BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第57話

―つかさ…槙乃…浩美…何してるのかなぁ…?
―私は、一人だよ…? 怖いよ…、寒いよ…。
 降りしきる雪の中、
結城真保(女子21番)はそんなことを、考えていた。
 いつ、自分が死ぬか分からない中、彼女は必死で友人たちのことを考え、懐かしい思い出に浸ることで、その精神状態を保っていた。
 右手に握った自らの支給武器である拳銃、ベレッタM92Fは、誰かが現われても大丈夫だという安心感と共に、やはり殺し合いが行われているのだという実感すらも、真保に湧かせた(弾は既に装填した。使いたくなんかないのだが)。
 黒光りする銃身を見ると、余計に寒々しくなる。
―ああ、寒いなぁ…。こんなことなら、教室を出るときに、お母さんに買ってもらったコートを持って来れば良かったな…。
 真保は、出発してすぐに、とんでもないものを見た。
 うつ伏せに倒れた
焼津洋次(男子19番)と、その腹辺りに広がる血の池。
 もう殺し合いが始まっているということを真保は実感した。さらに、先に出発した友人たち、
板橋浩美(女子2番)谷川つかさ(女子10番)畑槙乃(女子15番)の誰も、真保を待っていなかったのだ。
 仕方なく、真保は一人でその場を立ち去り、海岸ギリギリに、住宅が密集したエリア、H−10にある民家の一つに逃げ込んだ(その際に、真保は
河原真澄(女子4番)らしき人影を見た。旅館があるというエリア、J−5の方向に向かっているようだったが、真保は、真澄に声を掛けられなかった)。
 そしてしばらく、そこに隠れていたのだが、前回の放送でH−10は禁止エリアになってしまった。
 そのために新たな隠れ場所を求めて、結局、会場の端にある、ここG−1に辿り着いたのだ。
 だが、海が目の前にあり、この会場を流れる大きな川が、ここに流れ込んでいるからなのか、体感温度はとてつもなく低い。
 しかし真保は、動く気にはなれなかった。今動いて、誰かやる気の人間に、そう、焼津洋次を殺してしまった人間などに襲われたくは無かったのだ。
 それに、放送のすぐ後、ここにくる途中でF−3辺りから銃声が聞こえたし、ついさっきも、同じ辺りから銃声がした(最初のは、
牧原玲(女子特別参加者)城戸比呂斗(男子6番)菊池麻琴(女子5番)を射殺したときの音だったし、ついさっき聞いたのは、国吉賢太(男子7番)世良涼香(女子9番)に向かって発砲したときの音だった)。
―私、どうすればいいのかなぁ…?
―誰も殺したくないよ…でも、死にたくも無いよ…。
―一人はもう嫌だよ…、浩美や、つかさや、槙乃に会いたいよ…神様…。
 真保は、普段祈ったことも殆ど無い神に、祈っていた。
 その時、背後でがさっと音がした。
「だ、誰!?」
 真保は手に持ったベレッタを、現われた人影に向けた。
「ちょ、ちょっと真保…冗談止めてよ、私よ」
 そこに立っていたのは、徒手を挙げ、右手に拳銃を握った真保の親友、板橋浩美だった。
 彼女の特徴でもあるポニーテールは、この状況下では梳かすこともできないのか、大分ぐちゃぐちゃになっている。
「浩美…浩美じゃない!」
 真保は飛び上がりたい気持ちだった。
―ああ、こうやってまた、友達と逢えるなんて! 神様! 今まで神を信じたりしたことの無い私だけど、これからは神を信じます!
「今まで…何してたの? 真保」
「あっ、私…ずっと隠れてたの。怖くて…怖くて…、でも、もう大丈夫。浩美がいてくれるもの」
「そう…」
 浩美は、そう呟いた。
 そこで真保は、ある疑問に思い当たった。
「ねえ、浩美…そう言えば何で、私を出口で待ってくれなかったの? その様子だと、つかさも槙乃もいないみたいだし…!!」
 そこで、真保はあることに気がついた。
 浩美の制服にべっとりとついた…血(これは、浩美が
吉田晋平(男子20番)に借りたナイフで雨宮広将(男子1番)を殺したときのものだ)。
―こ、この血って…!
 浩美は真保の様子に気がついたのか、言った。
「ああ、これ…? これ、返り血よ」
「か、かえり…ち…?」
「ええ、だって私、四人殺したから」
―そんな…、そんな…、浩美はいつも綺麗で…優しくて…私なんかより気品があって…その浩美が人殺しだなんて…!
「嘘よぉぉぉ!」
 真保は浩美にベレッタの銃口を向けた。浩美は動かない。
―こんなの浩美なんかじゃない! そうよ、この浩美はニセモノよ! そうよ、そうよ! ニセモノは…殺さなきゃ!
「真保…あなたに、親友の私が撃てる?」
 浩美は、銃口に怯みもせず、言った。
「え…?」
 その瞬間、真保の手が、石化したかのように動かなくなった。
 もちろん石化などしていない。
 躊躇いだった。目の前にいる、自分が銃口を向けている相手は自分の親友なのだと、そう感じたとたん、真保の手は動かなくなってしまったのだ。
「私は…違うわ」
 浩美はそう言って、手にした拳銃、ブローニングの銃口を真保の額にポイントした。
 真保の目から、涙が溢れる。
―そんな…そんな…。
 パン。
 一発の銃声。
 それと共に、額に穴の開いた真保の身体が、崩れ落ちた。
 死んでいた。
「私は、親友でも殺せるわ」
 浩美は、言いながら思った。
 私は、罪深い人間だろうな、と。他人はきっと、そう言うだろう、と。
 しかし、彼女は同時に、これこそやらねばならないことなのだ、と思っていた。
 そして真保の手から、浩美がベレッタを引き剥がしたときだった。
「板橋…!」
「浩美…あなた…真保を…!」
 少し前に、自分が仲間の
坂之下由美(女子7番)を殺したときにその場にいた二人、姫野勇樹(男子15番)と、親友の谷川つかさが立っていた。

女子21番 結城真保 ゲーム退場

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