BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第65話

―俺は一体…どうなったんだ…。
 少年は、まどろみの中、考えていた。その時、自分が見た光景が、蘇った。
 少女を庇い、
横井翔(男子特別参加者)の凶刃に倒れる、自分を励ましてくれた少年、曽野亮(男子11番)の姿。
 そして横井を罵って、撃たれてその命をあっけなく絶たれた少女、
谷川つかさ(女子10番)の姿。
 そして横井の前になす術もなく、負けた自分の無様な姿。
―俺は…何もできなかった…、俺は…俺は…。
「俺は何で何も出来ないんだぁっ…!」
 
立川大成(男子12番)は思わずそう叫び、意識を現実に戻した。

「ん? 目、覚めたか? 大成」
 まず大成は、その言葉よりもここが何処かを気にした。
 自分が転げ落ちた急斜面が、すぐ目の前に見えた。そこで大成は、自分があれからずっと気を失っていたことに気が付いた。
 横井にやられた傷は、包帯で応急処置が施してあった。おそらく、目の前の少年が、してくれたのだろう。
 そしてさらに、その目の前の人物を見た。
 目の前にいるのは、金髪を振り乱した少年。こんな人物に、大成は見覚えがなかった…だが、それは間違いだった。
 ついさっきまで一緒にいた仲間、
姫野勇樹(男子15番)だ!
 大成はそれに気が付いた。
「勇樹…お前…その髪は…?」
 大成は身体を起き上がらせて、勇樹に言った。
「ああ、これか? お前を追いかけて急斜面を降りたとき、どっかに紐を引っ掛けてきちまったみたいでな。まあ、そんなのはどうでもいいだろ」
 勇樹は、いつも通りの顔で言った。
「そうか…なら、俺は行くよ」
 大成はそう呟いて、立ち上がった。
―これ以上、勇樹に迷惑をかけるわけにはいかない…。俺みたいな、何も出来ない奴といても…仕方がないんだ。
 すると、勇樹が言った。
「おい、何処行くんだ、大成」
「俺は一人で行動するよ」
「何だよそれ? やっと会えたんだろうが! 何いきなり一人で行くなんて言ってんだ!」
「俺は…俺は曽野やお前とは違うんだ!」
 自分の胸のうちを、大成は思いっきり叫んでいた。
「俺は何も出来ない! 谷川を守ろうとして死んでいった曽野や、富森をどんなことがあっても探そうとするお前とは格が違うんだ! 俺には守るべきものも何もない。何にも目的を持たずにただフラフラ歩き回ってただけだ! 比呂斗も! 邦幸も! 義教も! 俺は探そうとさえしなかったんだ!」
 勇樹は何も言わない。
「分かったか!? 俺は何も出来なかった、役立たずなんだ! 曽野は、行動するべきだって、俺に言ったけど…俺はさっき初めて行動したんだ! 曽野や谷川を殺したあいつを殺してやろうと思った! でも俺は…何も出来なかったんだ! やっぱり俺は…何も出来ないんだ!」
 途端に、顔に痛みが走り、大成はその場に倒れこんだ。勇樹が右手で、思いっきり大成を殴ったのだと、大成は認識した。
「ふざけんじゃねぇ! お前は…お前は大馬鹿野郎だ! たったあれだけで、お前は行動した、でも駄目だったって言い張るのかよ! あんなのは大したことは無いんだ! お前は自分に甘えてるだけだ! ふざけんな! お前がそんなに弱い奴だとは思わなかった! …じゃあな。失望したよ、お前には。何処ででも勝手に野垂れ死ね」
 そう吐き捨てると、勇樹は何処かへと行ってしまった。
「…」
 大成は、何も言えなかった。勇樹の言っていることは事実だと思ったからだ。
―たったあれだけで、お前は行動した、でも駄目だったって言い張るのかよ!
 その通りだった。きっと亮や、勇樹は大成のあのときの行動以上に、必死で、死ぬ思いをして、目的を果たそうとしてきたのだろう。
―お前は自分に甘えてるだけだ!
 これもその通りだと思った。弱音ばかり吐いている自分の姿が、今大成にははっきりと、鏡に写し取るかのように見えるような気がした。
―お前がそんなに弱い奴だとは思わなかった!
 この言葉が大成の心を深く抉った。悲しかった。勇樹にそんな風に罵られたのは、勇樹たちと付き合うようになってから、初めてのことだった。
―失望したよ、お前には。
 仕方の無いことだと、大成は思っていた。あれだけ弱い、自らの本性を曝け出したのだ。勇樹が失望するのも、無理の無い話だった。
「でも今更…どうすればいいんだよ…?」
 大成は、途方に暮れていた。

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