BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第64話

 C−7にあたる、雑木林。
 その中を、
富森杏樹(女子12番)は闇雲に歩いていた。
 昨夜のうちに
世良涼香(女子9番)、そして瀬古雅史(男子10番)(記憶を失っている杏樹は、その時いた雅史を、涼香が「瀬古君」と呼んだことから、名簿に名前のある瀬古雅史だと判断した)に会って以降、誰の姿も見ていない。
 そして放送の直前にようやくここに辿り着いて小休止をしていたところ、銃声が何度かしたため、危険を感じた杏樹は移動中だった。皮肉にも、その銃声は彼女を探していた
姫野勇樹(男子15番)と、彼女と一度会っている谷川つかさ(女子10番)らが横井翔(男子特別参加者)と戦っていた場所だったため、結果的に杏樹は、勇樹から遠ざかってしまった。
 杏樹は、チラリと生徒手帳に入っていた一枚の写真を見た。
―この写真に写っている人。この人は私の大切な人かもしれない。
 その考えから、杏樹はこの少年を探し続けていた。
 しかし、全くといって彼の手がかりは掴めなかった。
―どうすれば彼に会えるのだろう。会って、彼が私にとっての何なのかを、知りたい。そして一つの疑問を投げかけたい。
―『私に居場所はあるの?』
 不安で仕方がないのだ。記憶を失った自分は、他と関わる事が出来ずここでひっそりと死んでいくのだろうかと。
―どうすれば…どうすれば…。
 そうしている時、杏樹は目の前に誰かがいるのを見た。

「死にたくない…嫌…由美か明子がやる気なんだもの…やるしかないじゃない!」
 
中元理沙(女子13番)は、完全に精神が破綻を来たしていた。
 事実、先ほどの放送も耳に入らず、未だに
坂之下由美(女子7番)島野明子(女子8番)が生きていると錯覚していた。
「殺さなきゃ…私が殺される…美里みたいに…」
 そう呟いた瞬間、理沙の脳裏に
越谷美里(女子6番)の、額に穴を開けた死体の映像が蘇った。
「…嫌! 嫌! 嫌ぁ!」
 理沙は思わず、そう叫んでいた。
―死にたくない! 死にたくない! 嫌! 嫌! 嫌よ!
 その時、自分に向かって誰かが歩いてくるのが見えた。その人物―富森杏樹は、理沙に気付くと、ピタリと立ち止まった。
―わ、私を、こ、殺す気なんだ…そうだ、そうに決まってる!
―やってやる! やってやる! 死にたくないんだから…。
「死にたくなんかない!」
 理沙は、そう叫んで、右手の鎌をしっかりと握って杏樹に向かっていった。

 杏樹は、自分に向かって中元理沙が突っ込んでくるのが見えた。そしてその右手に持った鎌を、理沙が振り上げた。
―この人…私を殺す気だ!
 杏樹はそう判断すると、すぐに駆け出した。それを見た理沙が、追いかけてくる。
「逃げるな! 私は死にたくないの! 殺して、殺して生きるの! 死ね死ね死ね死ね死ねぇ!」
―狂ってる。この人は完全に狂ってる!
 杏樹は、走りながら必死でデイパックを開け、支給武器だったアルコールランプを(こんなものを未だに持っていること自体、おかしいのかもなと、杏樹はふと思った)手に取った。
 そして、民家で寒さをしのぐことに期待して手に入れたマッチをポケットから出して、擦った。
 赤々とした火が灯り、杏樹は蓋を外したアルコールランプに火を点け、投げ捨てた。
―ひょっとしたら…。
 火の点いたアルコールランプは、理沙に直撃し、割れた。それと同時に、理沙の身体を、アルコールに引火した火が走った。
「なっ、何よ! これ! 熱い! 熱いってば!」
―良かった、成功した。
 理沙は火を消すのに一生懸命になっていた…その時だった。
 理沙の背後から銃声が響き渡り、理沙の頭部が揺れた。そして火のついたままの理沙の身体が、うつ伏せに崩れ落ちた。理沙の頭からは、血がゆるゆると流れ出ていた。
―し、死んじゃった…誰が…誰が一体…。
 そして、銃声のしたあたりから、右手に硝煙の立ち昇る拳銃を持った
国吉賢太(男子7番)が現われた。
「…富森さんか。また会ったね」
「…また?」
 杏樹がそう言うと、賢太は表情を変えずに、更に言った。
「本当に忘れているようだね…。僕は君に一度会っているんだけどな」
 そう言われて、杏樹は必死で自分の、富森杏樹の記憶を探ろうとしてみた。すると、何か断片的な映像が蘇った。
 崩れ落ちる、少女と、その向こう側に立つ、今目の前にいる少年。
―何故か思い出した。ほんの僅かだったが、彼と確かに会っていることを思い出した。
「確かに…会ってる」
「そうだろ? …まあ、これ以上思い出すべきじゃないのかもしれない。あっ、それから」
 賢太は言葉を切ると、未だ身体が燃えている理沙の死体を見て、続けた。
「彼女を殺したのは僕だ。そして僕はこれに乗っている。だけど、僕は君を殺す気があまりしないんだ。君を探している人に、君を殺すなと、言われてからね」
「ど、どういうこと? 私を探している人って…!?」
「姫野勇樹っていう人だよ。君が思い出せないようだから、特徴を言っておこうか。金髪で長い髪。それを後ろで括った男子だよ」
「え…!」
 杏樹はすぐに、あの写真を見てみた。その写真の彼は、金髪で長い髪、そしてその髪を後ろで括っていた。
―この人だ…。
「それじゃ、僕は行くよ」
 そう言って、賢太は駆け出していった。
「あっ、ま、待って…」
 しかし、すぐに賢太の姿は見えなくなっていた。杏樹も、すぐにその場を立ち去った。
 そこには、結局自我を失った哀れな少女の死体が、残されるだけだった。

 女子13番 中元理沙 ゲーム退場

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