BATTLE ROYALE
最後の聖戦


第66話

 D−10に位置するエリアに建つ、神社。
 その境内に、一人の少年が立っていた。
 彼の名は、「教祖様」こと、
白鳥浩介(男子9番)
 彼は
姫野勇樹(男子15番)谷川つかさ(女子10番)に逃げられた後、集落側を回って、ここまでやってきていた。
 途中、信者の一人が
畑槙乃(女子15番)を監禁してしまった場所、J−5の旅館へと向かったが、旅館の出入り口は裏口も開かなくなっていた。おそらく、何かで扉を固定してしまったのだろう(多分、世良涼香(女子9番)がいたことに気付き、出入り口を封鎖して涼香も捕らえようと思ったのだろう)。
 すぐに浩介は、インカムで呼び出してみたが、応答は無かった。
 多分、自分の望みを認めなかった浩介に対する、裏切りなのだろう。とにかく、インカムでも応答は無い、中には入れないでは、浩介の介入する余地はちっとも無かった。
―どうしたものか…。
 会場の南側を回っても、大した収穫は無かった。無論、誰とも出会えなかった。
 自らのレーダーと、二丁の拳銃、そして「ボーナスアイテム」があれば、優勝の可能性はかなり高くなったといえる。
 だが、浩介は何となく、自分の行為は、「呉道教」の「教祖」として、恥ずかしい行為なのではないかと、感じていた。
―こともあろうに、信者たちにクラスメイトの人数を減らさせ、自分が優勝しよう、だなんて。
 この考えは、
板橋浩美(女子2番)太田裕一(男子3番)を殺そうとしたあたり(結局、裕一は浩介が止めを刺したが)、つまりゲームが始まってからすぐに抱いていたが、この考えは、坂之下由美(女子7番)が死んだあたりから、ますます加速した。
 だが、決してこの計画を中止にする気などはなかった。
 ただ、信者たちだけにやらせるのは恥ずかしき行為だと思ったのだ。
 だから、自分でも動くことを決意した。武器が充実していることも、そう決意させる要因となった。
 しかし、誰も見つけられない。
 もう上祭中学校3年生徒は、半分もいなくなっている。浩介の優勝は近づいていたが、それでも浩介は、誰も見つからないことに、多少焦っていた。
 きっと、浩美や(彼女は浩介が殺してしまったのだが。浩美とは幼馴染だった。浩介が「教祖」などにならなければ、彼女とも、こんな結末を迎えずに済んだのかもしれない、と浩介は思っていた)
吉田晋平(男子20番)がこれだけ自分のために頑張っているのに、何も出来ていない自分が、歯痒かったのかもしれない。
 この神社にも、誰もいないように見えた。だが、まだ探していないところがある。
 それは、社の中。
―仮にも教祖をやっている自分が、こんな神を冒涜するような真似をすることになるとはなぁ…。
 そう思いながらも、浩介は慎重に、実に慎重に社の扉を開けた。
 するとそこには、浩介の親友の一人、
国吉賢太(男子7番)が座り込んでいた。
「やあ、浩介」
 賢太は、全くいつもと変わらない調子で、言った。
「久しぶり…でもないか。賢太」
「浩介は…義彦たちと合流しなかったの?」
 賢太がそう言った。おそらく、
宇崎義彦(男子2番)が出発前に賢太、浩介、和歌山啓一(男子21番)に見せた、暗号のメモのことを言っているのだろう。
「ああ…暗号が、解けなくてな」
 浩介はそう答えた。もちろん、嘘だ。
 ただ、浩介は何となく、賢太は自分の嘘を見破るのではと思っていた。そうそう騙されるような奴ではないはずだ、賢太は。
「…嘘、なんだろ? 浩介…」
「…ああ、当たりだよ」
―やっぱりだ。
 浩介は思った。
 やはり賢太はこの状況でも変わることは無いのだ。そして浩介の判断からいくとそれはすなわち…。
 賢太が「乗っている」ことを意味する。
 途端に、賢太が右手に拳銃を握り、浩介にその銃口を向けた。
―予想通り!
 浩介はすぐに社から離れた。一発の銃声と共に、社の扉が片方、破壊された。
「凄い判断だったね…浩介。でも…僕は優勝したいんだ」
 いつも通りの微笑を浮かべた賢太が、社から出てきて、言った。
「生憎だが…俺も優勝を狙ってる。すまないが、死ぬわけにはいかないな」
 浩介は近くの石灯籠に身を隠し、手の中にあるコルト・ガバメントを賢太に向けて撃った。
 一発、二発、三発。
 賢太は素早く社の裏に逃げ込んだ。三発の銃弾は、賢太がいた場所で、跳ねた。
「僕は迷ったよ…優勝はしたいけど、友達を殺していいものかどうか、迷った。でも、今は迷いは無い、確証は無いけどね」
「…確証が無いんじゃ、駄目だな。俺は義彦だろうと、啓一だろうと、殺すことが出来るぞ? まあ、出来れば殺したくは無いがな」
「僕とあんまり変わらないじゃん。浩介も」
 二人は銃撃戦を繰り広げながら、そんな会話をしていた。
 これで、会話の内容がまともで、しかも銃撃戦中でなかったら、どんなに素晴らしいシチュエーションだろうかと、浩介は思った。
 すると、神社の入り口から、声がした。
 現われたのは、信者の一人、吉田晋平だった。
 すぐに晋平は、銃撃戦を繰り広げている二人に気付くと、浩介のいる石灯籠の裏に駆け込んだ。
「教祖様! 一体何をやっておられるのですか!? 目標のためにも、教祖様自身を危険に晒してはいけませんよ!」
「大丈夫…問題はない。私は自分でも動くべきだと思ったのだ」
 思わず、口調が「教祖様」をやっているときのものになってしまった。それを聴いたらしい賢太が、困惑した表情でこっちを見ていたが、すぐにまた撃ってきた。
 浩介も応戦した。
「教祖様!」
「いいから! 気にすることではない!」
 浩介は叫んだ。
 やがて、賢太の方で銃声が止んだ。おそらく弾切れになったのだろう。すると賢太は、何を思ったのか、反対方向へ駆け出していった。
―何だったんだ…?
「教祖様! クラスメイトの数を減らすことは、私たちに任せて下さい!」
「いや…君たちだけに、任せるのは良くないと思う」
「しかし…」
「とにかく私は行く。それでは、またいずれ指示を出す」
 浩介は、晋平にはわき目も振らず、駆け出した。晋平もやがて、神社を後にした。

                           <残り12+2人>


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