BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第62話

 C−8周辺にあたる、山道。
 そこを歩く、人影があった。
 それは、右手に何かを着けた、180センチはゆうにあるだろう男子生徒だった。
 その長身の男子生徒、
立川大成(男子12番)は、ふと、仲間たちの顔を思い出していた。
 自分たちの中ではリーダー格で、見た目はちょっとヤバめだがいい奴で、よく
菊池麻琴(女子5番)とのことを言われて顔を赤くして怒っていた城戸比呂斗(男子6番)(大成は、何となくあの二人は実は両想いじゃないかと感じていた。無論、確証はなかったが)。
 笑うと、いつも細い目が余計ににやけた
津脇邦幸(男子13番)
 不器用で、いつも
富森杏樹(女子12番)とうまくやれる方法を考えていた姫野勇樹(男子15番)
 一番優しくて、おかげで喧嘩には強くなかったけれど、実は密かに強いんじゃないかと大成が思っていた
平田義教(男子16番)
 中学の三年間で、あっという間にキャラが変わった
三木元太(男子18番)
 そして、大成。
…だが、このグループで今やこのプログラム会場に生きて存在しているのは、大成と勇樹だけになってしまった。
 出発前に、尾賀野に歯向かった元太が、首輪を吹っ飛ばされた。
 さらに最初の放送の最後に、義教の名前が呼ばれ、三回目の放送では、邦幸の名前が、そしてたった今の放送で、比呂斗と菊池麻琴の名前が呼ばれた。
―皆、何処で死んじまったんだ…?
 そう思いながら、大成は右手に着けた自らの支給武器、メリケンサックを見つめた。
 大成は、元太が死んでからというもの、ひたすらに尾賀野たちへの復讐法を考えてきた。本部に戻って尾賀野たちを襲撃する手も考えた。
 しかし、支給武器はこのメリケンサック。いくら大成が空手をやっているとはいえ、こんな物では、本部の襲撃など不可能だった。
 かといって、それほど頭の良くない大成には、もう復讐の方法は思い浮かばず、途方に暮れながら、あちこちを彷徨ったが、誰とも会うことは無かった。
 そしてその間に、仲間たちは次々と、この世から姿を消していった。しかも、自分の知らない所で。
「ちくしょう…俺って…俺って…」
 大成は、自分で自分を責めたかった。
―何て俺は、無力なんだ…。俺、元太に誓ったのに…。
―くそ、くそ、くそ!
 大成は、近くにあった木に自らの額を思いっきりぶつけた。その衝撃で、木が大きく揺れた。
 額からは、血が滲み出したが、関係なかった。比呂斗たちが死ぬときの苦しみなんかよりは、ずっと軽いものだ。
 その時だった。
「誰か…いるのか?」
 山道の向こう側から、声が聞こえた。どうやら、今の木への一撃で、存在を知られたらしい。
「…立川だが、お前こそ誰だ…」
「俺か? 俺は曽野だ」
 そう言って、山道の向こう側から姿を現したのは、野球部に入っていた、
曽野亮(男子11番)だった。亮の右手には、自動式拳銃が一丁(これはグロッグ18という名前で、亮の支給武器だった)、握られていた。
「お前…やる気なのか?」
 大成は、尋ねた。
「いや…殺す気は全くない。お前は?」
「いや…俺もだ」
「そうか…こうして、この状況でやる気になってない奴も、まだまだいるんだな…やっぱり、人間捨てたものじゃないな」
「そうか…? 少なくとも俺は、自分は今、いてもいなくても変わらないと思っているがな」
「何故?」
 亮が問い返してきた。
「俺は、元太に誓ったんだ。尾賀野たちに復讐してやるって。元太の分も、アニキの分も。でも…俺は何も出来ない。誰のためにもやれない」
「それは…違うと思う」
「何がだ」
「立川は、そうやって諦めているけど…少しでも、行動しようとしたか? 心の中で思っているのと、実際にやるのとは、全然違うんだ。俺なんかがそうさ。俺は…谷川さんを探している」
「谷川を?」
 大成は、
谷川つかさ(女子10番)について、考えた。
 クラスでも特別目立つ人間ではないが、ただひたすらに優しい(慈悲深いとでも言うのか?)。そして…笑顔が印象深い。確か、五年前のテロで両親を亡くしたと聞いたので、そんな境遇で、あの笑顔ができるつかさは凄い、と感じたこともあった。
 だが、その谷川を…何故?
「俺は…谷川のあの笑顔が好きだ。いや…ひょっとしたら、全部好きなのかもしれない。そして俺は、谷川を守りたい。俺も、立川と同じで、自分は無力だと思ってた。でも、今は違う。谷川のためなら、俺は戦える気がするんだ」
「曽野…」
「だから俺は、谷川を探す。お前も、諦めたら駄目だと思う。諦めた瞬間、本当に全ての希望は絶たれるんだ」
「…」
 大成は、ショックだった。自分は無力だと、そう思い続けていた。だが違った。
 所詮、やる前から諦めていただけなのだ。自分は無力だと思い続けて、逃げていただけだった―。
 大成が、そう気付いたときだった。亮が言った。
「立川…誰かが来た」
「え?」
 亮が大成の来た方向を向き…表情を変えた。大成もそれに気付いてその方向を向いて、同じく表情を変えた。
 その方向からは、大成の仲間である姫野勇樹と、亮の探していた、谷川つかさがやってきていた。

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