BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第59話

「お前が…教祖…だと!?」
 姫野勇樹は、一概には信じられなかった。
 隣では、まだ谷川つかさが板橋浩美の死体に縋り付いて泣いている。
 勇樹は改めて、目の前に立つ人物の姿を、よく見た。
 坊主とは行かなくても、短く刈り込んだ髪。そこそこに高い身長。
 勇樹は、その男に見覚えがあった。
 あの教室内で、尾賀野たちが入ってくる前に、今は亡き
三木元太(女子18番)に向かって、すっとぼけた会話をしていた生徒。
 そして、普段も何処か抜けた印象のあった生徒。
―まさか! こいつが教祖だったなんて!
「…俺が本当に教祖なのか、疑ってるみたいだね」
 その生徒、
白鳥浩介(男子9番)は、右手に持った拳銃、コルト・ガバメント45口径の銃口を勇樹に向けながら、言った。
「これで…、分かるんじゃないのかな?」
 そう言って、浩介は右耳を見せた。
 そこには、坂之下由美や、板橋浩美が付けていたものと同じ、インカムがあった。
「お前…! 何でこんなことを…!」
 すると浩介は、平然と言ってのけた。
「これは聖なる戦いのための前哨戦なんだ。だから俺は死ぬわけにはいかないんだ。浩美たちに協力してもらうのは苦しい選択だったが…」
「お前…ふざけんな!」
「ん?」
「聖戦だか何だか知らないがな! 簡単に人を…しかも、仲間を殺していいと思ってんのかよ!」
 すると、浩介の表情が硬くなり、そして言った。
「俺も、殺していいとは思っていない。これは、苦渋の決断だったんだ。大きな目標のための…前哨戦だからな」
「ふざけんな! お前は…最低だ! 今までもあの抜けた性格で、クラスメイトを騙してきたんだな! ふざけんな!」
「俺が最低であろうとどうだろうと関係はない。俺は立ち止まれないところまで来たんだ。もう…俺は躊躇しない。ここからは、信者たちに頼ってばかりではいられない」
 そう言って、浩介は銃口を、未だに浩美の死体に縋り付いているつかさに向けた。
「谷川! 危ない!」
 勇樹は素早く、つかさを突き飛ばした。
 同時に、コルト・ガバメントの銃口が火を噴き、浩美の死体の腹部に着弾した。
「ここで二人には死んでもらおう…」
 浩介がそう呟いたのが、勇樹には聴こえた。
「馬鹿言うな、俺の方が装備は上だ。お前に勝ち目があるのか!?」
 勇樹は素早く立ち上がって、マイクロウージーを浩介に向けた。
「出てくる前にも言った、お前は俺に勝てない。絶対にだ。これだけは確信している」
「お前は絶対に倒してやる!」
 勇樹はマイクロウージーの引き金を引いた。
 同時に、無数の銃弾が発射され、浩介は素早く身をかわした…かに見えたが、放たれた銃弾の一つが、浩介の脇腹に当たり、浩介はその場に倒れこんだ。
 だが、平然と浩介は起き上がり、コルト・ガバメントを勇樹とつかさに向けて撃ってきた。
―な、何でこいつ…平然と立ち上がるんだ!?
 とにかく、浩介が何故かは分からないが撃たれても平然としていることを考えても、状況はかなり勇樹に不利になっているのは明らかだった。
「立て、谷川! 逃げるぞ!」
 勇樹はつかさを立たせて、逃げるしかなかった。
 背後から、浩介のものらしき銃声がしたが、気にしていられなかった。
―あんな奴に見つかる前に…、杏樹を探さないと…!

「だから言ったんだ…勝てないって」
 浩介は、勇樹に撃たれた脇腹を押さえて、言った。
―結構痛かった。だが、それだけだった。
 浩介は制服のポケットから、自らの支給武器であるレーダーの液晶画面を見た。
 勇樹とつかさのものらしき反応は、どんどん浩介から遠ざかり、遂に液晶から消えた。
―速いな…。
 自分の周りに、どうやら誰もいないようだ。
「大丈夫そうだな」
 そう呟くと、浩介は浩美のブローニングと、結城真保のベレッタを回収した(由美のワルサーは、回収できなかった。恐らく、勇樹たちが持っていったのだろう。浩介はさっき、つかさが懐に拳銃を持っているのを見た)。
「これで十分だ」
 そう言って、浩介はその場をすぐに離れた。

 中盤戦終了――――――――

                           <残り16+2人>


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