BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第50話

 中元理沙(女子13番)たちが隠れている洋館の、誰もまだ立ち入ったことが無い寝室らしき部屋。
 その部屋の隅に、一人の女子生徒がいた。
 彼女は、右の耳に装備したインカムで、話をしていた。もちろん相手は、「教祖様」だ。
「―そろそろ、行動を始めようかと思います」
 彼女は、「教祖様」に、そう言った。
「問題は無いのか? 疑われたりしていないか?」
「教祖様」は、そう言って彼女に確認してきた。それを訊いて彼女は―教祖様は何て思慮深いのかしら、と、尚更畏敬の念を抱いた。
 彼女が「教祖様」に畏敬の念を抱くようになったのは、上祭中に入学してすぐのことだった。

 入学して三日ほど経ったある日、彼女は学校の中を探検していた。どんな学校なのかまだよく分からなかった彼女は、はっきりと自分で調べてみようと思ったのだ。
 そして屋上へと繋がる階段の踊り場までやってきた時、彼女はあるものを見た。
 それは、自分の同級生が、
吉田晋平(男子20番)板橋浩美(女子2番)と真剣に話している光景だった。その同級生―「教祖様」は彼女の存在に気が付いて、こう言ってきた。
「…同じ学年の子だね? この事は、誰にも言わないでもらえるかな? 知られると色々面倒だから」
 何が面倒なのかが気にはなった。だが彼女は、一体何を話していたのかがまず気になって仕方なかった。
「…何を話していたの?」
「これからこの国をどうするかについて、私が語っていたんだ。君も参加するかい?」
 彼女は、こくっと頷いた。
 そして「教祖様」の話は始まった。彼女にとって、「教祖様」の話す、この大東亜共和国の実態は、まだ世の中のことをよく知らない彼女にとっては、まさしく衝撃的な話だった。
 彼女は「教祖様」の話を、何度も何度も聴きに行った。
 やがて、彼女は「教祖様」に心酔するようになり、「教祖様」が布教している「呉道教」にも入信した。
 その後、もう一人同級生が入信し、彼女たち四人は「呉道教」の幹部となった。
 完全に「教祖様」に心酔していた彼女は、それが嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
 それからは、「教祖様」と一緒に布教を始め、学校でも先輩たちを入信させ、進級してからは、後輩にターゲットを絞った。
 だが、「教祖様」の言いつけで、同学年には布教しないこと、そして入信したことはなるべく話さないようになっていた(理由を訊くと、「教祖様」は、「もう近くにいる幹部は君たちだけで十分なのだよ。それに、我々は昔、色々あったからね…」と言った。何があったかは、昔からいた晋平も浩美も、詳しくは知らないらしかった)。
 そして先日、「教祖様」は言った。自分たちがプログラムに参加することになった、と。
 彼女は躊躇しなかった。ゲームに乗ることを決めた。
―教祖様が優勝することが出来れば、教祖様の手で歴史の波がやってくる。そのための手助けとして、ここで戦って散ることが出来れば、本望!

 彼女は、「教祖様」に、答えた。
「…問題ありません」
「そうか…それじゃあな」
「教祖様」との通信は、終わった。
 そして彼女は懐から…拳銃を、本当の支給武器である拳銃、ワルサーPPK/S9mmを取り出した。
―弾は既に見張り中に装填してある。あとはこれを…。
 彼女は、特別付録としてついてきたサイレンサーをワルサーの銃口に取り付けた。
 サイレンサーが付いてきているのは、彼女にとってはかなりの幸運だった。この洋館内で、仲間を葬るのには、やはりこういうものは重要だと思った。
―よし。あとは頃合を見計らって行動に入ろう…。
 その時だった。
「あれ? こんな所で何してるの?」
 仲間の声がした。
―ここに何故!?
「さっきからいないなと思って…探してたんだけど…」
―そういう事か…。見張りのときにもっと完全な準備をしておくべきだった! このままでは銃が見つかってしまう…。
―よし。
 彼女は、近づいてくる仲間の一人に、ワルサーの銃口を向けた。
「え? な、何…それ?」
「ごめんなさい…すべては目標のためなの…」
「も、目標って? 何なの? 意味分かんないよぉ」
「ごめんなさい」
 パシュッと、サイレンサーを着けている際の独特の音がしたが、当然ながら、周りにはその音は響かず、誰にも気付かれなかった。
 仲間の一人は、ゆっくりと仰向けにその場に倒れこんだ。
 彼女はすぐに、仲間の生死を確認した。
 額に小さな穴が開いて、そこから血が流れ出しており、その表情はまさしく、「何が何だか分からない」と言いたげな表情だった。
 死んでいた。間違いなく。
 彼女は、すぐに目を閉じさせた。
「本当に…ごめんなさい」
 彼女はワルサーを再びしまいながら、言った。
―後は二人。焦らずにやれば、大丈夫…、絶対に…。
「まずは、死体を隠さないと…」
 彼女はそう呟くと、仲間の死体を、近くにあったクローゼットの中に隠した。
―もし見つかっても、混乱させることは出来るかもね。

 女子?番 ??? ゲーム退場

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