BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第58話

「もう、追いついたんだ…、つかさ、姫野君」
 板橋浩美は、ごくごく冷静に、目の前にいる親友の谷川つかさと、何故か彼女と一緒にいる姫野勇樹に向かって言った。
「何で…何で坂之下さんだけでなく、真保まで…」
 浩美の傍らに転がる、親友の結城真保の額に穴の開いた死体を見て、つかさが言った。
「…」
 浩美は答えなかった。いや、答えるつもりはなかった。
 いくら親友とはいえ、自分にとっては重大な、「教祖様」や自分たちの目標は理解できないに決まっているからだ。
 すると、今度は勇樹が多少怒りも含んだ口調で言った。
「板橋、お前は何故親友まで殺したんだ? 俺は聞いた、坂之下が死ぬ前に、「教祖様」とか言っているのをな。そしてお前が直後に坂之下を撃ち殺して逃げたとき、俺は坂之下の耳にインカムが着いているのを見た。そしてお前の耳にもインカムが着いているのを谷川が見てる。その時俺は思ったんだ。お前がその教祖とか言う奴なのか、それとも他に裏に誰かがいるのか、ってな」
 浩美は驚いた。
 勇樹の言っていることは、殆ど当たっているのだ。
 浩美は普段、勇樹のことを喧嘩だけの人間で頭はそれほど良くない、と思っていたので(事実、テストなどはとてつもなく悪かったが
城戸比呂斗(男子6番)よりはマシだった)、勇樹がここまで考えるとは思いもしなかったのだ。
「とにかく、本当のことをお前から聞きたい。そうしないと他にも仲間がいたりしたら杏樹や比呂斗や大成にも危険が及ぶからな…場合によっては、容赦なく撃つ!」
 そう言って勇樹は、浩美に向かってマイクロウージーを向けた。
「言えないわね」
 浩美は、あくまで黙秘するつもりだった。
「そうか…、これ以上、お前に殺させるわけには行かないからな…悪いが死んでもらう」
 勇樹の手に、力が入った。
「姫野君やめて!」
 つかさが割って入った。そして、浩美に話しかけてきた。
「ねえ、浩美…? これ以上人を殺すのは止めて? こんなの…良くないことだよ? そして…こうやって人を殺す理由を教えて? お願いだから!」
「いくらつかさの頼みでも、こればかりは、言うわけにはいかないわ」
 そう、浩美が言ったときだった。
「浩美」
 インカムに、聴き慣れた、「教祖様」そのものの声が届いた。
「きょ、教祖様ですか!? 今はちょっと…」
 つかさと勇樹は、浩美が会話を始めたことに驚いているようだ。
「…大丈夫だ、今、すぐそこまで来ている」
「ほ、本当ですか?」
「ああ、浩美…君を、教えに背いた背信者として葬るためにだがね」
「え…?」
 浩美は、驚いた。
―私は、何か教えに背く行為をしただろうか? だとしたら一体何を…。
―まさか―!
 浩美は、あることに思い当たった。
 自分たちのことを漏らしてしまった信者、坂之下由美を殺したこと。
―「教祖様」は、それを見ておられたのか!
―そうだ、確か「呉道教」の教えの一つに、「神の下に仕える仲間を裏切る行為は、何があろうと許されない」というものがあった…ああ! 目標に向けて戦うことを考えるあまりに、その教えを忘れていたなんて!
「申し訳ありません、教祖様!」
「神の下で、坂之下君に謝り給え。教団のために貢献した君を断罪するのは辛いし、私も教えを破ることになる。だが、この状況下では…こうするしかないと判断したのだ」
「…分かりました。断罪を受けます」
「うむ…」
 そして浩美は、静かに眼を閉じた。
―「教祖様」、今までありがとうございました。
―私はいつまでも、貴方のお傍におります…。貴方のこれからを、見守らせて下さい。
―そして最期に…私はあなたを、一人の異性として、お慕いしておりました…。
 そして、銃声が響いた。

 勇樹は、突然のことに驚いていた。
 突然浩美がインカムと話し出し、そして立ったまま目を閉じ、そして一発の銃声と共に浩美が倒れた、その場面が。
 まるで、映画のワンシーンのように見えた(その場面は、勇樹が
富森杏樹(女子12番)とのデートで見たこの国のアクション映画にあったワンシーンに酷似していた)。
「い、板橋!」
「浩美ー!」
 勇樹とつかさは、すぐに倒れた浩美に駆け寄った。
「あ…」
 浩美の左こめかみに穴が開き、そこからゆるゆると流れ出した血は、彼女の首筋を辿り、地面に滴っていた。
 その姿は、何だか、美術館に飾られた彫刻のようで、非常に美しく見えた。
 死んでいるのは明らかだった。
「浩美ー!!」
 つかさが浩美の亡骸を抱きかかえて、泣き叫んでいる。
 それを見ていると、勇樹は、だんだん腹が立ってきた。
 浩美を撃ち殺したのは間違いなく、インカムで死ぬ直前まで話していた「教祖様」とやらだろう。
 そいつが浩美や由美を操り、浩美を殺したことに、腹が立ってきたのだ。
「何処だ! 教祖とやら! 出てきやがれ! この近くにいるのは分かってるんだ! 早く出て来い!」
 マイクロウージーを四方に向けながら、勇樹は叫んだ。
 すると、近くの茂みから、声がした。
「私が出てくるのが望みなら…出て行っても構わないが…君たちは私に勝つことは出来ない。それでも私の姿が見たいのか?」
「そうだ! 勿体つけてないで早く出て来いこのクソ野郎!」
「分かった…出てやろうじゃないか」
 そう言って、声の主、「教祖様」は茂みから姿を現した。
 勇樹は、その正体に驚くしかなかった。
「お、お前が…教祖なのか…?」

 女子2番 板橋浩美 ゲーム退場

                           <残り16+2人>


   次のページ  前のページ  名簿一覧   表紙