BATTLE
ROYALE
〜 最後の聖戦 〜
第67話
B−1の廃墟のホール内で、和歌山啓一(男子21番)は、一人作業に取り組んでいた。
作るもの。それは爆弾だ。
狩野貴仁(男子5番)が持ってきたガソリン(宇崎義彦(男子2番)に啓一は、貴仁は自分たちの前に現れる前に、とっくに死んでいたと説明されたが、本当にそうだとしたら、貴仁の魂とかが、身体ごとガソリンを持ってきたのかもしれない、と思っていた。そして貴仁のおかげで立ち直れた気がして、啓一は死後の世界に旅立ったであろう貴仁に心の中で礼を言った)と、啓一たちが持ってきた硝酸アンモニウムを混ぜるのだ。
だが、ただ「混ぜる」と言われてもどういう方法を使うのかと思っていたが、義彦が全て説明してくれた。
しかし、啓一には不可解に思っていることがあった。
それは義彦が、何故そんな一般中学生は知りそうにも無い、爆弾の製作方法を知っていたのかということだ。
義彦にも聞いてみたものの、義彦は「本来、俺だって覚えたくもなかったんだ」と俯いて言うだけだった。
そして今は、義彦が「二人で作っていたら無防備になるからまずい」と、見張りに出ている。あと30分で交代の予定だ。
「貴仁…津脇…城戸…菊池…」
啓一は、これまでに死んでいった、この作戦に参加した仲間の名前を呟いていた。
貴仁、津脇邦幸(男子13番)、城戸比呂斗(男子6番)、菊池麻琴(女子5番)。
―人が死にすぎた。この段階に辿り着くまでに、彼らだけでなく、他のクラスメイトも、もう何人も死んでしまった。
―死んだ仲間たちのためにも、俺たちは作戦を成功させなきゃいけない。それが、俺たちの使命なんだ。
啓一は、そう思っていた。
そして、残っているクラスメイトの人数を、啓一は反芻してみた(今回の放送は、啓一は上の空で聞けていなかったので、義彦から聞いた)。
14人。もう14人しかいないのだ。いや、特別参加者も加えれば、16人だ(尤も、放送の後で曽野亮(男子11番)と谷川つかさ(女子10番)が死亡したので、残りは14人なのだが)。
そしてその中には、啓一の親友たち―、国吉賢太(男子7番)と白鳥浩介(男子9番)もいる。
そうなのだ。彼らはまだ生きている。
賢太の柔和な微笑と、浩介のすっとぼけた顔が思い出された。
―賢太はどうしているだろうか? 義彦は「賢太は、まず間違いなくゲームに乗っている」と言ったが、本当にそうなのだろうか?
啓一は、義彦のその言葉については、半信半疑だった。
―浩介は…、一体どうしたのだろうか? 浩介は、今この会場の何処にいるのだろうか? 浩介も、ゲームに乗ってしまっただろうか? …いやそれはない。
啓一は、必死で頭に浮かんだその考えを自ら否定した。
―そうだ、浩介は殺し合いなんかする奴じゃない! 絶対そうだ!
そうやって、考えを巡らしている時だった。
「啓一」
突然、義彦がホールに入ってきた。見張りの交代はまだだというのに…何があったのだろう?
「どうした?」
「来客だ」
そう言って、義彦が連れてきたのは、顔が雪に濡れ、長く、後ろで括った髪もグシャグシャになっていた、姫野勇樹(男子15番)だった。
勇樹の表情は、憔悴しきっていた。
「姫野…」
「…宇崎から話は訊いた。大変だったな、お前らも」
勇樹は、ぶっきらぼうにそう言った。
「やる気じゃないようだし、色々情報が聞けるかと思ってな」
義彦がそう言った。
「とにかく…俺たちに、知ってることを教えてくれ」
すると、勇樹はゆっくりと語り始めた。
「俺は…杏樹を探してるんだが、途中で、谷川が吉田に襲われていて、助けたんだ。そしたら、谷川は、杏樹が記憶を失ってるって言ったんだ」
「ちょ、ちょっと待って!? き、記憶を?」
啓一は、訊いた。
富森杏樹(女子13番)が、記憶を? 一体、どういうことだ?
「そうだ。それから…谷川と行動を始めたんだが…国吉に会った。国吉はやる気だった」
「え…?」
啓一は、信じられなかった。賢太が、信じていた賢太が、やる気だったのだ。義彦の言った通りだった。
勇樹は、さらに言った。
「次に…比呂斗と菊池に会ったが、すぐに別れた。比呂斗は…ガソリンを持っていた。お前らのところに持っていくって…狩野を探すって言ってた。…でも、死んじまった」
それを訊いて啓一は、比呂斗と麻琴は、貴仁にガソリンを預けて死んでいったのだろうと思った。
「それから…島野を坂之下が殺そうとしているのを見て、坂之下を止めようとした。しかし…板橋に坂之下は殺された。板橋を追いかけていくと、板橋は結城も殺していた。そしてその板橋を…白鳥が殺した。白鳥もやる気だった」
「え…!?」
「何だと?」
今回ばかりは、啓一だけでなく、義彦も反応していた。義彦も、浩介がゲームに乗っているとは思っていなかったのだろう。
だが、勇樹の話は、さらに衝撃的だった。
「それだけじゃない。白鳥は…坂之下と板橋を操っていたんだ。あいつは板橋に、教祖様とか言われてた」
「そ、そんな!」
啓一は、叫んでいた。
浩介が、よりによって板橋浩美(女子2番)と坂之下由美(女子7番)を操っていたなんて!
「そんな…嘘だろ? 浩介がそんなことを…するはずが…」
「本当だ。現に奴は、俺と谷川に向かって銃を撃ってきたんだ。そして俺たちは逃げて…その後で大成と曽野に会った。でも、あの特別参加者の横井とかいう奴にやられて…谷川と曽野が死んだ。大成を俺は助けに行ったが、大成は弱音ばかり言いやがった。だから張り倒して、一人で行動していた。以上だ」
「そうか…」
義彦が、そんな反応をした。
「義彦!」
啓一は、義彦に苛立った。いくら親しくは無かった相手だとはいえ…そんな淡々とした反応をする義彦が、許せなかった。しかも、浩介がやる気になっていると訊いても、反応したのは最初だけ。それも苛立ちの原因になっていた。
だが、義彦はドスの利いた声で言った。
「啓一、いいか? クラスメイトの生き死にに一々驚いていたら、脱出なんて出来やしないんだ! 分かったな」
そう言われては、啓一には言い返す言葉は無かった。
「じゃあ、俺は行く。お互い生きてたら、また会おう。あとそれから…」
勇樹は一旦言葉を切ると、続けて言った。
「杏樹を見つけたら、また俺はここに来る。その時は、一緒に脱出しよう」
そう言い残すと、勇樹は出て行った。
<残り12+2人>