BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第46話

 吉田晋平(男子20番)は、黙々と、先ほどの放送で発表された禁止エリアをメモしていた。
「…移動が必要だな…」
 晋平がいるエリアはE−8。つい先ほどの放送で、9時から禁止エリアになると言われたばかりの場所だった。
 だが晋平は、移動が必要だと思いながらも、その場を離れようとはしていなかった。
 晋平は、考えていた。
―確かに禁止エリアに残れば、自分たちを拘束している首輪が吹き飛び、あっという間にお陀仏なのは間違いない。
―しかし、何も発表された直後から立ち入り禁止になるわけではないはずだ(事実、まだ禁止エリアに残っている俺の首輪は吹き飛んでいない)。
―ならば、ここが禁止エリアになる9時まで、ここで小休止するのも一つの策だ。
 晋平は出発してからというもの、ろくに休んでいなかった。そのくせ、仕留められたのは
焼津洋次(男子19番)雨宮広将(男子1番)のみだ。
 おまけに武器も、最初に支給されたサバイバルナイフと、広将の持っていた槍のみだ。
 
板橋浩美(女子2番)が他に銃を持っていれば、貰うことも出来たかもしれないが…。
「教祖様のためにも、俺は勝ち続けなければならないんだ…こんな武器じゃ…」
 そう呟きながら、晋平は「教祖様」との出会いを思い返していた。

 吉田晋平は、広島で生まれた。
 晋平が物心ついたとき、既に母はおらず、父だけが家族だった。
 父は、晋平が母について訊くと、いつも、「お母さんはね、遠いところへ行っちゃったんだ」としか話さなかった。
 そして五歳のときのある日の朝、父はある建物に晋平を連れて行った。
 建物の中に、父に連れられて入っていくと、何か変わった服を着た優しそうな男の人がいた。
―「教祖様」。お早うございます。
 そう、それが先代の「教祖様」だった。父は先代が開祖となる教団、「呉道教」(ごどうきょう)で、父は「呉道教」の幹部だったのだ。先代はその日、演説を行った。
―この国がいかに腐敗し、数多くの過ちを犯し、国民の自由を奪っているか!
―このような国のやり方は、神の意思に反するものだ! 我々は神の下に集い、この国に神が罰を与える手助けを、聖なる戦いをせねばならない!
―だが、聖なる戦いとは、戦争ではない。これは「呉道教」による戦いなのだ!
―我々は、国民にこの国の全ての実態を知らしめなければならない! そして国民の力を持ってして、この国を倒すのだ! この国で本来、一番強いのは、国民なのだから!
―我々の手で、歴史の波を呼び込むのだ!
 晋平には、その演説が理解できなかった。しかし、五歳児の記憶の片隅に残り続け、やがてその意味を知った。それが、九歳のときだった。
 この日、晋平は「呉道教」に入信した(もっとも、父が入信させたのだ。しかし晋平は、今はそれをありがたく思っている)。
 その間にも「呉道教」は勢力を拡大し、その力は計り知れないものとなった。
 そして一月の一日、「呉道教」の本部でいつものように集会を行っていたそのとき―あのテロが発生した。
 晋平はかろうじて無事だったが、父やそのほかの幹部、信徒…そして先代は、死んでしまった。
「呉道教」のダメージは甚大なもので、「呉道教」の存続自体が危なくなった。
 何より、反政府組織が、自分たちと意見を同じくしているはずの反政府組織によってこの結果をもたらされたというショックも大きかった。
 だが、その時現れたのが、今晋平が崇拝する「教祖様」だった。
 自分と同じ十歳にして、「教祖様」はとてつもないカリスマの持ち主で、壊滅寸前だった「呉道教」を、見事に立て直した。
 そして先代の唱えた「聖戦」をさらに強く唱えた。
 その後「教祖様」は岡山に移り住むこととなり、晋平もそれを希望し、岡山の親戚の家に住むこととなった(板橋浩美はこの頃入信した。随分「教祖様」に大事にされていた)。
 そしてまたさらに少しずつ、勢力を拡大した。
 中学に入ってから、さらに同級生が二人入信した。「教祖様」はその二人と晋平、浩美を教団幹部とした。
 それが晋平は、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
「呉道教」関連の人間以外の友人ももちろん作った。焼津洋次などがそうだった。
 彼とは本当に気が合った。だからこそ、殺すときも心が痛んだ。
 だがすぐに晋平は思い直した。
―そう、これはやらなければならない戦い、聖戦なのだ!
―我々の行為が正しいとは言わない。しかし、間違っているとは誰も言えない! 言う権利など無い!
 その考えと、「教祖様」への敬意があってこそ、ここまでやってこれた。その気持ちが不変のものだと、晋平は思っている。
 だからこそ、戦い続ける。負けるわけには、いかない。
「そう、「目標」のため…新たな、国を相手にした聖戦のためにも、勝たねばならないんだ!」
 晋平は、またさらに強く、誓った。

                           <残り23+2人>


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