BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第43話
「よくも和政を…!」
古賀健二は、唸るかのような声で、目の前の牧原玲に向かって言った。
健二は、布川和政が健二と浜口武から離れて行ってすぐに、武と口論になった。
「武! 何考えてんだ! 和政はやる気になったりなんかしない!」
「うるせえってんだよ! …そうか、お前もやる気なんだな、そうなんだな?」
ここまで何とか我慢しようとしてきていた健二も、とうとう完全に切れてしまった。
「いい加減にしろ! お前なんか知るか! 俺は和政を探す! お前なんか勝手に野垂れ死ね!」
そう叫んで、武の手から357マグナムを無理やり奪い取り、和政の向かった方向へと走っていった。
だが、もう和政は死んでしまっていた。
「許さねぇぞ…! 絶対にな!」
そう叫ぶと同時に、健二は357マグナムを両手でしっかりと握り締め、目の前の玲に向けて引き金を引いた。
初めての射撃だったにも拘らず、意外にも健二の放った銃弾は玲目掛けて正確に飛んで行った。
―やった! 仕留めた!
健二はそう思った。そう思って当たり前だった。
そして直後、銃弾は玲の胸部に当たり、玲はその身体を仰け反らせたかと思うと、あっという間に仰向けに倒れこみ、動かなくなった。
「か…勝った…! 俺は特別参加者に勝ったんだ! 和政の仇を取ったんだ!」
健二は飛び跳ねて喜んだ。良かったと、心の底から思った。自分たちから離れて行く和政を止められなかった自分に出来る精一杯のことが出来たような気がしていたからだ。
健二はすぐに玲の身体に近づいてみた。すると、何かがおかしいことに気が付いた。
―あれ…こいつの…「右手」…。
その刹那、健二は自分の首に激しい圧迫感を感じた。
―く、苦しい…!
そして自分の身体が、宙に浮き上がっていることにも気が付いた。
―な、何なんだ!?
ようやく顔を正面に向けた健二は、自分が疑問に感じていたこと全てが、全部まとめて、あっという間に分かった。
目の前にいる、自分が撃ち殺したはずの!
牧原玲が!
おかしな「右手」で!
自分の身体を宙に浮かせて!
首を絞めている!
健二は何が起きているのかを理解した。が、同時に、何故こんなことになっているのか理解できずにいた。
「ごめんなさいね…」
そんな声が聞こえた気が、した。
「私は勝たねばならないの…殺さなければならない奴がこのクラスにいるの…」
健二は意識が薄れていく中、その声を玲が発しているのだと分かった。
「ふ…ざけんな…よ…!」
健二には、そんな声を絞り出すのが精一杯だった。
―和政…仇…取れなかった…悪い。
―広将…亮…生き延びてくれよ…。
それが、最後の知覚だった。
牧原玲は、つい先ほどその命を玲が終わらせた少年(玲はその人物が古賀健二という名だということすら知らなかった)を地面に下ろし、その手から357マグナムを取った。
「この人じゃない…」
玲は健二の死体を、そしてもう片方に転がる布川和政の死体を見て、言った。
「君は…友達のために戦ったんだね。立派だね。そういう人、結構私…好きよ」
そして、健二がやって来た方向に目をやり、走った。
「それに比べて君は…」
その音に気が付いたのか、浜口武が慌てて踵を返し、駆け出した。どうやら二人がどうなったか見に来ていたらしい。
「仲間だった子達を助けようともしなかった…」
玲は素早く猟銃を武に向け、引き金を引いた。
轟音と共に放たれた銃弾は正確に、前を走る武を捉え、武は前のめりに倒れこんだ。
玲は生死を確認するために武に近寄った。武の腹の辺りには少しずつ血溜りが広がっていたが、どうやらまだ、生きているようだった。
「話が聞けそうね…」
すぐに玲は武の顔を左手で持ち上げた。武は、恐怖に引きつった顔をしていた。
「た…たすけて…しにたくない…」
「君の仲間も死にたくなかったんだよ? 自分だけ死にたくないって…無責任じゃない?」
「う、うるさい! ひとごろしめ! ほかなんかどうだっていい! おれはしにたくない!」
「もういいよ…そんなことは。ところで…」
玲はそう言って、武の前にある人物の写真を見せた。
「こいつ…このクラスにいるよね? 『ジンボ』っていうんだけど…」
「し、しらねぇ! しらねぇよ!」
「…名前を変えてこのクラスにいるっていう情報が入ってるの」
「しらねぇよぉぉぉ!」
「そう…」
そう呟くと、玲は357マグナムを取り出した。
「君への用は終わったから…ごめんね? 怒るなら、あの世から、今もここで生きてる『ジンボ』に怒ってね?」
直後、その場に一発の銃声が響き、もう一つの、側頭部に穴の開いた死体が出来上がっていた。
男子8番 古賀健二
男子14番 浜口武 ゲーム退場
<残り23+2人>