BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第54話

―親愛なる父上。既にこの世から去ってしまった父上。
―自分を救って下さり、ありがとうございます。本当に、心から感謝しています。様々なことを教えて頂き、感謝しています。
―しかし、あなたに一つだけ、教えて頂けなかった事があります。
―自分の素性についてです。
―自分の本当の両親は、どうなったのですか? どんな人物だったのですか?
―三年前、自分は同じ質問を、あなたにしましたね。
―しかし、貴方は答えてはくれませんでした。
―何故でしょうか? 自分はそれだけは知りたかったのです。
―自分が何処の誰で、どんな人間だったかも知らない自分に、それだけでも、教えて頂きたかったのです。
―父上…。最後に一つだけ訊かせて下さい。
―貴方は何故、いつも自分を見ては、哀しげな顔をされるのですか?
―何故貴方は、一人で自殺など、されてしまったのですか? 自分のせいなのでしょうか? 自分の…。

「…夢か」
 
横井翔(男子特別参加者)は、目覚めた。
―どうやら、深く眠りすぎたようだ。
 そう思って腕時計を見てみたが、まだ放送が終わってから二時間程度しか経っていない。翔が思っていたほど、寝てはいなかったようだ。
 翔は、前日の夜、
瀬古雅史(男子10番)を手に掛けてから(名前は、持ち物から分かった)誰とも会うことが無く、仕方なく、ここB−7にて休憩をしていた。
―やはり、堂々と冬の屋外で寝るのは無茶かもしれないが…、問題は無いな。
 翔は念のために、防寒具を出発してすぐに(
平田義教(男子16番)を殺す一時間ほど前だ)かき集めていたし、鳴子もこの周辺に仕掛けておいた。
 だから、外で寝るのも問題は無かった。
「しかし…奴は今何処に…」
 翔は呟いた。
 翔は、自分が所属する政府参加の暗殺組織「A.S」から、ある指令を出されたのだ。
 それは、「全国特別指名手配犯、神保義郎の殺害」だ(専守防衛軍二尉、
牧原玲(女子特別参加者)の参加もこれが目的らしい。いわば翔は玲が失敗した場合の保険だったのだが、そんなことはどうでもよかった)。
―全国で五年前に発生したテロの主犯の子供…、ということは、神保義郎らのせいで俺は本当の両親と離れることになって、俺は全てを忘れたのか…。
―だが俺は、お前を恨んだりはしちゃいない。俺は別に、それほど不幸じゃなかった。
―しかしこれは指令だからな。お前が死んでくれることを心から祈っている、テロの被害者もいる。何より、俺自身、生きて帰りたい理由があるんだ。
 翔は、傍らに置いておいた、「今の自分」にとっての父、横井平次郎(よこいへいじろう)の写真を手に取った。
「父上…」

 気が付いたとき、翔は病院のベッドにいた。
 何があって病院にいるのか、何故自分が大怪我をしているのか。
 何も理解できなかった。
 そんな時に自分の前に姿を現したのが、平次郎だった。

 平次郎は独り身の、もう五十歳後半といったところの、専守防衛軍の老兵だった。
 平次郎は、記憶を失った自分に、「翔」と言う名を付けてくれた。決して裕福でもないにも拘らず、翔を引き取ってくれ、様々なことを翔に教えてくれた。
 自分がテロで被害に遭った孤児だということ。
 そしてテロが、どういう経緯で起きたかまで。だが、翔の両親については、話してはくれなかった。
 そして、そういう話になると、決まって平次郎は哀しげな顔をした。
 平次郎が何故、そんな哀しげな顔をするのか、翔には分からなかった。だが、平次郎のことは大好きだった。
 やがて、引き取ってもらってから二年が経ったとき、翔は、もう何度したかも分からない質問を、翔の両親についての質問を、した。
 平次郎はその時も、答えなかった。
 翌日、平次郎は首を吊って死んでいた。足元の遺書に、「すまなかった、翔。平次郎」と、震えた筆跡で、書かれていた。
―自分のせいですか? 父上? 自分があんなことを訊いたからですか?
 結局また、翔は孤児となり、平次郎の知り合いがトップにいる組織「A.S」に、半ば自棄になって入った。そしてぐんぐん実力をつけていき、最近は政府内の反乱分子の暗殺を、事故に見せかけて行ったりして、組織のエースになった。
 だが、今でも自分の記憶は戻らないし、平次郎が自殺した理由も分からない。
 そして自分の顔も思い出せない両親がどうなったのか…。
 知りたかった。そしてその矢先のプログラム参加指令だった。

―俺は全てを知りたい。だからここでは死なない。任務も遂行し、俺を取り巻く全てを知ってやる。
 翔がそう思っていたとき、カランカランと、音が辺りに響いた。
―誰かが来たな。
 翔はレイピアとサーベルを両手に持って、音のした方向へ向かった。

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