた。
 古賀健二が、鋭い目つきで玲を睨んでおり、その手には、さっきまで浜口武が握っていた拳銃があった。

 男子17番 布川和政 ゲーム退場

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