BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第61話
B−1、廃墟のホール内。
宇崎義彦(男子2番)は、塞ぎ込んでいる和歌山啓一(男子21番)の方向を見やった。
啓一は、前の放送で津脇邦幸(男子13番)の死を知ってから、一言も喋らなくなってしまった。
ホールの隅で、膝を抱え、死んだ魚のような目で、ぼおっと宙を見上げたり、地面に目を落としたりしている。
啓一は、「これがプログラムなんだな」と、言っていた。
確かにそうだ、と義彦は思う。
今までずっと、共に学校で過ごしてきた仲間たちが殺し合う。それがプログラムなのだ(だが今回は、特別参加者とやらが混じっているが)。
そんな非現実的なことを、普通の中学生がそう簡単に受け入れられるはずが無いのだ。
それが、このゲームが始まってからまともに死を身近に感じることの無かった啓一なら(焼津洋次(男子19番)の死体は見たようだが、特別に仲が良いわけでもない洋次の死体を見ても、実感は得られないはずだ)、なおさらだ。
そう言って、義彦は啓一を落ち着かせようとしたが、啓一は訊く耳を持たなかった。
―駄目だ。どうにもならない。貴仁も、城戸も、菊池も帰ってこないんじゃ…啓一もこの状態じゃ…。
義彦は途方に暮れていた。その時だった。
「はい、皆さん、こんにちは! お昼の放送がやってきました! 担任の尾賀野です!」
―全く、ますます気分が悪くなる!
「それでは、これまでに死んだクラスメイトの名前を発表します。まず、女子5番、菊池麻琴さん。男子6番、城戸比呂斗君」
「何だと!?」
義彦は、思わず叫んでいた。
よりによって、あの時農協で逸れた仲間のうち、城戸比呂斗(男子6番)と菊池麻琴(女子5番)が死んだというのだ。驚くのも無理は無かった。
これで、生き残っているのは狩野貴仁(男子5番)だけということになる。
「そんな…」
だが、続いていた放送は、義彦の心を、更に痛めつけた。
「女子6番、越谷美里さん。女子7番、坂之下由美さん。女子8番、島野明子さん。女子21番、結城真保さん。女子2番、板橋浩美さん。男子5番、狩野貴仁君。以上八名」
―そんな…貴仁まで…。
「終わった…」
義彦は、作戦の終わりを、そして求めていた「普通」が手に入らないことを確信した。
「津脇が死んで…、城戸と菊池、そして貴仁が…」
義彦の涙腺が、緩み始め、止め処なく涙が溢れ始めた。
「結構ペースが良いですね。嬉しいです。それでは次は、禁止エリアの発表を、彬合先生にしてもらいます」
そして再び、今度は彬合の声が響いた。
「それでは、禁止エリアの発表をします。まず、1時から、F−3。次に、3時から、C−5。最後に、5時から、E−1。以上です。それではまた、次の放送で」
彬合がそう言って、放送が終わった。
義彦は、何とか禁止エリアを書き留めたが、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「ちくしょう…」
義彦は、それだけしか言えなかった。その時、何かの物音を聞いた。
―誰か来たのか!?
義彦は金属バットを握り締め、ホールを飛び出した。啓一もそれに気付いたのか、ふらっと立ち上がった。
その時、人影のようなものが、こちらに近づいてくるように、義彦には見えた。
やがてその人影は、廊下の窓から差し込む日光に照らされ、その姿を露にした。
農協から逃げる際に、比呂斗が持っていたガソリンの入ったポリタンクを手に持った、狩野貴仁が、そう、ついさっき、放送で名前を呼ばれたはずの貴仁がそこにいたのだ。
「貴仁…お前、放送で呼ばれたはずじゃ…」
そう、確かに貴仁は放送で名前を呼ばれているのだ。死んでしまった…はずなのだ。
だが、その貴仁が今、こうして自分の前にいる!
「貴仁!」
義彦がそう呼びかけると、貴仁は下を向けていた顔を、ゆっくりと上げて、義彦の方を見た…その直後だった。
貴仁の身体が、前のめりに崩れ落ちた。
「貴仁…!」
義彦は貴仁に駆け寄った。その背中には、二本の、そして右足に一本の銀色の矢が刺さっていた。義彦はその身体に触れた。そして、仰天した。
貴仁は、とっくに息をしていなかったのだ。尾賀野のした放送は間違っていなかった。
ここに辿り着く以前に、狩野貴仁の身体は、とっくに死んでいたのだ。
そしてその身体を、まだ生きていた貴仁の精神が動かしたのだ。
義彦は決して、オカルトの類を信じる方ではなかったが、そう考えるしかなかった。
そして義彦は、背後に立ち尽くす啓一の胸倉を掴んだ。そして、言った。
「啓一、落ち込んでる暇はないぞ! 俺たちは、こうして死力を尽くしてガソリンを持ってきた貴仁や、俺たちを逃がしてくれた津脇や、何処かで死んじまった城戸と菊池のためにも、脱出しなけりゃならないんだ! いいな!」
後日談。
後の死亡状況調査により、狩野貴仁の死亡推定時刻は、宇崎義彦らと出会う5分前だったと判明した。
しかし、狩野貴仁の死体が、何故死亡の確認されたC−3から、誰かに運ばれもせずにB−1まで移動したのかは、未だに謎である。
男子5番 狩野貴仁 ゲーム退場
<残り15+2人>