BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第6話
その黒髪の男は更に続けた。
「どうもー。僕は今日から君たちの担任になったオガノアキトと言います」
そう言ってオガノと言った男は黒板にチョークで「尾賀野飽人」と書いた。
―何だよそのふざけた名前は!
元太は心の中でそう思った。
「そしてもう一人がー…」
尾賀野がそう言った所で、茶髪の男が言った。
「今日から君たちの副担任になった、ヒンゴウハルチです」
そう言って今度はヒンゴウと名乗った男が、黒板に「彬合晴知」と書いた。
―こいつもふざけた名前をしていやがる。
「そういうわけなんで、これからよろしく!」
二人がそう言ったとき、女子委員長の中元理沙(女子13番)が立ち上がり、言った。
「一体、何なんですか? 私たちは、旅行の打ち合わせをしていたんです! きちんと説明して下さい!」
理沙が言い終わると同時に、教室中から「そうだそうだ」「いきなり担任とか副担任とか言われても…」「ここから出せよ!」などと、声が上がった。
「はいはいはいはい、静かに! ちゃんと説明はするから騒がないように!」
尾賀野がそう言うと、あとを彬合が継いで答えた。
「君たちは今年度第四十回目のプログラム対象クラスに選ばれました」
「そ、そんなの嘘よ!」
加奈子が叫んだ。その声はもう、ただのヒステリーだった。
「私のお父様が誰だか分かってるの? 大東亜共和国専守防衛軍を纏める防衛庁長官なのよ?」
「へー、そうですか…」
尾賀野が呟く。
「分かった? 分かったらさっさと私だけでも解放しなさいよ!」
―テメエ、自惚れてんじゃねえ!
加奈子の身勝手な発言に、元太は苛立った。
「あのね、山原加奈子さんだよね? あなたは…。確かにあなたの父上は僕たちを纏めていらっしゃる。しかしねえ…だからと言って特別扱いされるとは決まってないんだよ?」
尾賀野の口調が、何だか氷のように冷たい口調になった。
「わ、私を解放してくれたら、お父様があなたの昇進も約束してくれる! 嬉しいでしょ? ね? だから早く私を…」
加奈子も尾賀野の変化に少し驚いた様子を見せたが、すぐに続けた。
「自惚れるな」
突然尾賀野が言い放った。激情を心に含んだ、しかしとても静かな口調で。
「君のような人間は、ろくな事にはならない。過去、そういう発言をした生徒が優勝した記録はおろか、少しでも生き永らえた記録はないんだ。万に一つも、今の君に生き永らえることは出来ないよ」
加奈子はその言葉に、愕然として座り込んでしまった。
「おい、尾賀野…落ち着け」
彬合がそう言うと、尾賀野は少しずつ元に戻った。
「ああ、しまったなあ。キレちゃまずいか」
―何だコイツ? 二重人格なのか?
「あ、あの…」
そこに、おずおずと手を挙げたのは、卓球部に所属している小心者の布川和政(男子17番)だった。
「横川先生は…、何処に行ったんでしょうか? ここにいるんですか? それとも、まだ学校にいるんですか?」
「―! そうです、横川先生は何処ですか?」
理沙も和政に便乗して、言った。
―そうだ。アニキは、アニキこと横川将晴は何処にいんだよ?
元太もそのことに気付いた。
「あっ、そうそう。担任の横川先生はね、君たちがこのゲームに選ばれたことにものすごく反対してね。それで…、亜幌(あほろ)君。あれ持ってきて」
尾賀野が亜幌という兵士に言うと、亜幌は何かをロープで縛って引っ張ってきた。
―「あれ」? 何なんだ…?
そしてそれを受け取った彬合がそれを教卓の上に乗せた。そして…。
「きゃあああああ」
女子の中で一番前に座っていた結城真保(女子21番)が悲鳴を上げた。
彬合が教卓の上に乗せたもの、それは…、頭部に大きな穴が開き、そこから流れる血も既に止まった横川将晴の死体だった。
「殺してしまいました。でも、逆らった先生が悪いんだぞ?」
尾賀野の言葉など、元太はもう聞いてはいなかった。ただ俯いていた。
一度顔を上げて横川の死体をもう一度見た。やはり横川だった。「アニキ」だった。
横川の死体と、元太は目が合った。もちろん一方的にこっちが目を合わせたのだけれど。
虚ろな目が、とっくに瞳孔が散大した横川の目が、元太を見ていた。
―アニキ…アニキが死んだ…許さねえ…許さねえ許さねえゆるさねえゆるさねえユルサネエユルサネエユルサネエ!
元太は立ち上がった。
教室中の誰もが驚いているようだった。
比呂斗や大成、邦幸、勇樹、義教が何か言っている。だが元太にはそれらの音が何一つ聞こえなかった。
―ああ、俺本気で切れたんだろーな…。
―だがもうどうでもいい。俺は! この! アニキを殺した! このクソ野郎共を! ぶっ飛ばす!
元太には、もはや尾賀野と彬合を倒すことしか考えられなかった。
<残り42人>