BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第44話
足元に転がる浜口武の死体。
当然まだ、布川和政と古賀健二の死体も放置されているはずだ。
そんな中、牧原玲(女子特別参加者)は移動を始めていた。
「本当に…ごめんなさい…」
玲はそう呟きながら歩き、隣のエリア、D−8に入った。
―間違いなく、『ジンボ』はこの会場の何処かにいるはず。
―私は奴を…殺さねばならない。仲間たちのために。
玲は着ている服の右の袖を捲った。そこには、有機物は一切無く、機械という無機物で完成された腕があった。
右足も捲った。そこにも、機械で出来た足があった。
―全ては、『ジンボ』たちが原因なんだ…!
牧原玲は五年前、母と二人で東京で暮らしていた。父の顔は覚えていない。だが、玲は寂しさを感じることは一切無かった。
玲の母は、祖父母がやっていた小さな養護施設を継ぐ形で園長になっていたのだ。
そのために玲は、養護施設にいる子供たちと遊ぶようになり、少しずつ仲良くなっていった。
同時に、彼らからは「仲間」と呼ばれるようになり、玲も殆ど溶け込んでいた。
そして、玲が十一歳の正月に初詣に行こう、と玲の母が言い出し、それに仲間たちもついてくることになった。
その結果―、あのテロが起こった。
母は死体となって見つかり、仲間たちは混乱にまぎれて見つからなかった。そして玲も右手右足を失い、機械の手足を得た。
それからしばらくして、玲はテロを起こした組織(「紅の星」だったと思う。忌まわしい名前だ)が政府の手で壊滅させられたことを知った。
その組織のリーダー、神保正義(じんぼまさよし)は東京を爆破した際に死亡したらしい。他の幹部もほぼ全員がテロの際に自爆していたそうで、壊滅させるのは簡単だったらしい。
しかし、一人だけ見つかっていないメンバーがいたのだ。
神保義郎(じんぼよしろう)。神保正義の実の息子で、当時まだ十歳だ。
義郎は東京に事件当時いたという情報を最後に、行方が分からなくなっており、全国特別指名手配となり、大東亜共和国政府は躍起になって探している。
―そいつが―、逃げている!?
許せなかった。あれだけの人間を死なせ、しかも自分から母と仲間たちを奪った男の息子と訊くと、どうしても許すことが出来なかった。
そんな時、多分玲が十四歳のときだったはずだ。政府の高官らしき男がやってきた。
男は玲の顔と、機械の右手足を見て、言った。
―君、専守防衛軍に入らないか?
玲は専守防衛軍について説明を受けた。男が語った、国を守るなどということに興味は湧かなかった。ただ、一つだけ知りたかった。
玲は、男に尋ねた。
―それに入ったら、神保義郎を殺すことが出来ますか?
男は答えた。
―出来るとも。
すぐに玲は専守防衛軍に入ることを決めた。
最初は見習いから始まりさまざまな訓練を受けたが、玲は天性の素質があったようで、どんどん力を付けていき、あっという間に二尉にまで昇進した。
十五歳のときだった。
それでも任務は退屈だった。プログラム会場に送られたりするのは正直、つまらなかった。
ただ、テロリストのアジトを壊滅させる任務を任されたときは力が入った。
玲にとって、神保義郎を殺すこと、そしてこの国中の反政府組織を潰すことだけが生き甲斐となっていた。
そして、半月前。上司が玲に告げた。
―牧原二尉。実は、半月後のプログラム対象クラスに、神保義郎がいるとの情報が入った。
―本当ですか!
―だが、五年も経って、顔つきも変わってしまい、名前も変えているようでな。資料を見てもどいつが神保義郎だか分からんのだ。
そこで玲は言った。
―私を特別参加者として参加させて下さい。私に神保義郎を殺らせて下さい。そして無事生還し、またテロリスト共を潰してみせます!
上司は迷ったような表情をしていたが、結局、許可してくれた。
玲は誓った。
―神保義郎を、殺してやる! どんな手を使っても!
「神保義郎…首を洗って待っていなさい…私が必ず、あんたの命を頂くから…」
そんな玲の姿を、木の陰から眺めている人物がいた。
「教祖様」である。
「牧原…やはり神保義郎を殺すために…」
―神保義郎は確かにこのクラスにいる。しかも私の身近にいつもいた。
―彼は殺させるには惜しいし、何より彼女に言わねばならない。神保義郎は無実で、テロの真実は他にある、と…。
だが、今は牧原玲は何者の説得も聞かないのではないか? そんな不安もある。
―フフ…、まだ私は神そのものにはなれていないようだ…。これでは「目標」の達成もままならないだろう…。
―しばらく私は退くことにしよう。私がいずれ牧原に真実を伝え、大きな業を背負った彼女を葬るまで…。
「死んではいけない、神保義郎よ」
「教祖様」は口に出して、はっきりとそう言った。
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