BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第48話
―急がなきゃ! 急がなきゃ!
狩野貴仁(男子5番)は、右手に城戸比呂斗(男子6番)に託されたポリタンクを持って、E−3の山道を走っていた。
正直、貴仁にとってこの距離をガソリンを満タンに詰めたポリタンクを抱えて走るのは、かなり辛いものだった。貴仁は、体力に自信が無かったからだ。
そんな貴仁を支えていたのは、牧原玲(女子特別参加者)に撃たれてしまった比呂斗と菊池麻琴(女子5番)に託されたものを自分が持っているということであり、これが無ければ、宇崎義彦(男子2番)の脱出計画は成り立たなくなってしまうということが、分かっていたからだ。
―城戸たち…どうなっちゃったんだろうか…死んでしまったんだろうか…。
そう思うと、貴仁の目に涙が浮かんできた。
―俺のせいだ。
貴仁は、そう思っていた。
―俺が逸れたりしなかったら、城戸たちはすぐにB−1に戻れたかもしれないのに。死なずに済んだかもしれないのに。
―もう、嫌だ。誰にも死んで欲しくは無い! 今生きている皆で、俺は脱出したい!
―そうだ、絶対に、脱出するんだ!
そう思っていたとき、突如、貴仁は右足に激痛を感じ、仰向けに倒れこんだ。
―何だ? 銃声も何もしなかったのに!?
貴仁がそっと右足を見てみると、銀色に輝く矢が、自分の右脹脛に刺さっていた。すぐに貴仁はその矢を抜いた。ゆるゆると血が流れ出した。
「誰だ!」
すると、木陰から、右手にクロスボウを持った派手な格好の女子生徒、世良涼香(女子9番)が出てきた。
「あらぁ、カノー君じゃん。何、いつもに比べたら随分暗そうな顔してるねー、何で何で?」
涼香は、いつも通りの呑気な声で、貴仁に話しかけてきた。
「こんな状況で明るく出来るはずがないじゃないか」
「えー? こんなに楽しい殺し合いなのに? せっかくめったに選ばれないモノに選ばれたんだからさー、楽しんでいこうよ」
―何なんだこいつは! おかしい! おかしいぞ!
「ふざけるな! 殺し合いが何で楽しいんだよ!」
すると涼香は、相変わらずの声で、言ってきた。
「まあ私ってまだ誰も殺してないんだけどね、やっぱり周りの人間蹴落としてトップに立つのってサイコーじゃない? 自分より上の奴なんてだーれもいないって皆に教えられるしさ」
「何だって…!」
「まあ、もういいか…次は確実に…殺すね?」
―死ねない! 俺はこれを義彦に届けるんだ! そして…脱出するんだ!
貴仁は、右足の痛みを堪えながら、ポリタンクを持ったまま必死で立ち上がり、北へ向かって駆け出そうとした。
だが、涼香が素早くクロスボウの引き金を引き、放たれた銀色の矢は、貴仁の背中に突き刺さった。
「ぐわっ!」
貴仁は再び、その場に倒れこみ、涼香がさらに矢を番え、放った。
―くそっ、くそっ!
涼香が放った矢は、再び貴仁の背中に刺さり、貴仁は動かなくなった。
「やりぃ! これで一人!」
涼香は貴仁の身体に近づき、そこで初めて、あることに気付いた。貴仁が妙なポリタンクを持っていることに。
「何だろ、これ…? まっ、いいか。いらないしー、こんなの」
涼香はそう呟いて、踵を返して歩き始めた。
五分後、風は強くなり、体感温度はさらに下がっていった。
その時、貴仁は意識を取り戻した。まだ、死んではいなかったのだ。
だが、かなりの傷であることにかわりは無いらしく、貴仁は多少、意識が混濁していた。
「義彦に…届けなきゃ…義彦に…」
貴仁は、立ち上がり、おぼつかない足取りで歩き始めた。その時既に貴仁は、思考能力を失っていたのだが、そんなことは誰も知らなかった。
<残り21+2人>