BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第63話
姫野勇樹と谷川つかさは、山道をひたすらに歩いていた。
―放送の前に会った白鳥。奴には注意が必要だな。
仲間のはずの板橋浩美(女子2番)を撃ち殺した白鳥浩介(男子9番)。
勇樹はそう考えていた。
さらに、放送で名前を呼ばれた城戸比呂斗。比呂斗とは以前、菊池麻琴といるところに会っていた。
―比呂斗は、何処で死んだのだろう…?
―狩野には会えなかったのだろうか? 宇崎たちには会えたのだろうか?
そればかり考えてしまった。
だが今は、まず杏樹を見つけることが第一だった。仲間が次々と死に、どれだけ辛くとも、杏樹を見つけなければいけなかった。そんな時、つかさが何かに気付いた。
「姫野君…この道の先に、誰かいるみたいだけど」
「え?」
勇樹は用心して、マイクロウージーをしっかりと握ってその方向へ向かった。
すると、長身の男子生徒、そう、今や生き残っている中では唯一の勇樹の仲間、立川大成が現われた。
「勇樹…勇樹じゃないか!」
「大成! 無事だったんだな!?」
勇樹は、飛び上がって喜びたい気持ちだった。唯一の仲間、大成が目の前にいるのだ。
「おお…? あれ、勇樹? 富森は?」
大成がそう言った瞬間、勇樹は我に返った。
―大成には、説明しておかないと…。
勇樹は、自分が杏樹といない理由を、全てキチンと説明した。すると、大成の表情が曇った。
「そんな…記憶喪失だなんて…」
「ああ。まだ放送で呼ばれていないから、生きているのは間違いないんだが…なかなか見つからないんだ」
「…そうか」
そう呟いて、大成は黙ってしまった。
その時、大成の隣に立っていた生徒、曽野亮が呟いた。
「谷川…さん?」
その言葉に、勇樹の背後に立っていたつかさが反応した。
「やっぱり谷川さんだ…会いたかった! 会いたかった!」
「え…?」
つかさは、困惑しているようだったが、大成がフォローを入れた。
「曽野は、ずっと谷川を探してたんだ。谷川を…守りたかったんだそうだ」
「わ、私…を?」
「ああ、俺、俺…今なら、谷川さんのために戦える気がする。だから言おうと思う。俺は…」
亮が言いかけた時、大成が叫んだ。
「谷川! 後ろ!」
谷川の背後の林が、少しだけ動いた。
間違いなかった。誰かが息を潜めて、近づいてくる!
「谷川さん! 危ない!」
そう叫んで、亮がつかさと誰かの間に素早く割って入った。その直後、林の中から、何かの刃が突き出され、その刃先は、亮の腹部に綺麗に突き刺さった。
「ぐうっ!」
亮はそう呻いて、その場に倒れこんだ。
「曽野!」
「曽野君!」
大成とつかさが、倒れこんだ亮に駆け寄った。亮の腹部からは、じわじわと鮮血が溢れだしてくる。
「た、たにがわ…さん…おれ…たにがわさんがすきです…だから…だからおれが…おれが…たにがわさんを」
「遺言は、それで終わりだな」
そんな声と共に、先ほど亮を刺した刃が、亮の左胸に突き立てられた。亮は、ごぷっと血を吹き出したかと思うと…動かなくなった。その顔は、穏やかだった。
「お前は…」
大成が、唸るような声で、目の前の、亮をいとも簡単に殺してのけた男、横井翔(男子特別参加者)に向かって言った。
「悪いな…でも俺は優勝して、ここから生還したいんだ」
そう言って、翔は平然と、亮の持っていたグロッグを拾い上げた。
「ふざけないで!」
その声に、勇樹は驚いた。今まで黙っていたつかさが、珍しく大声で叫んでいたからだ。
「曽野君だって、生きたかったのよ? 皆、皆、生きたくて、生きたくて、必死なのよ!? あなたにそれを踏みにじる権利があるの? 許さない! 絶対に許さないんだから!」
つかさがそう叫んで、坂之下由美(女子7番)のものだったワルサーを、翔に向けてポイントした、その刹那だった。
「だからって…お前に俺の生きたいって気持ちを踏みにじる権利も無いだろ?」
そう言って、翔はつかさに向けてグロッグを、数発撃った。
銃声と共に、つかさの身体にその銃弾は突き刺さっていった。つかさの身体が後ろに崩れていく。
「曽野君…私…貴方の行為を無駄にしちゃった…ごめんなさい…」
そう、つかさが呟いたように、勇樹には聞こえた。
つかさの身体は、地面に倒れこむと、もう二度と、動くことは無かった。
―谷川が、死んだ。
―俺に、協力してくれるって言った…谷川が。
―コイツが。コイツが殺した!
「ぶっ殺してやる!」
だが、怒号と共に動いたのは、勇樹ではなかった。大成が、弾かれるように翔に向かっていった。
「曽野は…曽野は谷川を守りたがってたんだ! そのためなら戦えるって言ってたんだ! でもお前が、曽野も谷川も殺した! お前は俺が、絶対に殺してやる!」
大成は、メリケンサックを握った右手で、殴りかかった。その動きは、今まで勇樹が見てきた中で、一番速かった。
翔が難なくそれをかわす。と同時に、大成が右回し蹴りを放つ。しかしそれを翔は空いた左手でガードする。
強かった。横井翔は強かった。空手をやっていて、喧嘩にも慣れていて、実力があるはずの大成よりも、遥かに。
そして一瞬だけできた隙を見て、翔はグロッグの弾を一発、大成の脇腹に撃ち込んだ。
大成は、バランスを崩すと、山道の反対側の、急斜面を転がり落ちていった。
「た、大成!」
すると翔は、今度は勇樹にグロッグの銃口を向けてきた。マイクロウージーには、手をかけていなかった。
―ちくしょう!
勇樹は素早く、跳ねるかのごとく動き、つかさの亡骸の右手から、ワルサーを奪って翔に向かって、三発ほど撃った。
パシュ、パシュ、パシュ。
弾は一発も、翔には当たらなかったが、翔は一瞬だけ怯んだ。
―今だ!
勇樹は、大成が転がり落ちた急斜面に飛び込み、滑り降りていった。途中、翔のものらしき銃声が何発か聞こえたが、当たらなかった。そして翔も諦めたらしい。歩いていく足音が聞こえた。
「ちくしょう…谷川…」
勇樹は、悔しくてしょうがなかった。
目の前で、いとも簡単に二人も殺されてしまった。
しかも一人は、自分とずっと行動してきた、つかさ。
悔しかった。何もできなかった自分が、腹立たしかった。
朝から降っていた雪が、地面を真っ白に変え始めた。
男子11番 曽野亮
女子10番 谷川つかさ ゲーム退場
<残り13+2人>