BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第55話

―何で…何で由美があんなことを? 分からない…分からないよ!
 
島野明子(女子8番)は、姫野勇樹(男子15番)に言われた通りに、ひたすら逃げていた。
―さっきまでいたところから銃声がするし…まさか姫野君が由美を!? でも姫野君はやる気じゃなさそうだったし…あぁ! 分からないよ!
 ついさっき、自分がいた方向からした一発の銃声が、より明子を不安にさせた(それは
板橋浩美(女子2番)坂之下由美(女子7番)を射殺したときの音で、決して勇樹が放った音ではなかったのだが、もはやそんなことは明子には分からなかった)。
―ああ。何でこんなことになったの? 由美が私たちを裏切って、美里を殺して! そして理沙が逃げ出して、由美が私を撃った!
―由美に追いかけられて、姫野君たちが来て! 由美まで狂ったように銃を撃ちまくって、私は逃げて!
 そしてだんだんと、明子は別のことを考えるようになってきた。
―あーあ…学校は、楽しかったな…戻りたいな…。
 明子は、いつの間にか現実を受け入れることを拒み、現実から逃避し始めていた。
―美里の家に皆で行ったとき…、美里が作ってくれたケーキを皆で食べて…すっごくおいしくって…おいしいって言ったら、美里が照れ笑いをして…。
―理沙が…卒業してからも、友達でいようって言ってくれた時もあったな…。
―皆で、旅行にも行こうって決めて…四人で…お金を貯めて…。
―由美は、大人しかったけど…私が悩んでるときは、いつも「私じゃどうにもならないかもしれないけど…相談してみて」って言ってくれたとき…嬉しかったな…。
―戻りたいよ…あの頃に戻りたいよ…!
 明子の目から、とめどなく涙が溢れ出る。涙で前が見えなくなった。
―それに…私が、ちょっと、いいなって思ってた…立川君にも…会いたい…!
 明子は、いつの頃からかは覚えてはいなかったが、
立川大成(男子12番)をちょっとだけ、いい人だと思っていた。
 そしてそれが、淡いものだが、恋心なのだとも、気が付いていた。
 話したこともあまりないのにだ。
…それでも、明子は大成が好きなのだ。姫野勇樹みたいに、少々ぶっきらぼうな、でも結構優しいところがあり、そして…ぶっきらぼうなのは勇樹と違って見た目の雰囲気だけで、意外と面白みのある人物な大成が。
「もう嫌…もう…こんな…」
 その時、明子は何かが足に引っ掛かって、転んだ。同時に、カランカランと音がした。
―な、何!?
 明子は、自分が転んだ辺りをよく見回してみた。すると、足元に糸が張り巡らされ、その糸から空き缶がぶら下がっているのが見えた。
―こ、これって…。
 そしてすぐに、これを仕掛けたらしき人物が現われた。
 金髪に、あの時教室では着ていなかった黒のジャケット。
横井翔(男子特別参加者)に、間違いなかった。
「ひっ、ひいっ!」
「…女子が引っ掛かったのか…とにかく、仕留めないとな」
 そう言って翔は、レイピアを取り出した。
―!
「嫌っ! 死にたくない! 死にたくない!」
「…一撃で死なせてやる」
 翔はそう言って、レイピアを突き出した。
 突き出したレイピアは、明子の左胸を正確に貫いた。
―私…死にたくないよ…。
―理沙…由美…美里…それに…立川君…。
「たちかわ…くん…」
 そこで明子の意識は、途切れた。

「たちかわ…?」
 島野明子の最後の言葉を、しっかりと横井翔は聞いていた。
―たちかわ…そう言えば、デイパックに入っていた名簿にも、そんな名前の奴がいたな…。まあいい。とにかく、さっき大声を出されたし…移動したほうがいいな。
 そう思って翔が荷物をまとめ、その場を立ち去ろうとしたとき、また明子の死体が目に入った。
 その時だった。
「ん…?」
 翔の脳裏を、何かが過ぎった。
 見たこともない男女と歩く自分。
 道を曲がる自分たち。
 そして…、突然誰かに刺され、その場に崩れ落ちる周りの男女。そして大爆発。
「う…うあああああっ!」
 翔はしゃがみ込んで叫んだ。
―何だこれは! 何なんだ!
 翔には、今過ぎった映像の意味は、全く分からなかった。

 女子8番 島野明子 ゲーム退場

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