BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第45話

「まだ…帰ってこないな。貴仁たち…」
 
和歌山啓一(男子21番)は、そう口に出していた。
 
牧原玲(女子特別参加者)に襲われ、啓一と宇崎義彦(男子2番)はこうして廃ビルに戻ってこれたが、狩野貴仁(男子5番)城戸比呂斗(男子6番)津脇邦幸(男子13番)菊池麻琴(女子5番)とは逸れてしまい、それからもう二時間近く経ち、放送の時間を迎えそうになっていた。
「戻ってこないと…爆弾が作れないからな。早く戻ってきて欲しいんだが…」
 義彦が、ぼそっと呟いた。
「まさか…死んじゃったなんてことは無いよな?」
「あいつらはそう簡単に死ぬような奴らじゃないよ」
 それもそうだと思い、啓一は腕時計に目を落とした。
 時計の文字盤は、午前5時57分を指している。放送はもうまもなく始まるはずだ。
 そこで啓一は、一つ気になることを思い出していた。
 それは、義彦の言動だった。出発するときに尾賀野(顔を思い出すだけでムカムカする)に言った言葉。
―俺が求めるのは、「普通」だけだ。
 そして農協に行く途中、脱出した後どうするかを話しているときに、義彦が言った言葉。
―俺はこの国が敵としている国―米帝に行きたい。そこで、何らそういうものに関わらないように生きていたい。
 啓一は、この言葉から、何かを感じていた。
 今までの学校生活では何も感じたりはしなかったが、今はよく分かる。義彦の心には、何かの闇がある。何かを―隠している。それは充分に分かっていた。
―義彦は、一体どんな闇を抱えているのだろうか? 父親の病院に来たテロの被害者の患者にも、彼のような言動をするものは一人もいなかった。どんなものを、抱えて生きてきたのだろうか?
 そんな時だった。
「皆さん、おはようございます! 担任の尾賀野です! よく寝れましたか?」
 放送が始まったようだ。啓一は地図を取り出し、メモの準備をした。
「寝れるはずが無いだろ」
 義彦がぼそっと呟くのが聞こえた。
「まず、これまでに死んだクラスメイトの名前を発表します。まず、
女子11番津山五月さん男子1番雨宮広将君男子13番津脇邦幸君男子17番布川和政君男子8番古賀健二君男子14番浜口武君。以上六名です。男子ばっかりだなぁ。もっと男子も頑張れよ? それじゃあ次は禁止エリアの発表なので、副担任の彬合先生に代わります」
―え?
 啓一は、まさかと思った。少し前まで一緒にいた津脇邦幸が、死んだと発表されたのだ。
 啓一は、ショックを隠しきれなかった。
 そして声が彬合のものに変わった。
「それでは、禁止エリアの発表をします。まず、7時から、G−6」
―何!?
 啓一は驚いた。先ほど向かった農協が禁止エリアとなってしまった。これでもし貴仁たちが帰ってこなかった場合、作戦を再度行うことが出来なくなってしまった。
「次に、9時から、E−8」
 これは完全に山の中だ。自分たちのいるB−1とは関係ない。
「最後に、11時から、H−10」
 これも海岸がギリギリ入るくらいのエリアで、それほど影響は無い。
「それでは、また次の放送で会いましょう」
 彬合の声はそこで途切れた。だが、啓一は呆然としていた。
「義彦…津脇が…死んじまったんだってさ…ハハハ…ちょっと前まで一緒に…いたのになぁ…変だよなぁ…皆…死んでしまうのかなぁ…これが…プログラムなんだな…これが…」
 何も分かっていなかった。移動中に自分が言ったあの言葉も、所詮は分かった振りをして言っただけに過ぎなかったのだ。
―自分は、死というものが、クラスメイトが殺しあうというものが、全く分かっていなかった。分かった振りをしていたのだ。だからあんな言葉を言えたんだ…。
「俺って…バカだよ…義彦…俺は…」
 義彦は、何も言わなかった。啓一には、それが余計に苦しかった。

                           <残り23+2人>


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